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両面宿儺妹つづき未満


酷く悲しい夢を見た気がした。込み上げる嗚咽が苦しい、胸が軋んで悲鳴を上げている。覚えていないのに、忘れるなというように脳裏に刻まれた光景がある。それが瞼の裏を何度もチラついて、情報を知覚する度に肌の内側を怖気が走り回る。

酷く冷えた体を掻き毟り、土に額をついて泣叫びたいほどの衝動。
そんなものに襲われたものだから、終ぞ心配そうにこちらを覗き込んでいるシノに、虎杖悠仁は言葉一つ投げかけてやることができなかった。



虎杖悠仁の生家の隣には、数え3つ年の離れた女の子が住んでいる。

両親が仕事の都合で家を空けることが多く、悠仁に良く懐いていたため虎杖の家で預かられることもしばしあった。虎杖が高校生に上がると、それまでランドセルを背負っていた少女は、セーラー服をまとった女子学生となった。それだけのことなのに、途端に大人びた顔をするから悠仁はひどく寂しい気持ちになったことを覚えている。

「どこか痛いところはない? 具合が悪いなら、病院の先生に診てもらった方が」
「大丈夫だって、もう元気だから。ほら、」

流行りのプロレスラーの決めポーズを真似ても、彼女の顔色は晴れない。そもそもネタのチョイスを間違った気さえする。気まずさを誤魔化すように頬を掻いて、話題を変える。

「今日の卵焼きなに味?」
「昨日甘いのだったから、しょっぱいのだよ」
「料理上手くなったなぁ〜」

シノ。そう呼ばれた少女は、少しだけ目を丸くしたあとぷくりと頬を膨らませる。どうやらそれを理由に料理当番をサボろうとしていると思われたらしい。違うのだと慌てて取り繕い配膳を手伝うも、シノの不機嫌は中々解れない。

「お兄ちゃんのバカ」
「…ごめんて、シノ」

へなりと笑って見せるも、シノはぴしゃんと戸を閉めてしまった。…今日は別々に登校ですね、わかりましたハイ。

スニーカーを引っかけながら玄関を出ると、近所のおばさんに「今日はひとりなの」「妹さんは」と声をかけてくる。最早、兄ではないと一々口にするのも面倒で「今朝ケンカしちゃったから1人ッス」と笑って返した。

何時からかは覚えていない。気づけば、小さな妹分は悠仁のことを「お兄ちゃん」と呼ぶようになっていた。元々、妹のように思っていたし…その言葉が、酷く自分の中でしっくりきて。悠仁は当たり前のようにそれを受け入れた、その日から悠仁とシノは兄妹だ。

(血の繋がりも、戸籍も関係ないけれど)

例えば、シノに何か悲しいことがあったのなら。自分は命を賭しても、それを振り払おうとするだろう。言葉で説明することが難しい感覚だった、漠然とそれが”当然“だと感じているのだ。悠仁の中の奥深くで、斯くあれと断言するものがある。

(もう二度と、___)
_____失って、なるものかと。








「虎杖___!!」

だから、ここで死ぬわけにはいかない。
色濃い夜よりも尚仄暗い、蟲毒の底を掻き毟る鉤爪。まるで引き寄せらえるように口の中へと堕ちるそれを受け入れる。

ごくりと喉が鳴った。一飲みにするには大きすぎるが、不思議と喉にひっかかることなく悠仁の内臓へと“指”が堕ちていく。まるでそれが合図であったというように、死んだはずの指が心臓のように脈動する。どろりと蕩けて、悠仁の内側に真っ黒な海が生まれる。それは瞬く間に体の隅々まで行きわたり、悠仁の意識を黒く塗り潰す。

これは“オセロ”だ。
パチン、パチン___パチン、  そうして、虎杖悠仁の意識は反転する。







パチン







「あ」

____お茶碗が、割れてしまった。


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