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マーリン様は推しであって、恋愛対象ではないんです!



「そ、そういうことはしません!!」

その声は、思っていたよりもずっと大きな声になってしまった。
普段からは想像つかない声量に驚いたのはわたしだけではないようで、わたしを____机台に押し倒した魔術師もまた、ライラック色の瞳をまあるくして薄っぺらい笑みと共に首を傾げる。

「恥じらいは女性をより魅力的にするエッセンスのようなものだ。なあに直ぐに慣れるとも、何事もはじめてというのは緊張するものだからね。少しずつ慣れていけばいい」
「そうではなくで、そうではなくて」
「そうではなくて、そうではなくて?」

もぞもぞ体を裏返して、せめてと俯せになる。そのまま這いずって逃げようとも考えたが、背後からどすりと圧し掛かってきた重いものの所為で失敗に終わった。ぬわーーー!なんかよくわからないけど、すんごくいいにおいする!!!!(混乱)

「わからないなあ。君は常日頃から『わたしが好き』だと言って回っているじゃないか、ならばこれは喜ぶべき場面だと思うのだけれど」
「あ、ちょ やめ、ソレ おしつけないで」

腰を掴まれて、ぐんっと腰を押し付けられる。ローブ越しでも感じる熱い熱、お尻のラインにぴったりと合わさるような棒状のものが何かなんて知れていて、かあと体が火を噴いた。それだけならまだしも、何かを暗喩させるようにそこを押し付けてくるから、浅ましい女の部分がずくりと呻き始める。

「夢魔を相手にするというのはこういうことだ、この位の打算は考えていなかったのかい」
「っ〜〜〜!」

「ねぇシノ、君はわたしのことが『好き』なんだろう」

腰を持ち上げられて、ぐりと熱を押し当てられる。わたしを抱きしめてくれる腕が、耳元で吹き込まれた優しい声が、ぐわんぐわんと視界を揺らした。違う、揺れているのはわたしの理性だ。拒むように目を閉じても、彼の猛攻は止まない。「シノ」と甘く恋人に睦言を囁くように、名前を呼んで。ああ、嗚呼わたしは…、____わたしが誘惑に墜ちそうになっている様を見て、彼が愉しそうに瞳を歪めるのを感じた。


「っ、___!」
「おっと」


「あ、あなたは推しでっ、恋愛対象は違うんですーーーーーーーーーーーーー!」


ですーーーーーー

ですーーー

デス-





深夜のキャメロット城に、わたしの声は良く響き渡ったという。
後日。みっちりとアグラヴェイン卿に嫌味を言われながら、アーサー王にも遠回しの注意を受けた。ログレスの都のトップとも言える要員に直々に叱られ、ずどんと暗い気持ちを抱えながら這いずるようにして外廊を進む。

(どうしてこんなことに)

ふと見上げた空は高く、風が乾いた土の香りを運んできた。厳格な面持ちで見回りをする兵士たちに、挨拶をしながら記憶を反芻する。




そもそも、目が覚めた時にはすべてが始まった後であった。突然記憶している世界よりも遥か過去の非文明圏で目が覚めて、異世界転生宜しく特別な力(魔力)に目覚めたわたしは当然のように魔術師となった。生きるための日銭を稼ぐためには、参加した戦争でわたしは運命の人と出会う。

我らが輝けるひと、ただ唯一のまばゆき王
ブリテン島が定めるただ一人の正当な王位継承者、アーサー・ペンドラゴン_____そのうら若き少年を擁立した立役者にして、預言者マーリン

その時わたしは正しくすべてを理解した。脳裏を駆け抜けたのは怒涛の記憶、それはユーザーのアバターとなった少年/少女が『英霊とともに、世界を救う物語』。7つの断片、3つの秘跡、そうしてはじまる白紙世界への旅路。

(転生したらFata世界でモブ魔術師だった件について____!)

あまりの驚きに、思わずラノベタイトルのようになってしまったが許してほしい。その物語を辿る中で、わたしが最も愛して止まなかったキャラクター。何時だってマイルームでたったひとりに登録していた英霊、十の聖杯を捧げた境界記録帯(ゴーストライナー)…魔術師(キャスター)マーリン、

これはチャンスだ、きっとこんなチャンスは二度とない。
自分から手を伸ばさないなんて愚者のすること。例え行き着く先が茨の道であっても、わたしは赤い靴を履かされたって綺麗に踊って見せる。だから、

「好きです____!!!!!!!!」
「おや」
「弟子にしてください!!!!!」

大分言葉の選択を間違えた気がするが、きっちり90度お辞儀して頼み込んだ。一拍置いて、マーリン様が「え、そっちかい」と少し虚を突かれたような声を出したが、なんだかとてもすごく可愛らしくてそれだけでこの先20年位寿命が延びた正直ご褒美ですありがとうございます、じゃなくて。…ゴホン。

