降谷零は彼女を手放す気がない
朝倉ゆきは、水の様な人だった。
清らかで、誰とも交わらない綺麗な水。触れたら汚してしまいそうで、だれも触れてはならぬと____そんな、高潔なイメージ誰が初めに言ったのか。
「で、結局どこに惚れたんだ?」
生徒会室に持ち込んだマンガを見ながら、景光が訊いてくる。なまじガキの頃から連れ添っている男は厄介で、僕の半生を良く知っていた。だからわかるのだろう。ゆきは、僕のタイプじゃない。
「見た目は“先生”と一緒で大人しい美人系っちゃそうだが、中身が違い過ぎるだろ。朝倉は女の皮被ったストーカー野郎だ」
「ぶふっ」
「ハッキリ言うぞ、ゼロ。俺は初めてお前がわからんと思った。お前のツボどこにあんだよ、今まで付き合って来た女とも全然ちがうじゃないか」
渋い顔で幼馴染がマンガを見せてくる。それは沢山の女の子が出てくる週刊誌のハーレム漫画だ。より取り見取りの美少女達を指して「こういうタイプだろ? でも、朝倉はこっちだ」となんだかんだ言うが。良く解らない、だって僕の年下の彼女は人間で、紙の中の創造物ではない。
「俺だったら、あんな劇物みたいな女はゴメンだ」
「そこがいいんだって」
「はあ?」
「キレイで澄ました顔をしているくせに、僕を見るとまるで別人みたいになるんだ。さっきまでの子とは別人みたいに熱烈なアプローチをしてくる、ファンタジーみたいな愛の言葉と一緒に。 それがいいだろ?」
「お前の性癖が歪みまくってるってことでいいか?」
「ちがう。 ああでも、そうかもなあ。 _____涼しい顔の裏に隠している、あの激情がいい。お前も僕の立場になったらわかると思う、ハマる」
「じゃあちょっとかして」
まるで何かの玩具のように言ってくれる。言葉の代わりに読んでいた参考書を投げつければ、「悪かったよ!怒るなって!」と声が飛ぶ。冗談でも言っていいことと悪いことがある。来週の宿題は写させてやらないことを決めて、ぼんやりとゆきの事を思い出す。
僕の彼女は、彼氏の贔屓目を抜いても可愛い。いや、可愛いというより、キレイな子だ。セーラーの上からでもわかる華奢な体つき、すらりと伸びる手足は嫋やか。僕とは違う真っ白な肌に、濡れた様な黒髪の少女。…彼女は入学した時から有名だった。その美しさもそうだが、なにより浮世離れした雰囲気がそうさせたのかもしれない。限られた友人しか近づけず、小さな声でくすくす笑うのが堪らないとクラスメイトが言っていた気がする。好奇心で一目見たとき、彼らの騒ぐ理由が知れた。百聞は一見に如かず。ああ、大和撫子とは彼女のことをいうのだろう。
僕とは、正反対の生命体がそこにはいた。
苦労を知らなそうな指。愛情を注がれたことが解る頬。どれもが正しく、癪に障った。だから最初は、ゆきとこんな関係になるとは露にも思わなかった。だってゆきは、自分とはまったく違う人生を歩む人だと思っていたから。
付き合ってみると、解る。ゆきに貼られたレッテルの殆どは、全てが周りの妄想でしかない。サラダより肉が好きで、ケーキよりラーメンを食べたい。上品に高級品を一口頂くのではなく、がっつりと男ばりの大盛りをお腹いっぱい食べることに幸せを感じるタイプ。日陰で本を読むより、クーラーの効いた部屋で昼寝をするのが好き。でもそれよりも、土と草の匂いがする自然の中で大の字になって日向ぼっこがしたい。昆虫や動物が大好きで、素手でクモを触れる。ああ他にもいっぱい、おかしな話だ。知れば知るほど、僕は君を好きになる。
(でもそれ以上に、ゆきは僕が好き)
触れる指に、呼ばれる名前に、こんなにも愛情を感じることができるなんて思いもしなかった。小学生の頃の自分に言ってやりたい、大丈夫だと。お前がいつも喉が渇くほどに欲していたものは、既にこの世界に用意されている。____そのために、何かに盲目的になる必要はない。目を閉じて想わなくとも、瞼を開けばゆきが真っ直ぐに駆けて来てくれる。間違いなんて無いという目で僕を見て、抱きしめてくれるから。
