About why I'm hated by God.
初めから信じていたと言えば嘘になる。
産まれた時から家族はいない。他人ばかりの世界で生きて来た俺には、名前を呼ぶ声も。頭を撫でてくれる手も。温かい家も知らない。無条件に与えられるものは何一つなく、乞うても冷たい言葉と暴力ばかりが降り注ぐ。無害であれ、無邪気であれ、無垢であれ。理不尽な世界で求められるのはそんなことばかり、そんな子どもで生きられるほど甘い世界でもないくせに。それでもらしく振舞ったのは、そうすれば少しだけ世界が俺から遠ざかるから…漸く手に入れた平穏と静寂。音を殺してこぼれる吐息に、俺はようやく生きている実感を得られた。
与えられた役割、それを熟せば見返りがある。
その中でのみ、人間は存在を許されるのだ。
その域を、超えてはならない。何時でも俺の前には境界がある、それは他の子どもよりも、人よりも狭い。息苦しいと感じても、その外にある理不尽を知っているから外には出ない。小さな囲いの、小さな城。そこで耳を塞いで疼くまる俺のところに、そいつはやって来た。
「はじめまして!」
「…」
「わたしはナズナといいます、お おおおおともだちになってください!」
それは、御伽の生き物だった。
ナズナは不思議な子どもだった。自分から俺の囲いの中に入って、狭いだろうに、苦しいだろうに、詰まらないだろうに、必死に俺に話しかけてくる。笑いかけて、抱きしめて、名前を呼んでくれる。どうして俺にそんなことをするのだろう、そんな“役割”を熟しても得られるものなど何もないのに。___理解できない、できるはずもない。だってナズナの生きている世界は、俺のそれとは違い過ぎるから。
…いずれ飽きる。
そう思いながらも、彼女の“気まぐれ”に付き合った。適当な言葉を返して、頷いて。それだけでも彼女はとても嬉しそうについて回ってくる。誰にでも笑顔で優しい、それしか取柄のないナズナが………ある日、見知らぬ他者から悪意を向けられた。それは知った顔だった、だからすぐに事態が理解できた。“俺”に向けられていた悪意が、彼女に向けられたのだと。そこにどんな理由があったのかなんて考えている余裕はなかった、突き付けられた現実に頭が真っ白になって、息ができない。ああ、ダメだ。どうして、どうして、どうしてこんなことに。どうして!
「なると、えへへ ころんじゃった」
どうしてナズナは、まだ俺の傍にいてくれるのだろうか。
無邪気に笑っていても、彼女が機微に敏いことを知っている。向けられた明確な悪意に気づかない程、彼女は鈍感ではない。それなのになぜ、俺のところに戻って来てくれる。この小さく頼りない腕は、俺を抱きしめてくれるのか。…ああ、こんな“もろい”もの、きっとすぐに殺されてしまう。世界に押しつぶされてしまう。どうして、今まで気づかなかったのか。
小さく狭い囲いの、俺の城。そこで守られるのは俺ばかりで、ナズナは守ってくれないのだ。
それに気づいた時、俺は自分から“囲い”を跨いだ。_____だれも守ってくれないのなら、俺が、守らなければ。
変らなければいけない。
______役割など熟さなくても、俺は生きることを許されている。
それは君が教えてくれた、この世界でたったひとつ優しくて温かいあいのかたち。
「てい」
「を」
朝からピンポン連打して訪れたナルト宅。寝ぼけて欠伸を噛み締めているナルトをベッドへと押し倒した。ぽかんとしてるナルトの上に馬乗りになって、わたしは息を吸ってはっきりと言った。
「ナルト… いまからセックスしy ぃったああああーーーーーーーーーい!」
台詞の途中で後ろから思い切りグーで殴られた。なになになにごと!?ナルトの上に蹲りながらもばっと振り向けば、そこには室内だというのにイヌの面を被った…昨日ぶりのアヤメの姿があった。
「っなにすんですかこの変態ストーカー! わたしの決め台詞返してください!」
「手前ぇがアホな事言いだすのが悪い、さっさと離れろ」
「ぶへ」
襟首を掴まれて思い切りナルトの横に放られた。みれば、ナルトはすやーと夢の中だ…何時の間に・
「はあんっ ナルトの寝顔、かわゆすっ! 邪魔されるのは想定外だったけど…うん、このままでも作戦続行はかの」
「させるわけねぇだろ ていうかお前もう帰れ!」
「なーんで家主に招かれて入ったわたしが帰らなければいけませんか!? むしろ帰るのはあなたです、家宅侵入罪で訴えますよ! わたしはナルトのナルトをいただくまで帰りません!」
「 」
無言で強制退去させられた。なぜだ…!
