やんちゃ娘と砂の里の我愛羅くん
いやもーね、やんなっちゃうね!
小さい頃から旅芸人の一座に連れられてあっちこっち旅をして、おもしろおかしいことして生きてるんですよ。一座のみんなは面白い人ばかりで、火吹いたり、人の頭に乗せたリンゴをナイフで射抜いたり、ぽんぽん宙返りしたりもうね、人間じゃないね。それを凡人のわたしにやれっていうんだかもう無茶振りもいい加減にして!
「むりですっできるわけないっしょおー!」
「あはははは!」
手渡された芸道具をブン投げて返すも、仲間は笑うばかりだ。小さなわたしが顔を真っ赤にして怒る姿は、彼らにとって笑いのツボらしい。いまだ小さく幼いわたくしはですね、怒るのだけでも体力を使うわけですよ。すっごく疲れるわけですよ。だからふざけられては困ります。
「もうしりゃない!みんなきあい!」
「し『りゃ』ないだってよ」
「き『あ』いなの?えー、ワタリ姉さんはナズナのころ大好きなのに」
「むっ」
「ブハッ単っ純っ!!」
大好き発言に絆されたのはおろかだった。
腹を抱えてヒーヒー笑うシャテキと、かわいいわーと良いながらニヤニヤしているワタリにわたしの頭のなかでぶちりと糸が切れるのがわかった。
「みんなしりません!おばか!」
「お、また家出するのか」
「昼昏までには帰って来るのよ、ナズナ」
「しりません!わかりました!」
うしろで「ブッホ!」と笑い声がしたが知らない。返事が矛盾してるって?しかたないでしょ。これでも養われている身なので、生きていく為には妥協したり、素直になることも必要なんです。世の中って世知辛い…。
(わたし、まだ5歳なの…)
未来を思おうと、溜息が零れてしかたないです。
ほうと悩ましげに頬杖をついてブランコをこいでいると、不意に叫び声がきこえてきました。悲しきかな、世界は平和とはいいがたいです。なので悲鳴を聞くとすわ死ぬ気でかくれんぼ大会の開催かとそわそわしてしまいます。バッと顔をあげてあっちこっち見ると、クモの子を散らすように生垣から飛び出して逃げる子ども達が見えました。なんでしょうか。なにごとでしょうか。
現状を見極めるべくじっとお行儀よく座っていると、またがさりと生垣が揺れました。そうして現れたのは子どもでした。綺麗な真っ赤な髪の子どもです。見た目はわたしより少し大きい位でしょうか。
(どうして、子どもが子どもに?)
わけがわかりません。あと、背中に背負っている大きな瓢箪もわけがわかりません。なんでしょうあれ。七味とか入ってるんですかね。だとしたら相当の辛党とみました。あれだけの七味を常に持ち歩いているとか、わたしと同属ですね。わたしも辛いものには目がないのです。とりあえず何でも辛くするので『そんなに食ってると全身真っ赤になるぞ』と良くシャテキにからかわれました。でももう大人なので驚きません。鼻で笑ってやります。そうすると『可愛くなくなった』といわれるけど気にしません、いたいけな子どもを酒のつまみにする大人の話などしったことかなのです。
「む」
そんなことを考えていると何時の間にか赤い子がじっとこちらを見ていました。そうして見えた顔におどろきました。顔に刺青してます。『愛』…えっと『あい』だったかな。すごいな。一座にも全身刺青の人がいますが、わたしに『子どもまして女の子が体に傷を作るものではありませんよ』とよく言って来ます。そうしてどれだけ刺青が痛いかと事細かに説明してきます。泣いていやだと言っても笑顔で止めてくれないあたり、あいつもシャテキと同じ部類の人間だと思います。
「むむ」
物思いにふけていると、さわりと空気が揺れました。
えっと、ここは砂の国と呼ばれる国です。わたしは始めて砂漠地帯に来たので、入国手続きをしているときからそわそわしてました。どうやらワタリ曰く『敏感肌』らしい。うん、わりとどうでも良い話ですね。
「むむむっ」
気づいた時には砂の蛇ににらまれてました。え、え、まさかこんなことって___!
驚きに固まるわたしに、蛇は近づいてきます。そうして獲物を食むように、わたしを飲み込もうと巨大化します。あわわわ、これはま、間違いありません。
(かれも劇団の子ども!)
よく一座の人たちは、炎や水を自在に繰って見せます。これもそれと同じです。砂は子どものほうから伸びているので間違いありません…!
(ささ、触ってもよいのでしょうか…)
そろりと手を近づけてみると、なぜか砂がびくりと引きました。え、っと思って更に近づけるも逃げられます。え、なにそれ困ります。子どもとは意地になる生き物なのですよ!
「てい___あい、ん〜っ!」
あっちにふわふわ、こっちにふらふら。
そうして何時の間にかブランコから降りてしまいました。まるで蚊を捕まえる読みたいに、ぱんぱんと手を叩いて__気付いたら、子どもの前にまで来ていました。
「お」
ぴたりと止まるわたしを、まん丸に見開かれた瞳が見ていました。綺麗な目です、白みがかった碧の瞳。一度だけみた事があります、これは海の底の化石の色です。なんて、きれいなんでしょう。
彼の後にいる、綺麗な女性とおなじ色です。
(どなたでしょうか)
綺麗な飴色の髪の女性は、じっとわたしを見ていました。そうして言いました。『遊んでくれる?』と、そこでわたしはああと気付きました。どうやら悪い癖がでてしまったようです。___きっと、この人はもうこの世の人ではありません。
こくりと頷くと、女性は少しだけ目元を穏やかにして消えました。まるで蜃気楼のように揺らめいていなくなってしまいました。すると、するりと砂の蛇も消えてしまいます。だがそれには、わたしよりも赤い子のほうが驚いていました。
「なっ…! お、お前なに、を」
「え、わたしのせいなんですか」
「え」
「え」
沈黙が落ちます。えっと、とりあえず。
「いっしょにかんがえましょう」
「……は?」
「さんにんよらばもんじゅのちえとゆう言葉もありますから」
「……『さん』、」
「…えっと……さんにん、ということにしておきましょう。ふかく考えてはいけません」
「…考えるんじゃないのか」
「え、えっと…」
「…」
「…」
沈黙が落ちます。
「おまえ……バカだろ」
「…わ、わりと」
蚊の鳴くような声で呟いたわたしに、赤い子はおもーいため息をつきました。え、名前もまだ知らないのにひどい。