夢ノ咲学院を卒業した元3-Aで忘年会
「やっほーことっち」
「やほーはーちゃん」
年末某所。二十歳を迎えた同級生グループで集まることになった。アイドル業界という華やかな世界を抜けて一般企業に就職したわたしにとっては、ある意味に寝耳に水であった。正直不安であった。だってわたしだけ一般人だし。いいのか混ざって。いいのか!?と予約した店※羽風チョイスに一番乗りに到着しひとり枝豆をもそもそしながら考えていたわけだが、それもすぐに杞憂だと知れた。
「久しぶり、最後にあったの何時だっけ? うわあ〜ことっち変わらない」
「それはいい意味で?わるい意味で?」
「もちろん前者。ことっちは学生の頃からずっとかわいかった」
「そりゃどうも。お礼に枝豆剥いておいてあげる。ビールで良い?」
「エビスある?」
「あるある」
卒業後も、学生時代と同じメンバーでUNDEADとして活動している羽風薫は今ではティーンズから圧倒的支持を得るトップアイドルだ。中でも羽風は俳優業としての活躍も目覚ましく、主婦層の人気も高まっている。ニット帽とメガネ、どこからみても変装グッズを脱ぎ捨て、最後に高そうなチェスターコートを脱いでニット姿になった。
「はーちゃん身長伸びた?」
「ん ちょっとね まだ朔間さんは抜けてないけど」
「いくつ?」
「182センチ」
「マジか… え、朔間さんいくつよ」
「185センチ 日中寝てばっかなのになんで育つのか解らないんだよね」
「実は吸血鬼じゃなくてもやしなんじゃない」
「それね」
いそいそとわたしの前に座りながら羽風が笑う。UNDEADではひっそり皮肉を込めて遅れて来た成長期(笑)と揶揄しているらしい。するとポケットを漁っていた羽風が最新のアイフォンと一緒にタバコを取り出した。おもわず「あ」と言ってしまう。気づいた羽風が「あ」という。
「ごめん。ことっち煙草NG?」
「ぶっちゃけ。なに煙草吸うの?」
「あー……そっか、俺の周りヘビースモーカーばっかだからあんま気にしたことなかったけど。 そういえばせなっちともりっちも嫌煙家だわ」
「喫煙者には厳しい世の中だね。この世は民主主義、吸う時は外でお願い」
「…」
「なに」
せっせと羽風用の枝豆を剥いていると、じっと羽風が見てくる。イケメンからイケメンへと進化した羽風に見つめられるのは居心地が悪い。きっと睨みつけると、「いやさ」と羽風がへらっと情けない顔でいう。
「なんか…こういうの新鮮」
「はい?」
「いや、ちがうな…久しぶり? うん、久しぶり。いいね、やっぱこういうの!」
「? とりあえず枝豆たべな」
「いただきまーす!」
何故かのりのりの羽風は両手を合わせてお利口さんである。なんだこいつ。なんなんだ。もやもやしながら近状報告をしているとツマミが足らなくて一品、また一品と小皿が増えて言った。空グラスが3つになるころ、からりと個室の襖が開いた。
「うわっ もう始まってるしぃ」
「あ、せなっち ヤッホー☆」
「やっほーいーちゃん ヤッホー☆」
「うわあ ちょうウザい 来て早々酔っ払いに絡まれるとか最悪なんだけどぉ」
瀬名泉、ご到着である。どうみてもカタギに見えないサングラスとライダージャケット、いや、瀬名は変装しなくても話しかけちゃいけないオーラがあるからなあ。べつに素面でもいいんじゃないの?いやーでも天下のKnightsがどうたらこうたら。羽風とダベっていると、ハイネック姿になった瀬名が「ちょっと詰めてよねぇ〜」とわたしを足蹴にする。ちょ、いたい!