そんなことが何回か続けば、時間はあっという間に過ぎてしまう。波の国とかいう木の葉育ちのわたしにはわからない外の国に出かけちゃうし、タイミングが!愛し合うタイミングが!ない!下忍の任務で忙しいナルトは、だんだんとわたしと一緒に居てくれる時間が少なくなっていった。それと比例するようになぜか、なーぜーかー、アヤメがよく傍にいるようになった。なぜ。
「わたしは!ほんとうはナルトと!餡蜜を食べる予定だったんです!!」
「黙って食え、きたねぇな」
ドン!と机をグーで叩くも、アヤメはどこに吹く風だ。
何時の間にか面を外して、こうして昼の間もひっついてくるようになったアヤメは、今やどこに出しても恥ずかしくないストーカーさんである。ぶすりとしながらスプーンで餡蜜をつつく。懐には今日の為に溜めたお小遣い…甘味でラブラブデートして、そのままベッドインするはずの予定が…。
はあ…ため息は止まらない。
ナルトにはナルトの世界がある。彼はいずれ火影になる存在だ。いつまでも独り占めできないことは解っていた。でもさびしくて、すんと鼻をならす。すると伸びて来た銀のスプーンがころんと、わたしの器にフルーツを転がしてきた。わたしが好きなフルーツだ。見上げて見れば、アヤメは素知らぬ顔で餡蜜を食べていた。…気を遣われてしまった。
「アヤメ、意中の異性を落とす必殺技とかあったら教えてください。 やっぱり女はマグロじゃなくてテクニシャンな女豹じゃないと、相手は満足してくれないんでしょうか」
「黙って食え」
アヤメはこの手にはなしになると直ぐに逃げる。
「そういえば」
「また碌でもないこと思い出したのか」
「ちがいます、イジワルな人ですね。 …あなた、ずっと誰かに似ていると思っていたんです」
じっとアヤメを見上げると、彼は珍しく無表情を顰めた。
夕焼けの赤が迫って来て、帰り道を暗がりにしてしまう。菖蒲は黒髪黒目の特徴のない色をしていた。だが顔立ちは端正で涼やかだ、それは誰かを彷彿とさせると何時も思っていたのだ。そして、つい先日思い出した。
「先代に似ているんですね 四代目火影の、ミナトさま」
それはつまりナルトにも似ているということだった。…確かに、ナルトの20代後半バージョンかもしれないぞ、これは。性格が全然違うから、今まで気にしたこともなかった。
「アヤメあやめ、金髪青目になってもうちょっと溌溂とした笑みを浮かべてみてください。ナルトっぽく!ナルトっぽく!」
「断固断る」
「じゃあナルトに変化するだけでいいからー!」
「まったく妥協してねぇじゃねぇか」
「さびしーんです! 乙女心を察して下さい、このロリコン!」
わんわんと喚いたら、アヤメが舌打ちをしてわたしをひょいと担ぎ上げた。驚いたのも束の間、気づけばナルトの部屋にいた。え、え、どういうマジック。え。絶賛一般人のわたしは意味が解らなくて、呆然と固まったままベッドに降ろされた。するとアヤメが静かに印を組む、わたしにもわかる速度で幾つかを組み終えると、ぼんっとどこからともなく煙があがった。そして目の前には…
「…… これで、満足か?」
シニカルに笑う、ナルトが、いた。
え、 う、 うわ!それナルトが絶対できない笑い方!
「うわああああなるとぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
「っ おい! 中身は俺だっ、わかってんのか」
「うわああああん」
ぎゅうぎゅうと抱きつくと不満そうにアヤメが怒鳴る。妙に機嫌が悪そうだか気にしてなどいられない、わたしは久しぶりのナルトの感触をもっと深く感じたくて。目をつぶって、首筋に顔を埋めた。くんと匂いかぐと、びくりとアヤメが震えた「おい」と低い声に注意された。ごめんなさい。
「…ぐすっ なるとぉ」
「… …」
弱っているのが、わかったのか。アヤメはそれ以上何も言わず、ただぽんぽんと優しくわたしを抱きしめてくれた。それはまるでナルトそのもので、…ああ、そういえば何時も監視しているんだっけ。ナルトがどんなふうにわたしを抱きしめてくれるのかなんて、知っていて当然か。
「うーっ ナルトに変なムシがつくまえにわたしのものにしたいのに…」
「…お前、時々とんでもない爆弾落とすのやめろ。 第一、あのガキにムシなんてつくわけねぇだろ。お前あのガキのことちゃんとわかってんのか。ドベでマヌケで、頭も悪ければ忍術もろくすっぽ使えない落ちこぼれだぞ」
「ちがいますー ナルトはいずれ火影になるスーパーかっこいいわたしの旦那さまです」
「ハッ 現実みろよ。 あいつには無理だ」
「無理じゃないよ」
身体を起して、アヤメの目を真っ直ぐみる。無理じゃない、しっかりと口にすれば、蒼い目が少しだけ揺らいだ。くしゃりと苦しそうにナルトの顔がゆがむ。あ、ちがうアヤメだった。
「…自分から言って置いて難だけど、その顔だと本当にわからなくなりそう。やっぱアヤメもとの格好に戻って」
「手前がやれっつんだんだろ」
「だからごめんって言ってるじゃないですか。 はー、やっぱりわたしチャクラとか忍術の才能ないみたいです。まったくわからない。もうナルトに見える、ナルトが目の前にいる気分。やばい、襲っちゃいそう」
「…」
「呆れた顔してないで早く戻ってプリーズ」
早くと言葉を重ねれば、アヤメは一息で元の姿に戻った。黒髪黒目、何時もの暗部の姿にほっとする。その奥で、つかの間のぬくもりが慰みであったことを知り、少しだけ心臓がきしむ音がした。
「…ナルトは、やっぱりすごいなあ」
「…」
あなたがいないだけで、わたしはこんなにも弱虫になってしまう。
あったかい太陽みたいな笑顔が見たい。元気な声を聴きたい。ぽかぽかと暖かい指先で触れてほしい。それだけで、わたしは強くなれる。