探偵 | ナノ

諸伏景光とすき焼きを食べる予定だった


※-警察学校編情報前の捏造諸伏です



「む」

水曜日、店頭に並ぶ豚肉たちを睨みつける。広告とラベルに記載された値段、グラム…算数が苦手な頭で考えてみるが、どうみてもこれは失敗だ。このスーパーは火曜日がお肉セールの日。一日すぎた今日のラインナップは、火曜日のそれと比べるとどうにも高い。

(…しょうがない、脂身がおおいけどこっちの手ごろな価格のやつにしよう。こんなことなら昨日買って置けばよかった)
「ゆき、言われたのあったぞー」

悶々としていると、腕が軽くなる。隣を見れば、景光くんがいてわたしの腕からとったカゴに頼んでおいた調味料を入れてくれているところだった。

「あとは肉だけ…豚肉?」
「うん。豚肉キライだっけ?」
「いや、肉は何でも好きだけど…今日すき焼きだよな?」
「うん」
「豚肉ですき焼きすんの?」
「うん…牛肉高いし」
「…つまり俺程度の給料ですき焼きに牛肉なんて百年早いと」
「そんなこといってないよ!」

ごくりと固唾を飲むような神妙な顔でいうのは止めて欲しい。反射的に顔を口いっぱいにして返すと、景光くんはにこっと笑った。あ、これ本当は笑ってないやつ。

「はい没収〜」
「あっ」
「すき焼きには牛肉だろ。倹約家なのはいいことだけど、今日は贅沢しようぜ。久しぶりに帰って来た旦那さんの我儘に免じて、な?」

つまり…

「家でニートしているプーなわたしが献立の肉を選ぶのは百年早いと」
「根にもってる〜」

真剣な顔でいうと、がくりと景光くんが肩を落とす。そして大きな手ががしがしとわたしの頬を撫でて「戻れ〜」と呪文を唱える。へなりと思わず笑えば、景光くんも「戻った」と嬉しそうに笑った。でもその後、ちゃっかりみたらしとあんこの団子をカゴに入れやがった。ダメです。30パーセントオフ?関係ありません。最近お腹たるんでるのわたし知っている。さっと棚に戻して言えば、景光くんが暫くずっとぶつぶつ言いながら自分の腹を揉んでた。顔が真剣だったので面白かった。

会計を済まし、エコバックに詰めた。わたしが順番に渡してビニールに詰める係、それを受け取った景光くんがきちんとエコバックにしまってくれた。外に出ると太陽が照りつけてくる。「あちー」っと黒いシャツの胸元をぱたぱたさせる景光くんとお家に帰った。

「お、」

景光くんが冷蔵庫に食材を詰めている後ろで、すき焼きの準備をする。するとブーという低い音、気づいた景光くんが後ろポケットからアイフォンを取り出した。表示を見ると、わたしに手でごめんと謝りキッチンを離れた。どうやらお仕事の電話らしい。バトンタッチして冷蔵庫に食材を詰め終ると、玄関の方に下がっていた景光くんが戻って来た。

「大丈夫? 出かける?」
「まさか、今日はゆきと一緒にいる」

ちうと髪にキスをくれた。今日は一応お仕事が「お休み」ということだが、こうして電話がかかってきて出かけることになることも多い。ヤダなんて言っているが、それは彼の裁量ではどうにもならないことも知っている。きっと緊急を要する呼び出しじゃなかったのだろう。

「あ、でも代わりにゼロが寄るって」
「ファック」

ぎゅううと景光くんに抱きつけば、彼は楽しそうに抱き返してくれた。宿敵降谷…!思えば景光くんと出会ってからずっとヤツが付き纏う!!!