「ちょっとぉ 俺のおしぼりどこぉ。ことにゃん気ぃきなすぎぃ」
「ここだよほら!」
「せなっち ビールどこ派? 俺はエビス一択」
「あーもうちょうウザい。酒くさい、 デュベルちょぉだーい」
「え、何 なんていった デュ、え?」
「せなっち、デュベルって和食に合わなくない?」
「どうせまだ食べはじめないでしょ。 それになにを飲むかは俺の勝手ぇ かおくん生意気」
「デュエルってビール初めて聞いた… さすがいーちゃん。Knights大好きだもんね」
「デュエルじゃないからっ デュベル!! ほんとっことにゃんそういうところ変らない!ちょぉウザい!!」
「あっははははは!」
この時点で、本日の集まりはほどほどダメな会になることは決定していた。それにしても守沢が来ない。これはどういうことだとみんなでラインしたが反応はない。良い感じに酔って来た瀬名が「俺を無視するとかちょうウザいありえないんだけどぉ」と言いながらグループラインにスタンプを投下し続ける。律儀に数えた羽風いわく100を超えたらしい。なんという執念、おそろしい。
「てか腹減った。もうしらん。ちーちゃんなんていなかったんだ」
「肴さけで腹いっぱいとかマジありえない。 ことにゃん、お品書き俺にも見せてぇ」
「あ、ここね。俺の行きつけの店なの、カニ鍋マジで美味いんだよね」
「どのくらい」
「前朔間さんつれてきたらさ、絶賛した」
「マジか」
「あの自称吸血鬼カニ嗜むの? 今時の吸血鬼ってハイカラだねぇ」
「やめたげていーちゃん! 朔間さんもキャラ付に必死なのよ!」
「二人の会話録音して朔間さんにきかせたい」
「やめろよなほんと! いーちゃんはいいけどわたしはやめろ! 絶対あの人覚えてないって!」
「いやいや覚えてるよ? 今日もさ、UNDEADで収録あったんだけど、今日のこと言ったら『アレか、若くないほうの嬢ちゃん』 『我輩も行きたい』って言ってた」
「若くないほうの嬢ちゃん!!???」
「ふっ ははははははは! 若くないってちょううけるんだけどぉ!」
「いっとくけどわたしたち同い歳だからな!!!!」
だが羽風は昔と違って優秀だった。カニ鍋は予約限定らしいが、しっかり個室と一緒に予約していたらしい。わたしは大拍手で羽風をたたえた。瀬名がやる気なくて机をぱしぱし片手でするから、わたしが両手をもって拍手させた。そしたら「ちょっとぉ手が荒れるんだけどぉ」と文句言われたのでもうしらん。絶対カニの身剥いてやらん。ついでにサラダとかから揚げ頼んだ、頼んだは瀬名である。今日は諸々解禁日らしく、楽しそうに食べたいものをチョイスしていた。その横顔が子どものように輝いていたということだけ記しておく。よかったなあ瀬名、お前柔軟になって…。
「あ、俺すっごいカニ剥くの下手」
「見たらわかる。わたし剥いたげるから、ほらこっち食べな」
「うわーことっちやさしい めっちゃカニ剥くの上手いし、やばい…結婚したい」
「何時のネタだよそれ」
「ねえちょっとぉ 俺の分は?」
「知らん勝手に食え」
「ことにゃんのクセに生意気なんだけどぉ! 俺の分はあー!!!!」
「うっせぇぇぇぇえええ 酒癖悪いな瀬名ぁ!」
「あははははははは!」
ちなみに酒に酔うと羽風は笑い上戸で、瀬名はあまえたがりになることが判明した。途中から和座椅子ほっぽり出してわたしの椅子半分奪ってくるし。腕からめて恋人みたいによっかかりながら酒をちびちび飲むの止めて欲しい。女子か。羽風がズルイーとかいうがおま、これホント迷惑だからな?酔ってない方には迷惑以外の何物でもないからな?
