渦巻ナルトの愛しさが有り余っている
「こんにちは」
「…」
「大丈夫?」
どうせ生まれ変わるなら、ヒーローたちと同い年が良かった。
そう思ってぶそくっていた時もあるが、いま思えば良かったのかもしれない。路地裏の影で、一人蹲っていた金髪を見つけた時そう思った。
この里で、こんな鮮やかな色を持つ人はひとりしかいない。
野次馬精神で一度だけお目にかかったことがある、今は亡き英雄を思い出した。
あの人と同じ真っ青な瞳が、怯えの色を宿してわたしを見上げて来た。その体は抱き上げると少し重くて、わたしはまだ小さな自分を自覚する。だけど、抱き上げられた。それはきっと、この子にほんの少し協力するだけの力はあるということ。
「お出で、甘いお菓子を分けてあげるわ」
「_、」
「わたしはナズナ、お姉ちゃんって呼んで良いよ」
その日、わたしは小さな狐を拾った。
藍らしくも勇猛な、強く気高い、火影の子を。

(…と、当時は感傷に浸ったものよね。だけど、)
これは、どうなのだろう?
べったりと背中に張り付いた子どもに、思わず苦笑いが零れる。文庫結びが顔に当たって痛いだろうに、確りと腕を回して離れない。一応、料理中ということを考慮してくれているのか足は自由だが、今にも絡めてきそうなほどぴったりと沿っている。顔がしっかり背中に押し付けられていて、小さな呼吸を布越しに感じる。…たまに、スハスハしているけれど、息苦しいのなら止めれば良いのに。
「…な、ナルト、そろそろご飯できるから。お茶の準備をしてくれないかな」
おそるおそる言うと、背中に埋まっていた顔がもぞりと動いた。ふわふわの金の髪から覗く水色の綺麗な瞳が、どこか恨めしさを含んでわたしを見上げた。え、こわい。ぞくりと首筋が粟立つ。沈黙して待っていると、「わかった」と高い声が、なぜか低いと感じるトーンで呟かれる。名残惜しそうに握り締めてから離れた腕。解放された腹に思わずほっと息が漏れた。呼吸できるってありがたい。
慣れた様子で急須に茶を淹れるナルトを盗み見る。その姿は、良く薄い紙越しに見ていたオレンジ色のツナギだ。だが、上着は腰に巻いて、いまはTシャツ一枚だ。まだ背はわたしより下だが、出会った当時より大分大きくなったように思う。
(最初は家の周りでちょろちょろしながら様子を窺って可愛かったのに、今は……起きたら何故かベッドに潜りこんでいるもんなあ…)
何時の間にか、起きたら金髪の子どもが身体に絡み付いていることに驚かなくなった自分がいる。すごいぞ、わたし。
青菜と豆腐の味噌汁を二人分装いながら、朝ごはんの準備をする。白米に、甘い卵焼き。もずくとトマトの和え物、焼き魚。我が家の父と母は、行商を営んでいる。仕入れなどの為に村の外にいることが多く、わたしは小さい頃からこの家を一人で切り盛りしていた。そのため、細やかな居候ができても問題はなく、むしろこうして家事レベルがアップしている当たり良い事づくめだ。
(でも、やっぱり…)
これは、どうかと思うのだ。
「な、ナルトさん…アカデミーは良いの?」
「今日は休みだってばよ」
朝ごはんが終わるなり、再びくっつき虫になったナルト。今度は前から抱き着いて、顔が胸に埋まっている。う、うん…細やかだけどね、そこ胸なんだよ、ナルト。掌が時折思い出したように動く。その時に、背骨からお尻の割れ目を沿うように擽られてたまらない。ははは破廉恥!ああでも、子どもの前でそんな恥ずかしい告白できるわけもなくて。
ゆるりとナルトの指が腰を擽る。ぴくりと体が跳ねてしまった。