家族なんていなくてもゆきがいる。景光も変わらずにいてくれる。
____だから、僕はもう大丈夫。
そう思っていた時点で、既に僕は現実から目を背けていたのだろう。
「____え、 …あ、ぅ …はい、わかった わかりました、」
電話の声がかたい。ゆきのフライドポテトをつまみながら、店の奥で身を縮ませている彼女を見る。平均より小柄なので、そうしていると目を放せば見えなくなってしまいそうだ。電話を終えた後、疲れたように溜息をついた。戻ってこようとするので視線を外し、平然とドリンクを啜った。
「ただいまです〜」
「ん 電話、親からだろ」
「うん… ん?」
なんでわかったの。という顔で首を傾げるので、答えを教えてやる。
「お前、僕といるときは親からの電話しか出ないだろ」
「あ、そっか。 はい、そうですー… えっとね、なんか夜は帰ってきないさいって。ごめんなさい、夕飯一緒にしようと思ってたのにー!」
「元々、今日は映画の約束しかしてないだろ。気にしすぎだ」
「うー… 親戚より、降谷氏とご飯たべたいですー」
「それ、親の前では言うなよ」
うおおおおおおとテーブルに伏して獣の様な低い声をあげるゆきに、通りがかった女子中学生たちがびくりと震えた。邪な好奇心で視線をくれる中学生に軽く微笑んでやれば、すぐに顔を赤らめてどこかにいった。それでいい、ああいう目はあまり好きではない。
「別に僕となら明日もいけるだろ」
「…親戚の人たち、今日の昼頃から明日の夜までいるって。なんかこっちに遊びに来るらしくて、宿代わりにうちを使えばいいって両親が誘ったみたいで」
「お前の家みんな仲良いよいな。 年末年始も集まってずっと宴会だったか」
ゆきの家は、それなりに歴史のある古い家だ。幼少期から日本舞踊やお琴を習わされていたといえばイメージしやすいだろうか。親戚同士のつながりが深く、祝い事の度に何十と人が集まるとか。あまり人付き合いを好まないゆきにとっては、針の筵も良い所なようだが。
「だから、お夕飯もみんなでってなるもの…せっかく降谷氏を独り占めできる土日なのに!」
「平日も一緒に下校してるだろ」
「でもでも、殆ど先生たちに取られてます!授業とか!」
「それは学生の義務だ」
「まじめー!」
ミッフィーみたいな顔が面白い。言うと怒るから言わないが。
「…で、その叔母さん新婚さんだから、お母さん張り切っちゃって」
「相手の男の人、どんな人なんだ?」
「えーっと…確か、お医者さん なんか代々続く医者家系で、めっちゃくちゃお金持ちみたい」
_______不意に、胸の奥がざわつくことがある。
僕はゆきと…何時まで、一緒であれるのだろうか。ゆきの家について知れば知るほど、“立派”であることは解る。親戚には医者や弁護士が山ほどいて、ゆきの両親にしたって父親は大学の教授、母親は大企業のお抱えの税理士。…もし仮に、ゆきと将来を約束できる年齢になったとして。僕は朝倉家に受け入れて貰えるだろうか。自分と言う存在が、社会にとって受け入れがたい存在であることは身を以て知っている。
親がいない、親戚もない、どこで生まれたのかもわからない。
…そんな男に、たったひとりの大事な娘を預けてくれる親がいるのだろうか。答えは、否だ。
「なあ、生まれに左右されずに身分が保証される仕事ってなんだと思う」
「…なんだよ、突然。藪からスティックに」
イラっとしたのでテニスボールを打ちこめば、景光は慌ててベンチから飛び降りた。テニスコートにへばりついて軍人のように匍匐前進しながら、「いい加減その物理で黙らせようとする癖なおせよ!短気!!」と非難の声を上げた。なので、もう一発お見舞いしておいた。うるさい、誰が短気だ。
「んー…公務員、とか?」
「デスクワーク中心で、性に合わなそうだ」