そうしてダベってカニ鍋が終了。女将さんに〆に雑炊がありますというありがたい申し出があった。ぜったい美味いって。めっちゃカニ出汁でてるし、やばいよこれ。わくわくと雑炊を待っていると、チャラチャラ〜とどこかで聞いたことのある音楽が流れて来た。
♪なげれぼしに〜 願いをかける思いを〜
そして聞きなれた声である。嫌な予感。
「だから…ヒーローになるんだ 絶対!!!!!」
「うっわ きたよ」
「燃えるハートのメテオレンジャーレッド!! 守沢千秋っ 参上!!!」
「れっどかっこいいー!」
「めておれんじゃー!」
遅れて来た千秋が近所迷惑なBGMと一緒に登場した。しかも足元に知らない子ども達がいるんだが。羽風がおもいきりビールを吹き出したのは言うまでもない。「ことにゃん、カニできたらおこしてよねぇ」と瀬名が膝枕を要求してくる。ちょっと黙って、あとカニはできないから。
「なにしてんのちーちゃん」
「うん、久しぶりだなことり!!! いや遅れてすまない、子ども達に見つかってしまってな!」
「れっどかっこいい サインちょうだい!」
「はっはは! もちろんだ!」
「れっどー ぼくも!」
「まてまて、レッドはどこにも逃げも隠れもしないぞ!」
「あのお客様、他のお客様のご迷惑になりますので、」
「めっちゃ迷惑かけてんじゃん!!! 外でやりな守沢!!!」
どうやら千秋は収録後、変装しないで店まで来たらしく。途中で何人ものファンにつかまり到着が遅れたらしい。子ども達も個室に来るまでに見つかってしまったお客の連れであったらしく、さっさと返して戻って来た。
「にしてもなんかこれは… すでに終盤と言う感じだな!!」
「そうだよ。もう終わりだよ、なにやってんのアンタ」
「もりっちなんか頼む? 俺はムリだけど、きっとことっちが付きあってくれるよ。 あれ、せなっちは?」
「寝た」
「マジか うわっせなっちあどけないっ 寝顔天使みたいじゃんっ ちょっと写メっといてよ! 後で後輩に見せるから」
「はーちゃんそういうところあるよね」
「むっ 羽風、そういうのは良くないぞ! ところでことり俺のカニが見当らないんだが!!」
「食ったよ とっくだよ」
女将さんがカニ雑炊を作ってくれたので、みんなで食べることになった。
「ちょっと、ねえ起きなよ。 瀬名さーん 瀬名泉さーん カニ雑炊できましたよー」
「せなっち起きないね。 もう食べちゃおうよ」
「うまいな!」
「もりっち食べるの早い」
「この鳥を焼いたのもイケる! この店はいい店だな!」
「でっしょー 俺チョイスなの」
「そうか、 う、 うーん」
「なんでちょっと悩むの え、どういうこと」
「せーーーーなーーーーーいーーーーずーーーーみーーーーーー」
「うぅ… うっざぃ ゆうくん… ゆうくん」
「ほら、ゆうくんがカニ雑炊つくってくれたよ。おたべ泉」
「ゆうくんの…雑炊 たべるぅ」
「怖ろしい執念だな」
むくりと起き上がった瀬名に、蓮華片手で千秋がいう。だが口に米粒ついているからまるで迫力がない。ダメだこいつ。瀬名がまだ寝ぼけてるのか、わたしに寄り掛かってわりとぱんぱんなお腹の肉を摘まんで「なにこれぇありえない… 俺こんな太ってなぁい」「そりゃあわたしの腹だ」「うわぁ…女じゃない やっぱりゆうくんがいいぃ〜」と支離滅裂なことをいうからうざい。まじうざい。
「うむ 瀬名がここまで酔ってるのは初めて見たな」
「そうなの?」
「あーそういえば、前の事務所の忘年会でもあんま酔ってなかったよね? 真くんにはべったべった絡んでたけど」
「そうだな! あれほど遊木の真顔を見たのは始めてだった!」
「察し。 可哀そうにゆうくん…まだせないずの魔の手から抜け出せないなんて」
「ちょっとぉ 俺の許可なくゆうくんの話しないでよねぇ ちょぉおウザい」
「わかったからカニ食ってろ」
瀬名の身体をむりやり正面向かせてカニ雑炊を見せれば、もそもそ食べ始めた。目開いてないがな。
「てかさあ、 もりっち追加料理それだけでいいの? 足りなくない?」
「ん? これでいいぞ。 足りない分は二次会で食らう! ことりの家で!!」
「ちょっとまて何時二次会決まった? てかわたしの家? は?」
「いいねー! 良いこというじゃんもりっち!賛成! そうと決まればカニ雑炊空けちゃおう! そんでコンビニ寄って帰ろう!!」
「わたしの家に帰るなよ、家主の許可! 許可とれ!」
「ちょっとぉ ことにゃん やばい、これまじうまいよぉ…カニうまい」
「いーちゃんはちょっと黙ってて!」
そんなこんなで。
瀬名が目覚めた時、そこは見知らぬ家で一瞬心臓が止まりかけたらしい。だがすぐに床に散らばる羽風と守沢、そしてわたしの死体に全てを察し阿修羅のごとくお怒りになったのは言うまでもない。そりゃそうだ、世間を騒がすアイドルが一般市民の家でどんちゃん騒ぎとか荒れるに決まっている。その辺り、わたしもかなり酔っていたと反省している。
翌朝の芸能ニュースで、すっかり一面を飾った三人とモノクロ加工されたわたしの写真には正直爆笑した。写真の容赦のない絡みっぷりから関係者はすぐに謎の女性Xをわたしだと悟ったらしく、なぜかわたしに各ユニットメンバー保護者枠から謝罪の連絡が来た。芸能界って怖いな。