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遊城十代に置いて行かれた女の子


「んじゃ、行ってくる!」

そう言って。
出航の時間ギリギリまで彼の服を掴んで離さなかった女の子を、置いて行った男の子は誰だろう。
あれほど約束したのに送る手紙に返事がない、これでは文通ではなくてただの一方的なダイレクトメール。あなたの大好きが詰まった島から、遠く離れた場所にあなたを忘れられない女の子がいますと宣伝することに何の意味があるのか。

恋人ではないけれど、友人と呼ぶには少しだけ高い熱を帯びた関係。
それを特別だと思っていたのは、どうやらわたしだけだったようで、

(薄情な男)
____そんな薄情な男の子を、いまでも忘れられずにいる女の子は誰だろう。



「もう、手紙書かないんだから」

眉をきっと吊り上げて、泡風呂に沈むわたしを見て『少女』がクスクスと笑う。

「笑いごとじゃない、本気だよ。今回は本気だから、もう許さない。こんな無意味で虚しい片思い、もう終わりにするの」
「*** **」
「もう好きじゃないよ、あんなデュエルオタク!」

揶揄うようなことを言うから、転がしていた美顔ローラーを突きつけ宣言する。けれど、『少女』は余裕の表情で、悩ましいほどに長い足を組み直す。ティーカップの縁に肘を着いて、指先についた泡をピンと弾いた。

「** ****、**?」
「うっ、これは…別に。高校生になったんだから、美容のひとつふたつに興味を持つのは当たり前で」
「****?」
「あれは違う、今年の流行りが花柄で。あのワンピースは赤が一番かわいかったから選んだだけ、別に十代とお揃いとか考えてもないし」
「**〜?」
「本当だよ、もう変なこと言わないで!」

バービー人形ほどの大きさしかない癖に、『少女』はいつだって大人の女性のようにわたしを揶揄って弄ぶ。『少女』と初めて出会ったのは遠い昔で、『少女』はその時からずっと変らない容姿をしていた。太陽の光に透ける半透明の体は、『少女』が尋常の外にいる何かである証であった。

最初は幽霊の類かもしれないと怯えていたが、その正体は枯れ尾花ではなく精霊であると教えてもらった。…その教えてくれた相手が、件の問題男なのだが…今は割愛しよう。

信じがたいことだが、『少女』はデュエルモンスターズというカードゲームを通して、この世界と交信している異世界の存在らしい。そして『少女』は、その異世界からわたしを気に入って見守ってくれている守護者のような存在なのだと…。高校生にもなって何を言っているのかと思うかもしれないが、事実だ。

「〜♪」

ティーカップ一杯に組み上げた泡風呂に浸かって、ハミングする『少女』。たっぷりとしたカナリア色の髪を泡で透かす様子は、幻想的で美しい。

「ねえ、精霊ならひとっ走りアカデミアに行って様子を見てくるとかできない?」
「…** **」
「ち ちちち ちがうしっ別に十代の様子が知りたいんじゃなくて、あ アカデミア! アカデミアがどんなところか知りたいだけ!」
「**」

はあ〜しょうがないなあ、そういうことにしておいてあげますわ〜。と、言外に語る『少女』の笑みに、わたしは等々返す言葉を無くした。勢いで立ち上がりかけた体を湯舟に埋めて、大人しく美顔ローラーをころころ。ころころ。

(…十代のバカ、)

___わたしを振り払ってまでアカデミアに言った癖に。これでもしデュエルそっちのけで女の子にかまけていたら、承知しないんだから。
怨念タップリにころころころころ、と一心不乱にローラーを転がすわたしは不気味だったのだろう。『少女』がティーカップの中で少し身を引くのが見えた。

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