ワタルが娘のプレゼントを選んでいるwith外野
カンナが、セキエイリーグの四天王を辞退して5年程が経った。
久しぶりに訪れたセキエイ高原ポケモンリーグ本部。街には知らない光景ばかりが溢れていたが、ここは記憶にある姿と何も変わらない。歴史重視とは名ばかりの時代遅れな装飾、ヒールの音がイヤになるほど響く石造り。今覚えは、どれもこれもがカンナの趣向に反するものばかりだ。
故郷のナナシマとは異なるこの地で、四天王を務めた4年間。恐らくカンナの人生における最盛期、だがそれは他人からの評価。思い返せば、何もかも我慢してばかりの日々であったと思う。
「お久しぶりです、カンナ様」
「ええ、あなたも。元気そうでなによりだわ」
ロビーの受付に顔を出せば、受付嬢が完璧な笑みで迎えてくれる。オフシーズンに訪れるチャレンジャーは限られているのに、その佇まいには隙がない。ここではそれが当然だ、誰も彼もがトレーナーにとっての最高峰セキエイリーグの格式に相応しい在り方を求められる。
悪く言えば息が詰まる職場、その職務を今も尚全うしている彼女には感服する。故郷のナナシマですっかり毒気を抜かれてしまったせいか、ああやはり今のわたしではここには戻れないなと思う。懐かしさに混じって僅かに感じていた名残り、それに漸く踏ん切りがついた。
「チャンピオンよりご予定は伺っております。どうぞ、お通りください」
「ありがとう」
かつんと。ヒールの音と一緒に、思い出を蹴り飛ばす。
来客用のIDを手にエレベーターホールへと進む。リーグスタッフが気を利かせてエレベーターを呼んでおいてくれたらしい、お礼を告げて目的の階へと向かおうとしたが。スタッフに声をかけられたので、慌てて開ボタンを押した。
「チャンピオンは現在5階の第四会議室に居られます」
「あら、もしかして会議が…」
「いえ、会議は終わっています。なので、そちらに行かれて問題ないかと」
突っぱねる理由もないので、ありがとうと言ってカンナは5階のボタンを押した。
「あら」
思わずそんな言葉が零れた。驚いたのは相手も同じのようで、良く磨いた鋼色の瞳の青年は、カンナを認めると少し驚いたように目を見開いたが、すぐにかたりと立ち上がり柔らかい笑みを浮かべる。
「まさかこんなところでお目にかかれるなんて、思いもしませんでした。初めまして、ミスカンナ。僕は、___」
「自己紹介は必要ないわ、良く知っています。ホウエンより遥々セキエイへようこそ、チャンピオンダイゴ。こちらこそ会えて光栄だわ」
差し出された手を拒否する理由はない、快く答えて挨拶を交わした。セキエイと同じく、ホウエンリーグもあまりメディア露出をしていない、なので彼の顔を知ったのは専門誌。バトルの腕についてはトレーナー同士の人伝で聞き及んでいる。かなりの使い手で、専門は鋼タイプだとか。
そんなことを思いながら、既にバトルの算段を練り始めている自分に半分呆れる。今日はバトルしにきたわけでも、彼にチャレンジにきたわけでもないというのに。早めに切り上げるべきかと、会いに来た人物を見れば…当のワタルは、こちらに一瞥もくれず真剣にパンフレットを睨みつけていた。
その様子は傍から見ても緊迫していることが解る。トレードマークでもあるマントを横に放って、袖まで捲ってパンフレットと向き合っている。もしや何か重要な案件に動きでもあったのだろうか、状況が把握できずに声をかけあぐねていると。それを見て取ったのだろう、ダイゴがくすりと笑って答えを教えてくれた。
「さっきからずっとあの調子で、中々決まらないみたいです」
「え、」
「___プレゼント」
秘密事のように告げられた言葉に、一拍置いてああと得心が行った。
「そういえば、…もうすぐ誕生日だったわね、あの子」
この堅苦しくて息がし辛い場所に不釣り合いな、小さな少女。ワタルの足を掴んで、マントの中に隠れているのがお決まりの姿。こんにちはと声をかければ、小さな声で少しだけ応えてくれる。その声があまりに小さいとワタルに怒られて、良くピィピィと泣いていた。
「シノ、今年でいくつだったかしら」
「10歳だ。去年、君からバースデーカードが届いたと、喜んでいたが」
返事は意外なところから降って来た。どうやらカンナの存在には気づいていたらしい、ワタルがパンフレットをテーブルの上に放って、ぐいと眉間を揉んでいた。
「ええ、贈ったわよ。今年も贈るつもりだけど…そうね、折角の成人の年だもの。プレゼント考え直そうかしら」
10歳と言えば、この地方では子供が大人になる成人の年だ。カントー地方では、10歳になった子どもをポケモンと一緒に旅立たせる慣習が今も色濃く残っている。ならば、キャンプグッズなどを贈っても良いかもしれない。もちろん、ずいぶんと過保護になった保護者がそれを許すかは別にして。
「カンナさんは毎年なにを贈られているんですか」
「わたしはポケドールね。だってワタル、シノにオモチャの一つ買ってあげていなかったら」
「…カンナ、その話は」
「え、そうなの」
「小さい女の子って言ったら、普通はかわいいワンピースを着てぬいぐるみとドールハウスで遊ぶものでしょう? なのにワタル、シノにスタッフが用意してくれた男女兼用の量産品ばかり着せるのよ。しかもオモチャの代わりと言って小難しいポケモン育成本やら、ドラゴンポケモンの生態図鑑を3歳の子に渡しているワタルを見た時のわたしの気持ちわかるかしら」
「うわぁ〜」