降谷零のお嫁さんになりたいの
______まあ、それに近づいたところで意味はない。だって、わたしは“わたし”にしかなれないから。でも努力は怠りたくなかった。すこしでも「降谷零」の恋人らしくいたかった。でも、初めて肌を合わせ、互いの家に入りびたり二人の時間が増えるほど、れいくんわたしをダメにする。
元来、世話焼きな体質なのは知っていた。だけど、わたしの家でわたしのために料理を作って、衣服を揃えて、美容マッサージをしてくれて、部屋の掃除洗濯はもちろんのこと、バイトの送迎までしてくれる。一周回ってちょっとこわいと思うことすらある。先日、れいくんとわたしと、幼馴染の三人で温泉街弾丸旅行に行った時のはなしだ。当たり前のように世話焼きするれいくんを見た幼馴染が「ラッコ…」とだけ呟いた。まあ確かに眠る時とか、れいくんは自分の上にわたしを乗っけたがるけど。親子じゃなくて!恋人です!!_____このままではいうけない…!
降谷零の華麗なる彼女になる計画@
〜パーフェクトな家事ができる家庭的な女性になりましょう〜
「今日はわたしがお掃除をします」
エプロンをつけてキリッ(`・ω・´)と宣言するも、れいくんはお外用のニコーっという完璧な笑顔と共にひょいと猫の子のようにわたしを抱き上げた。そしてベッドの上に降ろすと、あっという間にエプロンと抱えた掃除用具を没収してくれやがります。
「なんでっ!?」
「合理的判断だよ。 “二度手間”よりも、僕が一度で済ます方が効率的だ」
(…いま、わたしが掃除する方が手間が増えるって言われた…?)
「取り敢えずキッチンから掃除して、そっちの部屋は来週にする。昼飯までには終わらせるから好きな物作ってやる、なにが食べたい?」
「…冷やし中華」
「わかった」
わたしのかわいいお花柄のエプロンをつけたれいくんが、頬にぺたりと手をつける。すりすりと耳の付け根を撫でてくれて、最後にちうと頬にキスしてくれた。まるで待てといわれた犬の気分。テキパキと掃除を始めるれいくんに、わたしの罪悪感はマッハだ。違うねん…わたしが掃除する予定だったねん…。「て、てつだい…」と申し出て見るが、厳しい顔で「ステイ」と言われた。だから犬じゃないねん…。
でもなにかしたくて、終わった後全力で「ありがとう」「すごいね」「めっちゃキレイになりましたよ」と褒めちぎった。れいくんは満更でもないのか、例のごとくわたしを自分の膝の上に乗せて「もっと褒めてもいいぞ」と愉しそうに言った。珍しくぽすんとわたしに金色の頭を預けて来る様子に、おっ。こえは。おっ。っと閃く。念のため、幼馴染にメールして訊いてみると、これがビンゴ。れいくん、実は褒めて欲しがりさんらしい。なんだそれかわいい。それからはちゃんと大人しくしく待って、終わったら両手を広げてありがとうハグをするようにした。すると、れいくんは上からがばーって抱きしめてくれる。大きな体で視界がいっぱいになるが、そのお尻に犬の尻尾が視える気がした。犬はれいくんの方だったね。
降谷零の華麗なる彼女になる計画A
〜気のつかえる誰にでも優しい素敵な女性になりましょう〜
家事に関してはれいくんが熟した方が良い(いろんな意味で)と分かったので、わたしは路線を変更することに決めた。少年漫画や週刊誌のヒロイン…それは往来にして皆優しく素晴らしい少女である。いつもニコニコと笑顔を絶やさず、間違っても悪口は言わない。気持ちの悪い男にも優しくして、友達がたくさんいるイメージ。……わ、わたし、そんな聖女みたいになれない。
でも努力は大事だろう。誰にもでにこにこ優しい女性になるぞ!