「医者、弁護士、パイロット… あー、あとなんか年収が良さそうな職業」
「結局金か」
はーーーーとため息が重くなるのは仕方がない。解りやすくて納得ができる、だが釈然としない答えだ。
「ゼロ、この前のテニス大会優勝しただろ? ならテニスプレーヤーとかどうだ」
「…どうだろうな。学生の大会レベルで優勝したからって、世界に通用するとは思えない」
「それはどれも同じだと思うが… そうだなあ、あとは_______警察、とか」
警察。
_____その言葉は、僕の胸にすとんと落ちた。幼い頃、本気で目指していた夢。目標が、決まった。
志願していた東都大学法学部に合格し、施設を出ることになった。特待生枠を得ることができ、資金受け取りの際に身元の話をすれば、大学の先生たちが学生寮を紹介してくれた。いろいろとツッコミ所が多い…良く言えばらしい学生寮ではある。だが、一般の家賃とは比較にならない額に、背に腹には代えられないと入寮を願い出ることにした。なぜかお節介な幼馴染まで着いて来たが、…まあいいけど。
本格的な学業とバイトの二足草鞋は、かなりキツイものがあった。部活を止めてからは、碌に運動ができていない。体力不足に悩んでいると、寮の先輩が知り合いのボクシングジムを紹介してくれた。体育会系のオーナーは、良くも悪くもお節介な人だった。僕の生い立ちを知ると、滝のように涙を流して「何時でもこい!!」「オレが鍛えてやるぞ!!!」と大手を振って歓迎してくれた。最初こそ面倒だと思ったが、ボクシングと水が合ったらしく、気づけば毎週のように通った。筋が良いと、オーナーは本気でリングに上がることを勧めてくれた。だが断った、事情は濁したが彼女が大よその理由だと気づかれて「つれてこい!!!」と言われた時は焦った。ゆきを見せびらかす趣味はない、できれば僕だけが知っている存在であればいいと思っているのに!だが、オーナーの奥さんまで騒ぎ出すので、「一度だけ」「彼女は人見知りが激しい」「ムリだと言われたら強制はできない」という約束をしてその日は解放された。
「ぼくしんぐ」
「そう」
「ジムのおやっさんが、わたしに会いたいのですか?」
「そうだ」
「なんで?」
時に彼女は驚くほど察しが悪い。
今年から受験生であるゆきは、僕とは違う大学を目指して勉強中だ。残念なことに、ゆきの学力ではとてもじゃないが東都大学は無理だった。それは学生の時から解っていたので、半泣きで進路を相談された時は驚いた。…一応、東都大学に進もうとしていたらしい。理由なんて知れている、勉強が大嫌いな彼女が都内偏差値トップの大学を志願する理由なんて彼氏(ぼく)以外にないのだから。ぐっと堪えてもにやけてしまう口元を隠したくて、無茶な夢だと大笑いして見せれば。ゆきは顔を口いっぱいにして怒った。それが愛おしくて堪らないなんてこと、彼女はきっと気づいていない。
結局選んだのは、都内になるゆきの偏差値より少し下の大学。上ではなく下を選び、成績を上げることが目標だ。偏差値の高い大学で下から数える成績よりも、低くて上の方にある成績の方が、就職時にはアピールポイントになると踏んだらしい。ゆきにしては賢い選択だと思ったので、僕は何も口を出さず無料で家庭教師をしてやった。もちろん手は抜かない、スパルタ過ぎて甘い雰囲気なんてちっともならなかったのは苦い思い出だ。
「嫌なら、断っていいぞ」
「いくと降谷氏にとって迷惑?」
「…そうじゃないが」
「じゃあ、いーですよ」
テーブルに料理を広げていた手が思わず止まる。ゆきを見れば、テレビを見ていた目が僕に向けられていた。この前の記念日にプレゼントしたテディベアを抱きしめながら、照れ臭そうにへにゃりと笑うからどうしてくれようかと頭の中で僕が怒鳴る。お前、お前ほんとうにそういうところだぞ!なんで僕が頑なに学生寮に来させないのか解っているのか!?