「よ、いらっしゃい」
「ああ、これ」
「サンキュ、悪いな」
「気にするな。非番なのに悪かったな、 …お前も」

ちらりと、景光くんの影から降谷。わたしも玄関につづく廊下の扉から少しだけ顔をだしてやつの挙動を窺っている。うっかり景光くんを連れて行こうものなら許さん。ジトーーーと互いに絶対零度の眼で睨みあっているというのに、景光くんは「警戒してんな、ほら出て来いゆき〜」と見当違いの台詞。ちょっと静かにして景光くん。すると、降谷がふんと鼻で笑って皮肉たっぴりに言った。

「ここの家主は、恋人の客人に挨拶ひとつできないのか」
「ゼロなんでケンカ売った?」

カッチーーーーーーンッ

「いらっしゃいませ、フルヤさん!!!!」
「ああ」
「用事が終わったらなおかえりは後ろの扉からどうぞ〜」
「安心しろ。扉くらい認識できる、お前と一緒にするな」
「かえれ!!!!」
「黙れ単細胞」
「ゼロ、今日うちすき焼きなんだけど食ってくか?」
「ヒロくん!!!?」
「朝倉が頭を床に擦りつけてどうしてもっていうなら食ってやらんこともない」
「食ってくって、ゆき」
「そこまで要求するなら食べなくていいよ!!!」

どうしてこうなった。
我が物顔で上がってきた降谷にハンガーを投げつけてキッチンに戻る。なんで降谷に料理をふるまわないといけないのか。自分で作れよ。こいつ小姑みたいに料理にうるさいから本当にイヤだ。

「おいすき焼きするなら、肉は常温に戻せよ」
「ヒロくんそいつ黙らせて!!!」
「はいはい、仲良くしろ〜。ゼロ、缶ビールエビスとアサヒあるぞ」
「エビス」

冷蔵庫から缶ビールを二つ取り出した景光くん。わたしがぶそくりながら菜箸で陶板をとんとんとしていると、「ゆき」と名前を呼ばれた。そしてほっぺたにちうとキスをくれる。機嫌を直せという意味らしい。くそう、すき!文句をいいながら、結局降谷はご飯3杯食べてがっつり肉を食べていった。本当こいつのこういうところ大嫌い。〆のおうどんも食べて、わたしはちゃっと片付け。二人は何十本目の缶ビールを手に歓談に耽っている。うわ、缶ビールやばい。ストックもうないよ!

「ヒロくん、まだ呑む?」
「ん? もうちょっとな、ゆきも呑むか? あまーいのあるだろ」
「なんだ、朝倉まだビール呑めないのか。 子ども舌」
「ヒロくんあいつ追い出して」
「はいはい、ぎゅー」

寄って来た景光くんがぎゅーってしてくれる。とんとんと背を叩かれて、って、わたしは犬か。

「ビールもうないから、買い足してきたほうがいいかなって」
「あれ、もうないのか? いいよ、気にすんなって。 ゆきのあまいやつどこだ?」
「いいって、わたしあんまり呑めないし…」
「あ、じゃあ俺つくってやる。 確か今日、バニラアイス買ったよな?」
「? うん」
「チョコレートリキュールでアイスのったカクテル、好きだろ?」
「すき!」

景光くんの作るカクテルは好きだ。仕事の関係で、バーに身を置いていた期間があるらしく彼が「ゆきの好きなやつだぞ」といってくれるカクテルは確かだ。モーツァルトを取り出して、準備を始める景光くん。わくわくして隣で見ていると、降谷もやってきた。くるな。景光くんの手元をみながら、缶ビールをあおる。

「甲斐甲斐しいな、俺だったら適当な部屋に放り込んでる」
「降谷はその亭主関白直さない限り絶対カノジョできない」
「俺の恋人になりたい女に手を上げさせてみるか? 自慢じゃないがすごいぞ、アムロのモテっぷり知らないだろ」
「なにアムロって ガンダム?」
「アムロは凄いよな〜」

わたしの知らない会話をしないでほしい。結局、景光くんがつくってくれたアイスクリームカクテルを食べながら一緒の席に着いた。

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