そんなこんなで。彼の愉しいこと好きの妖精の性が見方をしてくれたのか。わたしは思っていたよりもあっさりと、彼の門弟になることが許された。これぞ、本当にあった嘘みたいなはなし!今日からわたしも推しの弟子だあーーー!と、

まあ、そんな簡単なわけは。もちろん、ないからして。



「君は自分から売り込んでくるほどに優秀な魔術師なのだから、このくらい訳ないと思うが。うん、まあそういう訳だ。じゃあ、あとは任せたよ」
「はへ」

そういって、マーリン様はさっさと出て行ってしまう。彼の靴と楽園の杖の石突が床を叩き高い音を響かせる。それが遠く聞こえなくなって、わたしは漸く目の前の…現実と向き合うことができた。


血で錆びついた鎖、捕らえたものが逃げ出さないように肉へと食い込む鉄の刺。剣が裂いた傷が腐敗して蛆が湧いている、息を忘れた汚物塗れの死肉に群がるネズミ。_____凄惨な拷問のあと、いや、その途中というのが正しいか。

新しく兵士によって牢に投げ込まれた人間は、遠い海の向こう側にある国の鎧を纏っていた。マーリン様が施した魔術で脳みそを掻き回されて、まともに言葉すら喋れない肉塊相手にわたしが命じられたことは…その“つづき”だった。


「う   、」
____ウソだ、ドンドコドーーーーーーン!

わたしは正しく膝から崩れ落ちた。…ああ、考えて見れば当然か。あの世界線は、ここから遠く千五百年近い未来のはなしなのだ。その間に魔術師マーリンは自らの行いを悔い改め、自らを楽園の尖塔に封じ込めた。

いまは、それよりも前の時代なのだ。少年/少女に見せた爽やかな正義の人ではない。…残虐無垢な妖精の性が思うままに、あらゆる非道を前にただひとつの感傷すら抱かない非人間。それが、いまの彼…ブリテンの筆頭宮廷魔術師マーリンという“妖精”だった。

____解釈違い。

まず、そんな言葉が脳裏を過った。

____だが、またそれも良し。

しかし、オタクはただでは起きなかった。

後から知ったことなのだが、あの地下拷問室は正しくはマーリン様の研究棟の一角らしく。人間の生態や精神構造、そういったものを直接触れて、限界を確かめて、切って破いて繋ぎ合わせて、感情を学び、エネルギーを得るために宮廷魔術師としての仕事と妖精としての好奇心や実益を得るための場だと。

早い話が、マーリン様専用の人間工場(ただし、行われているのは人体実験)である。まさか解釈違いがグロい方に振れるとは思いもしなかった、現実って世知辛い。

そんな初手からR-18(G)に放り込まれたおかげで、諸々耐性ができて…それでもなお、自分に従おうとする人間は物珍しいのか。マーリン様のお眼鏡にかなったわたしは、いまや立派なブリテンを支える宮廷魔術師のひとりであり。マーリン様の秘書官として、そこそこ顔の知れたモブに昇格した。やったねシノちゃん、これで推し活ができるね!





(そう思ったら、アレだよ…)
________そうしてこうして、現在へと至る。

あの後、知らない「推し」という感情に興味を示されたマーリン様に一晩中取り調べを受けた。逃げようとすれば、召喚した謎の植物の触手に囚われてつるし上げられ「それは人間の恋愛感情と、どう違うんだい」「同じ感情ではないのに『好き』という表現を使うのはどうしてかな」「生殖に結び付けられない理由は」とすらまじい辱めを受けた。推しを前に!推しの意味を説明しろとか拷問!!!!

泣いて叫んでもう許してと叫んだが、駄々を捏ねると仕方ななあと直接脳内に干渉しようとするから、どんなに羞恥プレイでもわたしは洗いざらい吐くしかない。だってそれされると、もう人間性なくなるやん!!この前それされた人、一瞬で口から泡吹いて目が右と左違う方にぐるんってなったグロ映像見せられてんだとこっちは!しかもそれをみて「面白いねえ」って笑うマーリン様も知ってんだよ!!

「ありえない…」

ブリテンの空を見て呟く。いや、もうね。人を殺めたとか、そういうのは今更なんだ。そういう時代だからね、割り切らないとこっちが死ぬもん。そうじゃなくて、わたしが恐ろしくて、辛くて、悲しいのは______そんなものを目の当たりにしても、まったくもってマーリン様を推している自分のオタクっぷりに驚愕している。わたしいつの間にか人間やめて魔術師になったと思ったら、そうじゃなかった。人間やめてオタク(推し以外に人権なし)に進化していたことに驚いている。メタルグレイモンのつもりが、実はスカルグレイモンに進化していたことに気づいたみたいな衝撃だよ。

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