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堅琴の節


自分の身の上話ほどつまらないものもないだろうが、一応物思いに耽ってみる。とある戦争で両親を亡くしたわたしは、教会で育てられた。貧しくも穏やかな生活を享受していたが、ある日協会が山賊に襲われた。通りかかったセイロス騎士団により最悪の事態は免れたが、その後保護のために連れられたガルグ=マク大修道院で紋章が宿っているが判り…今の養父に引き取られた。山賊に襲われた時に辱めと切り落とされた髪は…今も短いままだ。

鏡の中に映る後ろ髪は男の人のように短い。せめてもと、残されたもみあげは胸の上あたりまでしか切りそろえなかった。別段辛いということはないのだが、どうにも不格好に見えるのが嫌で、士官になってからはマリアベールで髪を隠した。それだけだ、_______それだけなので、別にベールを誤って剥ぎ取ってしまったからといって、殿下が謝る必要は微塵もないのだ。



(…土塗れ)
「すまない! 汚してしまっただろうか」
「このくらいなら問題ありません、大丈夫ですよ 殿下」

これ以上は自分が触れても汚してしまう、手早く折りたたんで制服のポケットにしまう。先ほどまで修道院内の雑草と格闘していた手は土塗れで、皮膚がひどく乾いている。整えることを怠った爪の間に詰まった泥が少しだけ不快だ。雑草をたらふく含んだバケツを二つ持ち上げようとしたら、殿下の手が先に回る。俺が持とう、その言葉に礼を述べて甘えることにした。…さいきん知ったのだけど、殿下、ちから、すごい。除草材がたっぷりはいった麻袋を涼しい顔で4つ抱えた時点で、わたしはこういった力仕事に関しては素直にディミトリ殿下にお任せする心に決めたのだ。

「聞いても、良いだろうか」
「? …はい、」

雑草を処分し、くみ上げた井戸の水で手をすすぐ。堅琴の節、くみ上げた水は少しだけ暖かい。爪の間の土が取れなくて、水に濡らした布で擦りつける。ディミトリ殿下はすでに洗い終えて、清潔なハンカチで手を拭っていた。

「ことり、君のべールは、 …その短い髪を隠すためか」
「はい、元々もう少し長かったのですが、色々ありましてこの長さになってしまいました。 わたしが育った環境では、女の髪は長いほうが良いとされていたので…すこしだけ恥ずかしくて、伸びるまでベールを」
「そうか、 横髪だけ長いのはそういう理由か」
「後ろ髪に合わせて少し短くしたのですが、未練がましくまだ長いままです」

少し湿った手で髪を梳く。指に絡まる髪は心もとなく、懐かしい感触を思い出して寂しい気持ちになる。育った教会では、修道女はみな長く美しい髪を持っていた。それに憧れたわたしは、小さいころから同じように髪を伸ばし、大事に整えてきた。決して裕福とは言えない教会暮らしでできることなど、その位しかなかったと言い換えることもできるだろう。…思い入れがなかったと言ったら、嘘になる。だから、ベール(こんなもの)で未練がましく隠しているのだ。

静かに話を聞いていたディミトリ殿下が、不意に小さくささやいた。

「____不自然だな、」
「え、」

「まるで、誰かに後ろから髪を掴まれて…切り落とされたみたいだ」

______女性の髪は、長い髪は、高値で取引される。
裕福層向けの鬘や髭の材料として使われるのだ。だから貧困層のものの中には、髪を伸ばして売り、日々の糧にしているものも少なくない。…もし、わたしが“そう”なら。糧を得るために全て綺麗に切り落とすだろう、中途半端に長い髪は売値が下がるときく。そのために専用の鋏師がいるほどだといれば、分かりやすいだろうか。だから、こんな中途半端な切れ方、不自然なのだ。事故と言ってしまえば理由なんていくらでも想像できる。だが、その可能性の中から、ディミトリ殿下は真っ先に他者に切り落とされたことを示唆した。

正直驚いた、動揺してしまった。彼のような貴族の中の貴族…王族が、そんなことを口にするとは思わなかったから。繕うことも忘れて顔をあげると、思ったよりも近くにディミトリ殿下の顏があった。その表情を理解するよりも先に、ぞくりと背筋が粟立った。黄金色の髪が落とす影が、冬の湖のように凍てついた青が、うっすらと浮かぶ笑みが。なんで、怒っている?なんで、わからない。わたしはなにかまずいことを言っただろうか。恐い、笑っているのに、“わらってない”。

「どうなんだ、ことり」
「っ !」

言え、答えろ。言葉裏に確かに、ディミトリ殿下の声が聞こえた。

(これが、おう、さま)

_______民を従えるために、国の上に立つために、生まれてきた人間。
隠すこともできず、黙することは許されない。気づけばぽつりぽつりと、つまらない身の上話を紡いでいた。ディミトリ殿下は時折疑問を飛ばしてきたが、特に遮ることなくそれを聞いていた。両親が死んだ時期を聞かれたので、4年前であることを告げると空気が一瞬重くなった気がしたが、それ以外は何事もなく。すべて話終わったころには、指先まで冷え切っていた。血が温度を無くしているのがわかる。いやに五感が拡張されて、遠くで遊ぶ子供の声まで聞こえる。

「____そうか、」

その一言に、ほっとした。満足してくれたのだろうか、そう気を緩めた矢先に首筋に熱いものが触れた。それは焼き鏝のような熱をもって、わたしのむき出しの首筋をなぞり…短い襟足の髪を遊ぶ。

「安心しろ、ことり」
「で、 殿 下っ 」
「お前の髪を無碍にした蛮族どもも、大事な人を奪った奴らも、


必ず俺が殺してやる 」


つめたい言葉が、わたしの体の奥の大事なところに落ちて…歪な波紋を描き始める。

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