意気込んで生活していたら、大学の友人に「なんで最近笑顔三割増しなの?どこ目指してんの?」と言われた。え、三割…三割増し…?よく意味が解らない。いつもわたしはぶすっとしていることが多いと思うので、この位の方がとっつきやすいと思うのだが。そう言うと、友人は「止めた方がいい」という。なぜだ。わたしの笑顔はそんなに気持ち悪いのか…。
こっそり笑顔の特訓をした。控えめに微笑み、手をふる淑女…わたしは淑女…。例えば、町ですれ違い目が合えば、微笑んで会釈する。そんな小さいことをコツコツ積み重ねていたら、人に話しかけられることが多くなった。嬉しい。これは嬉しいぞ!バイト先の店長にも「良い事でもあったの?」と言われたし、これは!ヒロインに近づいているのではないだろうか!?
嬉しくて足取り軽い大学の帰り道、駅の近くで「すみません」と声をかけられた。…あまり、悪口をいわないと宣言したばかりで悪いが…相手の男性は、その…生理的に受け付けないタイプの人だった。う…汗凄いな、シャツ汗だくだし…きもちわるいよ!でもヒロインはそんなこといわない。笑顔だぞー笑顔―、とニコニコ「なんですか?」と言えば道に迷ってしまったという。行きたい場所を口頭で伝えらえたが、正直自分で道を探せといいたい。携帯持ってるだろ!なんならそこに駅周辺地図の掲示板もあるぞ!駅前警察署もな!
(だめ…そんなこと思っちゃダメ…やさしく〜 淑女のように〜…)
取り敢えず駅周辺地図の掲示板の前に移動する。言われた場所を携帯で検索し、地図と照らし合わせて道順を追った。…うーんと、ここがこうで…こうなって…だから、えーっと。そんなこんなで集中していたせいで、男がわたしと距離を詰めまるで覆いかぶさるように後ろから近付いて来ている事に気づかなかった。アホである。男はあろうことかわたしの髪にベトベトの指で触れようとした。気がついていたら発狂しただろうか、わたしは地図に夢中で気づかない。アホである。わたしが事態に気づいたのは、首の後ろがちりっと痛んだころ。凄まじい勢いで何かが首の後ろを通った。驚いて視線をやれば、そこにはれいくんがいた。何時も穏やかなブルートパーズの瞳が、まるで氷のナイフのように鋭くなっていてひえっ。瞳孔開いてるよれいくん。
「れ、 ぃく 」
ちらりとも、目がこちらを見ない。その目は真っ直ぐに、わたしの後ろを見据えている。まるで得物を狩る前の肉食動物みたいだ。背筋が粟立ち、感じたことのない緊張感に腰が抜けそうになったひえっ。助けを求める様に掲示板に寄り掛かって周りを見れば、みな何事かとこちらを注目していた。道を尋ねて来た男が、地面に尻餅をついてがくがくと震えている。壊れたオモチャみたいだ。見上げた金色の髪が、これほどまでに冷たく感じたのは…それが初めての事だった。
異常を感じた警察がすぐに駆けて来てくれた。男はパニック状態で警察に連れていかれ、れいくんは何やら警察の人とお話ししていた。え、どういうこと。どういうことなの。わたしもパニックです。とりあえず掲示板にぺったりしていると、警察官の人が「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。大丈夫じゃないです。なんて言わず、平気ですと返そうとした言葉は、しかし、続くことなく遮られた。
「すみません、彼女はまだ怯えていて…今日は、帰らせてください」
ぶわっとれいくんの匂いがした。いや、ただしくはれいくんの柔軟剤の匂いなんだけどそうではなく!抱き寄せ!られてる!公衆の面前で!!!!全身に羞恥が駆け抜けて顔を真っ赤がなる。意味もなく泣き出しそうになるわたしをどう見たのか、警察官の人は申し訳なさそうに頭をさげて「では明日」という。れいくんがテキパキと対応して日取りを整え、あっという間にご帰宅である。