「っん でも、ナルト…今日は平日でしょ?」
「…自主休校」
「サボり!? またそんな悪いことをして、」
「…ナズナ、うるさいってば」
ぐりぐりと顔を押し付けてから、ちらりと水色の目が上を向く。恨めしそうなそれに、わたしはそれでも年上の威厳を持ってめっと叱る。
「目上の人を呼び捨てにしないの。お姉ちゃんって呼びなさいって、いつも言っているでしょう」
「ヤダ。たかが三つ四つ早く生まれただけだろ」
「17歳と13歳じゃ違います。わたしのほうがオネーサン!」
こっちの話を聞こうしないナルトに強く言い聞かせると、くしゃりと乱れた金髪を掻きながら不機嫌そうな空色の目がわたしを見る。ここは負けじと視線を返すと、ナルトが忌々しそうに舌打ちをした。それを咎めようと思ったが、急に襲ってきた浮遊感にその言葉は鳴りを潜めてしまった。
「え、」
とんと、胸を押された気がする。それだけだ。それだけなのに、全身の力が抜けて、気づいたら畳の上に倒れていた。茫然とするわたしの両腕を、緩慢な動作でナルトの手が拘束する。小さな手が、まるで鉄骨の枷のように手首に絡み付いた。指がさらりと頸動脈をなぞった。被さる金の影が、あまく囁く。
「ナズナの方が、…なんだって?」
「っ、」
立ち上がろうとしたが、なぜか体はびくともしない。ナルトの膝が緩く股関節あたりに被せられているが、それだけだ。それだけなのに、動けない。
「動けないだろ」
「! ひ、ひきょうよ!」
「忍術は使ってない。単純な技術の差だってばよ」
しれっと言うナルトに負けた気がして、かっと体が熱くなる。ぎっと睨みつけると、ナルトの涼やかな青の目に映るわたしは熟れたトマトのようで威厳なんてあったものじゃない。悔しくて恥かしくて、がぶりと噛み付くことしかできない。
「一般人が、忍者に敵うわけないでしょう!」
「解ってたくせに喧嘩を売るな」
「ナルトが生意気言うからよ〜もう可愛くない!」
「暴れると下着見えるぞ」
ナルトが言うのが早いのか、暴れた拍子に思い切り足がでてしまった。それを視界の隅で捉え、慌てて戻すが、しかしその前にナルトの手にぱしりと取られてしまう。
「なっ!」
「…誘ってんのかよ」
ぼそりと何か呟いたと思うと、ナルトがべろんと足をなめた。な、なめた。なめ、なめ…。なああああああああーーーーーーーーー!!!!
「んっ…ちゅ」
「ひっ、あ!」
だけでは飽き足らず、吸い付いて来た。べっとりとした涎の感覚が伝わってくる、しかもそれだけでは飽き足らず噛み付いて来た!さっきまでナルトがわたしの手料理を食べていた口で、歯で、舌で、わたしの足を“食べて”いる。
耐え難い羞恥にわなわなと体が震えた。なのに、ナルトが試す様に含みのある目でわたしを見るから、もう耐えれなくて、もう我慢ならなくて、わたしは、わたしは。
「ふ、え…」
「げ」
「うえ、あ…うわああん」
泣いてしまった。
年上なのに、えんえんと泣いてしまった。そんなわたしの身体に折り重なるように被さり「ごめん、やりすぎたってば」「泣くなって」「ナズナ、ナズナ」と可愛らしく謝ってくる。加えて、ちゅっちゅと涙を吸ってくるもんで、こちらもおちおち悲しんでいられない。やだやだと手で退けても、ナルトの手がそれを攫って畳に貼りつけてしまう。おま、おまえ慰めてるんだよな!?そうして顔にいっぱい吸い付いて来て、精一杯横に顔を背けるがそれは止まらない。口の端に念入りにちゅっちゅしてきて、もう涙は止まってしまった。
「なるとのばかぁ!」