酔っぱらった彼女を迎えにいくフロイドリーチ

「ミワ、アンタめちゃくちゃ酔ってんじゃない。本当に一人で帰れるの?」
「ヨユウ!」
「本当かよ あ、ヤベ。終電きちまうぞ、いこいこ」
「じゃあまたね〜」
「解散」
「バイバーイ!」
久しぶりの飲み会は大変楽しかった。
帰宅方法に応じて解散すれば、わたしは一人きり。街の明かりが少しずつ落ちて行く時間帯だが、酒気に浮かれていることもあって全く怖いとは思わない。
ふわふわと幸福感に満ちた思考、ぽかぽかの身体に冷たい夜の風が心地良いくらいだ。
(ちゃんと帰らないとね〜)
家までは徒歩で帰れる距離だから交通機関の心配はない。ゆっくりでも歩けばいずれ着く、家に着くころにはきっと酔いも冷めているだろう。あ、トイレ行きたい。
酔っ払いの足取りで最寄りの駅に入り化粧室を借りる。手を洗っていると、ブルブルとカバンが震えた。なんだなんだ、もしかして忘れ物でもしたか。軽い気持ちでスマホを取り出したが、そこにぽんぽんとあがってきたメッセージを見てスンとなる。
Floyd 20:04
終わりそう? 迎え行くから連絡ちょーだい
Floyd 20:21
まだ?
Floyd 20:45
不在着信
Floyd 21:00
フロイドリーチが21時をお知らせします
「…」
Floyd 23:56
いまどこ
「あまいもの、たべたーい」
ずぼっ勢い良くとカバンにスマホを戻す。ついでに着信音が聞こえなかったと偽装するために一番奥に押し込むことも忘れない、ヨシ。これで完璧だ、酔っているがわたしは冷静である。なので駅のコンビニでカップスイーツを購入して、人の寄らなそうなベンチでデザートをキメるのだ。ほらまったく、酔って、ない!
カップのテープを剥がして、甘い生クリームがたっぷり乗ったケーキを一口。美味しい!二口目を運びながらぼんやりと思い出す、今夜会場となったあの居酒屋。料理は全部美味しかったがスイーツがないのが難点だった、〆に出てきたラーメンは絶品だったので文句はないが。
スイーツを堪能しながら、ぽつぽつと駅から流れていく人を見つめる。みんな思い思いの夜を楽しんだのだろう、笑顔で帰宅する様を見ているとこちらまで幸せになる。
わたしもコレを食べ終わったらお家に帰ろう。最後の一口をきっちりプラスチックスプーンで掬いとって口に入れようとしたが、ぐいと突然かかってきた力によってそれは拒まれてしまった。
何かとみれば、がっしりとわたしの腕を掴んでいる手が。
薄っすらと青みのかかった肌に、一瞬ゴーストかと思ったが違うらしい。だってそれは、わたしの腕を引いてプラスチックスプーンに噛みついて見せたのだ。ゴーストはケーキ食べられない、だからこれは人間だ。それもわたしが良く知っている、とびきりカワイイ人。
「フロイドだあ」
「…」
ニッコニコ笑顔で言い当てたというのに、ターコイズブルーの髪から覗いた垂れ目は酷く恨みがましくこちらを睨んでいる。そうして返事の代わりに、ばきんっと。スプーンの先っぽを噛み切ってしまった。
あ〜…。と、先っぽなくなっちゃったスプーンを悲し気に見つめていると、フロイドはかみ切ったスプーンの先っぽを舌べらで出した。ンベ、って。かわいい。取ってあげようとしたのに、逆にスイーツのカップを奪われてしまった。空っぽのそれに吐き出して「マズ」と不機嫌そうに吐き捨てる。
「マズって、自分で食べたじゃない。スプーンが好きなのかと思った」
「ンな訳ないじゃん てかさ、なんでメッセ返さないの? 俺さあ、パーティ終わったら電話しろって言ったよね? なに、その耳ヒレ腐ってんの?」
「だっこ〜!」
「俺のはなし聞いて???」
そうとう頭にキテいるようで、顔がヒクリと痙攣していたがわたしの知った事ではない。両手を広げて見せると、フロイドが半ギレ顔で「ああ゛?」と睨みつけてくる。
そんなもの酔っぱらっている恋人には無意味である、じいーとこちらも見つめ返せば。やがて込み上げてくる恨み辛みの百万語を煮詰めた様な重いため息をついて、長い腕が億劫そうにわたしの身体に凭れてくる。ヤッター!
「あのさ、俺怒ってんだからね」
「おんぶがいい!」
「3時間も無視とかありえないから」
「視線たかーい!たのしー!」
「ぐっ」
楽しくて思い切り後ろから抱き着けば、フロイドが苦しそうに呻き声をあげた。「ごめんごめん」と力を緩めて、彼の首に腕を絡める。すこし冷たい体が気持ち良くて、頬っぺたを寄せてフフフと笑えば。フロイドがまた溜息をついて、よいしょとわたしのことを抱え直す。
「乗った? 落ちないでよねぇ〜、酔っ払い」
「ふあ〜い あ、ゴミ忘れた」
「俺がやるからいーよ」
わたしの足を抱えながら器用に指を鳴らす。そうすると水銀色の魔力がゴミを浮かして、ぽいぽーいときちんとゴミ箱に入っていく。
「シュートが決まった、フロイド選手の100点!!」
「はいはい」
「えへへ お酒美味しかったの、コンビニのね スイーツも美味しかった!」
「俺が作ったほうがうまいし」
「ミワちゃん、もうだ〜いまんぞく うへへ」
フロイドがわたしをおんぶして歩いてくれる、その揺れが心地よくていまにも眠ってしまいそうだ。眠らないように足をぶらぶらさせたら、大人しくしていろと怒られてしまった。
「ふろいどぉ〜」
「んー」
「おむかえ、ありがと ねぇー… 」
ぷつぷつと意識が途切れ始める。ああ、これは抗えない。額をフロイドの肩に擦り付けると「寝ていーよ」と優しい声がする、だから許された気がしてわたしは優しい夢の中に落ちていく。
フロイドは人魚なのに、わたしより2つの足で歩くのが上手だね。そんなことを思ったからだろう、夢の中で2本足が生えたブリに追いかけ回さてしまった。うん、悪いことというのはするものではないね。