その日は、なんか何時もの10倍くらいお世話された。というか、べったりされた。初めて一緒にお風呂というイベントがあったが、終始れいくんが無言なので甘さなんてちっともない。目がどこかにイッてしまっているって今のれいくんみたいなこというんだなあ。心を遠くにしていないと、とてもじゃないけど平静を保てない。え、だって、むだ、むだげのしょりまで…はわわわわ。
結論。この方法は色々ヤバイ。(れいくんの)SAN値が持たないので、即棄却とした。
降谷零の華麗なる彼女になる計画B
〜多忙で忙しい彼を癒せる女性になりましょう〜
前回のことで心が折れかけているが、そういうことじゃない。わたしは頑張らなければいけない義務がある。
癒し…それは重要なファクターだ。たとえば、れいくんはどんなことに癒しを感じるのだろう。ぶおおおおおおとわたしの髪を乾かしてくれているれいくんにそれとなく尋ねると、「いま」「めっちゃ癒されてる」と真顔で回答された。…れいくんは世話やくと癒されるのか。
ということで、親戚の犬を一週間預かることにした。やんちゃが盛りのボーダーコリー♂ハルくんは、飼い主に甘やかされて育ったために全く言うことをきかない。でも可愛い。わたしのことを遊んでくれる人認定しているようで、姿を見ると目を輝かせて一直線に飛びついてくる。いぬーーーーーー!わたしも犬好きなので、飛び付かれて嫌な気はしない。顔面べろっべろになるけどね。
さあどうだとれいくんに紹介したが、れいくんは微妙な笑顔だった。なんていうんだろう…その。目が、笑ってない気がした。心なしか、顔に落ちる影が濃いような気がする…。うん。あれ、失敗した?でもそんなれいくんはなんのその。元気いっぱいのハルくんは尻尾ぶんぶん振って、わたしの背中に飛び乗ってくる。遊んでー遊んで−はいはい。そうやっていると、れいくんに猫の子のように抱き上げられた。もう慣れたものである。なにかと振り返ろうとしたが、そのままお風呂に放り投げられてしまった。
「れ、れいくん?」
「先に入って、ゆっくり浸かるといい。 …その間、僕がハルの相手をする」
有無を言わせない笑顔だった。大人しく湯船に入る、思わず耳を澄ましてしまうが…うん、特に悲鳴のようなものは聞こえないし…大丈夫だろう。結果、大丈夫じゃなかった。お風呂から出ると、れいくんの前でハルくんが服従のポーズをとっていた。なにがあったのハルくん!!!?
「れれれれれ れいくんっ なにがありましたが? ハルくんがっ」
「ああ、ちょっと躾をしただけだ。 お前もやるか? おすわり 、おて」
「はわわわ ハルくんが賢くなってる…!」
「伏せ」
まるで警察犬かくやの素晴らしい動きであったとだけ言って置く。仁王立ちで命令するれいくんを前に、完全に耳が垂れて尻尾が元気ないハルくん。な、なにがあったかは聞くまい…。ボスに恐縮する子分の顔だよ…ボスが誰かはいうまでもない。結局、一週間ハルくんは大人しくて全くの手のかからない良い子だった。なのでれいくんが何時も通りわたしの世話を焼いて終わった。なんだったんだこれ。…なんだったんだk
降谷零の華麗なる彼女になる計画C
〜ネタ切れ〜
______________________そもそも、だ。
わたしは真なる淑女ではないので、ありきたりなテンプレしか知らないのだ。方向性に無理があったと言わざるを終えない。所詮わたしの頑張れるところなど知れているのだ。
「なに作ってるんだ」
「…クマさんです」
スウェットを着たれいくんが、マグカップ片手に目を丸くしている。現在、わたしはテディベアを作成中だ。テディベアはいい…かわいい…癒し、わたしの癒しだ。
「僕のプレゼントじゃ足りない? テレビの横に7体はいるけど」
「みんな大好きです。名前あるんですよ、中学生の時にれいくんとあの人がくれた水色の子はみーちゃんで、れいくんが初任給でプレゼントしてくれた老舗ブランドメーカーの子は」
「はいはい、知ってる知ってる」