翌週。約束通りゆきをつれてジムを訪れると、オーナー夫妻は黄色い悲鳴をあげて喜んだ。「なんて美人さん!」「こりゃあ降谷が見せるの嫌がるわけだ!」とゆきをもみくちゃにするのを、乾いた気持ちで見守った。何度もヘルプの視線を感じたがあえて放っておく。ほらみろ、僕が言う通りにしないからこうなるんだ。それに僕はお前が困ったり泣いたりする様子がそこまで嫌いじゃないからな。適度に放置してやる、これは躾けだ。
だが調子が良かったのは前半までだった。僕がトレーニングに入ると、ゆきがぱあと目を輝かせ始めた。おい、止めろ!写真を撮るのやめろ!!めろめろだいすきれいくんみたいな顔するの!やめろ!!!何時になく蕩けた顔をするので全く集中できない。そんな僕をみてオーナーがニヤニヤしながら、ミット越しにこちらを見る。止めて下さい。何時もは事務所にいる奥さんまで出て来て「甘酸っぱいわ〜」とヤジをいれる。止めて下さい。
「もう二度とお前を連れて行かない」
「なんでっ いひゃいひゃい!」
本当に、…彼女は驚くほど察しが悪い。
「結局、お前朝倉とどこまでいったんだ?」
二十歳になり、酒と煙草が許された。ゆきは志望していた大学に無事合格。景光は早々にヤニ中毒になり、合格祝いにゆきと会った時ひどく煙たがられていた。「なんかちょっと傷ついた」と珍しく表情を曇らせていたが、禁煙する気配は全くない。一応ボクサーの端くれなので、煙草を嗜むという選択肢はなかったが、ゆきの態度を見て吸わないという改めて決意した。嗜好品なんてくだらない理由で手放す理由を与えるなど論外だ。
「なんでそんなこと一々報告しなきゃいけないんだ」
「良いだろ別に。朝倉より長い付き合いじゃないか、学生時代はAまでだよな。 流石にもうCまでいったか?」
「…」
無言で日本酒を煽る僕に、煙草の灰を落とした景光がまさかと顔を歪める。
「まだヤってないのか!?」
「声が大きい!!」
「いであ!」
手元にあったメニュー表で頭をひっぱたいてしまった僕は悪くない。
「いやいやいやいや、ありえないだろ。 どんな清いお付き合いしてんだよ」
「うるさい。僕たちの問題だ、お前が口出すことじゃないだろ」
「さすがにベロチューはしただろ? まさかそれもまだなのか?」
「…」
彼女は、男女の関係となるととたんに怯える。
何時もは好き好きと僕にべたべたと甘えて来るのに、いざそういう雰囲気になると怖気づくのだ。少し強引にと迫ったこともあるが、明らかに無理をして“受け入れようとするから”罪悪感が勝って何もできないでいる。それでも頬への軽いキスや、唇へのバードキスは受け入れてくれるようになった。最初は居心地が悪そうにしていたが、最近は嬉しそうにへにゃと笑ってくれる。…その顔が見られるようになっただけで、不思議と欲は満たされた。
「したくない訳じゃ、ないが…」
自分の欲を押し付けて、ゆきの気持ちを置き去りにしたくない。
「お前すげぇな、感心するわ。そこまで献身的になれる奴中々いないだろ。 学生時代は、朝倉がお前にメロメロ〜って感じだったけど、今じゃゼロの方がベクトル重そうだな」
「おい、勘違いするなよ。 ゆきは今も僕に夢中だ」
「ゼロおまえ、ほんとそういうところだぞ?」
何がだよ。幼馴染はどこか遠い目をするだけで、答えはくれなかった。