扱いが雑だ。ビーズクッションを軽々持ち上げ、ぽんとわたしの横に置く。その上に埋まりながら、わたしの手元をぼんやり見ている。わたしだと余るくらいなのに、れいくんだと足が長い所為かちょっと窮屈そうなのがおもしろい。型紙にそってじょきじょきしていると、れいくんが「でかいな」と呟いた。
「はい。このくらいにします、ぎゅうーってできるくらい」
「そんな大きいぬいぐるみ作ってどうするんだ。邪魔だろ」
「ベッドの上におきます」
「却下。 僕の寝る場所がなくなる」
「ねーれーまーすーよー」
「お前はいいかもしれないけど、僕は邪魔なんだ。 ただでさえお前のベッド小さいのに」
ぶつくさいうれいくんに思わず笑ってしまう。確かに、れいくんが寝ると足がベッドからこぼれ落ちてるし、落ちないようにと体を縮ませると窮屈そうなのだ。クスクス笑うと、れいくんが皮肉そうな声で「いいよなあ、お前は小さいから」という。ちょっと待ってください、思ったより育ってない件については諸々コンプレックスなので言及して欲しくないです。
「どうしてそんなもの作るんだ」
呆れた様な声に、ぴたりと手が停まった。どうして…えっと、
「もうすぐ…」
「?」
「…警察学校、だから」
れいくんは、今みたいな頻度で会えなくなってしまう。それを思うと、どうしても寂しい気持ちになる。だからテディベアを作ろうと思ったのだ…れいくんと同じ色で。
「できあがったら、昔れいくんから貰った高校の制服を着せます」
「このサイズには合わないだろ。 高校の時の僕はこんな小さくない」
「裾詰します、がんばりますよ!」
「…いや、頑張る方向性が違う」
「え!?」
「素直に、寂しいって言えばいいんだ」
僕に。
ゼロ距離で見つめるブルートパーズの瞳は、いつかみたイタリアのエーゲ海を想わせた。日本が大好きなれいくんは渋い顔をしていたけれど、キレイってことが言いたいんだよと言えば、また笑う。僕はお前の瞳の方が好きだと、日本人らしくない言葉とともに。肌と肌で触れることがこんなに気持ちいって知らなかった。混じり合う熱も、境界線が解らなくなるほど融けあうことも、…誰かにこころごと体を投げ出すのも。これはれいくんだから気持ちいいのかな、こんなにも幸せだと思えるのかな。不思議だなあ。
「愛ってどこにあるのかな」
「…さあ、」
「ここかな」
ちうと金色の頭にキスすれば、余韻を楽しんでいたれいくんがむくりと起き上がった。さらさらと落ちてくる金のカーテンがくすぐったい。褐色の鼻とわたしの鼻先がちょんとキスして、そのあと薄い唇がキスしてくれる。これ以上はちょっと体もたないです。開けてとノックするれいくんの舌を、きゅっと唇を閉じてお断りした。唇を放したれいくんが、ぶすっとした顔で睨みつけて来る。おもわず笑ってしまえば、そのままちゅうされた。大きな腕が腰に回ってぎゅうと抱きしめてくるから、わたしもいっかって思ってその首に腕を回した。
名前を呼ばれて、目が覚める。果てた心地よさに身を委ねようとしていたので、ちゃんと返事ができない。それが解ったのか、聞いてというようにれいくんが何度もわたしの名前を呼んだ。耳に吹き込む様に言葉を紡いで、つうとクビレのラインをなぞるから吃驚して起きてしまった。
「ん…なに、」
「卒業まで1年と3ヶ月…卒業したら暫くは交番勤務だ。給料も良くない、休みもあまりとれない」
「ん」
背中からぎゅうと抱きついて来るれいくん。肩口に埋まる頭をさわさわと撫でながら、話しをきいた。
「だが一応はキャリア組だ、将来的には収入も安定するし転勤もない」
「ん」
「…ヒロには、お前みたいな反骨精神の塊が縦社会で上に上がれるわけないって言われたが…」
(確かに)
「…その辺は、…努力する」
(するんだ)
最後の言葉は虫の鳴くような声だったけど、ツッコまないであげよう。
「僕は器量が良くて気が利く、運動もできるし、苦手なことはない」
(自慢か?)
「昔…よく、お前は一人でも大丈夫だと…言われた。確かにその通りだ、僕は一人でも生きていける。自信があるし、確信もしている。 でも、きっとそれで満たされることはないんだと思う」
「…? れいくん、」
「お前のせいだからな」
_____なんか理不尽なこといわれた。ん?あれ?今なんか甘い空気じゃなかったのかな?
ぽかんとしていると、れいくんが背中から退いた。そして脇に手を入れてひょいと持ち上げられる。そのままくるりと回されて、なぜかベッドの上で向き合うように座らせられた。なんでしょうか。
「だから責任をとってほしい」
「…?」
話しがみえない。
「そ、それは…えっと…現物支給ですか?」
「……………………………………………………さてはお前、寝ぼけてるな」
「ちょ、ちょっとだけ…ねむいです」
じとりとした目で見られたが、眠気は覚めません。許して欲しい、れいくんとは体力の差が歴然なんだよ。今日何回シたと思ってるの、もう限界だよ。筋肉だるんだるんでベッドに倒れ込もうとしたら、れいくんが「おい」と両肩を掴んでくる。「大事な話だぞ!」とちょっとキレてた。ねむいです。
「はい、えっと…ききます えーっと… せきにん、ですか どうすればとれるんでしょうか」
「……… お前は、あと2年で大学を卒業する。少しズレるが僕の卒業する時期と同じだ。だから、」
「ん」
「僕と結婚してほしい」
目が覚めた。
「最初は寂しい思いをさせる、これは絶対だ。お前は何時も笑顔だけど心配性だから、不安にさせることもあるだろう。でも待っていてほしい、できれば…僕の帰る家に、待っていて欲しい。お前がいるなら、僕は絶対にそこに帰るから」
「…」
「式は…すぐには無理だろうけど、お前の希望を全部そろえる。新婚旅行だってする、お前が行きたがっていたあそこにいこう。絶対に連れて行く、好きなだけ美味しいものを食べて、欲しいものを買わせてやる。警察官の仕事はそれというだけで危険があるが、お前を危ない目には合わせない。絶対に守る、今も未来も、お前も、お前が大事な人たちも」
「…」
「だからっ… … … おい、 聞いてるのか?」
ぽかんと口を開いているわたしに、れいくんが訝し気な顔できいてくる。いや、あの…。
「こ、」
「こ?」
「…これは、 ゆめ ?」
今度はれいくんがぽかんとする番だった。だが直ぐに戻って来て、ぷはっと笑うとぎゅうと抱きしめて「バカっ」と楽しそうにいう。
「現実だよ。 …僕はいま、プロポーズしているんだ」
「…ぷろ、ぽーず」
「ああ、僕をこの世界で一番愛してくれている人に」
____ああ、これはやっぱり夢だ。
胸が苦しい。喉がつっかえて、言葉がでない。言いたい事は山ほどあるのに、何も音にならない。大きな背に手を回してぐずぐずと泣きはじめてしまったわたしを咎めることなく、れいくんはいう。
「…寂しがり。甘えたがりのくせに、大事なときに何も言わない。僕に言えと言ったけど、お前は僕のこと大好きだから、きっと遠慮して何も言わないんだろうな。暫くはそうやって我慢してもらわないといけないことも多い。でも…必ず幸せにする」
「ぐす っれ、 れいぐんの… し、しあわせは?」
「ははっ 僕はお前がいるだけで幸せに決まってるだろ!」
「ほ、 ほんとに? ほんとう? わたし、わたしでいいの? わたし、れいくんをしあ、 しあわせにできる?」
「…ほんと、バカだなあ。 僕はお前に出会ってから、ずっと幸せだよ」
だから、このままずっと幸せでいさせてほしい。
_____こつんと、額を合わせて、請うように。祈るように。その言葉はまるで、祝言のようだった。
「…なあ、返事は?」
「う、 うぐっ」
「まあ知ってるけど。 一応、お前の口から聞かないとな」
「うぅ〜 自信家ぁ〜」
「はは でもそんな僕も好きだろ?」
「す˝ぎぃ〜〜〜!」
「じゃあ、降谷零を生涯唯一の夫とすることを誓いますか?」
「ちか˝う〜〜〜!」
ぎゅうううううううと力の限り抱きしめれば、「言質とったからな」と楽しそうにれいくんが笑った。
ああ、嬉しい。れいくんが笑ってくれている。幸せだと言ってくれた、わたしを選ぶと言ってくれた。ああなんて、こと!わたしの愛は、やっぱりここにあった。顔を涙と鼻水でいっぱいにするわたしを、れいくんは頭を撫でて慰めてくれる。名前を呼んで、何度も。
「やっと、手に入れた」
__________僕がずっと欲しかったもの。
れいくんが何が欲しかったのか、わたしは解らない。だってわたしはヒロインじゃない、彼の為に用意された完璧な“運命”ではない。欠陥だらけの、ただの人間。でも、でもね、
「愛してる」
このままでいい。
______だって、繋いでいる手に確かな想いを感じているから。