____転機が訪れたのは、そんな話をした一週間後のことだった。
夏の足音を感じ始めた梅雨の季節。連日の気温の移り変わりが激しく、こういう時期は決まってゆきは体調を崩す。気を着けて見ていたが、どうにもゆきの顔が曇っている。何をしても晴れない。僕といる時は何時も僕のことでいっぱいにしている頭が、不意にどこかに行ってしまうのだ。一度呼んだ名前に反応を示さないことが片手で足りないほどに増えた。眉を垂らして笑う顔が嫌いになった、無理しなくていい素直に甘えて頼ってほしいのに…彼女は、本当に辛いことは僕に話してくれない。
それとなく原因を探りながら、デートの日は彼女が喜びそうな場所を選んだ。水族館や遊園地、動物園、オシャレなカフェ、美味しい食事。でもどれもダメだ。楽しそうだけど、それだけじゃない。気づくと目が暗がりに染まり、消え入りそうな溜息をつく。とても悲しそうな顔をする。僕は怖くなった。…もしかして、飽きられたのだろうか。そう思った瞬間、どうすれば良いのか解らなくなった。今まで一度だって、離れたことのないゆきの気持ちが…いま離れようとしていると解ると、ぞっとした。嫌だ、絶対にそんなこと、許されるわけがない。どうすればいい、どうすればいい、どうすれば・・・・・・・・・・・・________________
そんな矢先、ゆきが風邪を引いて倒れた。目に見えて衰弱したゆきに、僕が安堵したことは黙っていよう。俺しか頼れないその姿に、頭の中でぐるぐるしていた悪い妄想を実行に移す必要はなくなったと内心ほっとしたのだ。
「…熱、下がらないな。 食欲はあるか?」
「ん」
「じゃあおうどん作ってやる。ゆきが好きな甘いやつ、具はなにがいい?」
「…たまご、やき」
「わかった」
「ふ、やし バイト、は?」
「いらない気を回す暇があったら寝てろ。それで、とっとと治せ」
____ああ、よかった。何時も通りの僕たちだ。
余計なことを考えずにゆきへ献身できる時間は久しぶりだ。熱で気持ちが弱っているのだろう、何時になく甘えたな彼女の様子に僕の気持ちは晴れやかになった。余分なものが全部そぎ落とされて、気持ちだけで抱きあえているような心地だった。___まるで、砂糖菓子のように甘い時間。
傍から離れるなんて選択肢はない。数日のバイトは、それまで恩を売っていた同僚に任せて休みをもぎ取った。大学も三年生にもなれば、必修科目は殆ど終了している。今とっている授業はレポート重視なので、出席しなくても痛手にはならない。自身も体調不良ということで大学を暫く休むと景光に連絡し、携帯の電源を切った。二人だけの世界を、誰にも邪魔されたくなかった。
優しい雨の音に誘われて眠ってしまった夜。するりと絹の滑る音に目が覚めた。とんと何時の間にか腕の中に忍び込んで来た存在を受け入れ、抱きしめて呼吸する。背をとんとんと撫でてやると、寝ぼけているか彼女がらしくないことを呟いた。
「…こっちみて」
「どうした」
「わたしの名前よんで」
「?」
「ほかのひとのものになっちゃやだ、 よ…」
涙で潤んだ瞳には、確かに情欲の色があった。
_________その夜、初めてゆきと肌を合わせた。その瞳の奥に滾らせた恋情に、まるで自分の全てが暴かれるようだった。