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遊城十代の部屋で雨宿りする



夕立ちに襲われた。
オシリスレッド寮に走ったが、途中で泥に足をとられて転びそうになった。土まみれになる前に十代が助けてくれたが、足首が尋常なくひりひりする。そんなわたしを目敏く察して、ひょいと抱き上げて走ってくれる十代は本当に王子様かなにかなんだと思う。いっそ殺してくれ!

「まち、靴脱げるか?」
「う、うん … ありがとう」

どきどきどきどきばくばくばくばくと暴れまくる心臓を抑えて、十代に玄関に降ろしてもらった。赤いであろう顔を隠したくて、びしょ濡れの前髪を指で弄っていると、上の方で十代が「ついてねぇな」と頭を振った。しっとりとした茶髪が水気で束になり、頬や額に張り付いている。鬱陶しそうに前髪を掻き上げると、普段は明るく元気なキャラクターに隠されてしまいがちな、整った甘い顔立ちが覗いてぼっと全身が熱くなる。かっこいいです十代くん!

「暫く止みそうにないぜ。 まち、このまま雨宿りしてくだろ?」
「え、     え˝!? いいの!?」

驚きのあまり声が上ずる。靴を脱ぎ捨てた十代はそんなわたしに気づかず「おー」と気前のいい返事をくれる。ラブイベント!ラブイベント発生ですよ奥様っ!!!

ひええええええともだえ苦しんでいると「まち」と名前を呼ばれる。ばっと振り返ると、目の前には見慣れたジャージとタオル。へ。間抜け顔で見上げる。

「着替え、いるだろ?」
「…あ、 ありがとうございます」
「俺あっち向いてっから、終わったら声かけろよ」






オベリスクブルーの女子制服のインナーとジャケットを畳み、下着と薄いキャミソールの上にジャージを羽織った。十代は同年代の男の子と比べると細身だが、やはり男の子だ。余った袖口にきゅんきゅんしてしまう。油断すると抜け落ちてしまいそうな短パンに気をつけながら、十代に声をかけてわたしは発狂した。

「お、終わったか。 足の具合どうだ? 結構ひでぇ転び方してたろ」
「じゅ じゅじゅじゅ じゅうだい! 上は!?どうして裸なの!?」
「服ない」
「ない!?」
「俺制服以外にジャージしか持ってないんだよなあ」

わ、わからない…男の子ってそんなものなのか?女子が服持ちすぎなのか?悶々と考えているうちに、十代が掌でちょいちょいと呼ぶ。大人しくひょこひょこと近寄れば「足、見せろよ」の一言、好きです。

十代は細い、だが、その身体はしっかりと男の人だった。小麦色に焼けた羽だとか、左手の方がうっすらとついている筋肉の筋とか。わたしの汚い足を触診してくれる指は丁寧で、まるでいけないことをしているようだった。

「悪いな。湿布とかあれば良かったんだけど」
「ううん、あんまり痛くないから大丈夫。 ありがとう、十代」

水気を絞ったタオルで足首を冷やして貰いながら、お礼を口にする。十代はジャージの長ズボンはいて、濡れた髪をがしがしとタオルで拭いている。もうその光景がみれただけでごちそうさまです、という気持ちだ。

「寒くねぇかまち」
「うん」
「なんか欲しいもんあれば言えよ。  下に食堂もあるからさ、」
「うん」
「…」
「…」
「…あー…」

突然、十代が居心地悪そうに頭を掻く。え、なにか変なことをしてしまっただろうか。慌てて「どうかした」と詰め寄るわたしに、十代はびくっと身体を揺らした後掌をぶんぶん振って見せた。

「ちが、 あー… なんとなく、 悪ぃ、俺なんか気持ち悪いこときいたか」
「ううん、そんなことない。 むしろわたしの方こそごめんね。雨宿りさせてもらって、ジャージまで…」
「? それは気にする所じゃねぇだろ。 雨がいつ降るかなんて誰にもわかんねぇしさ」
「…そうだね。 うん、でもそう言ってくれるのが嬉しいの」

当たり前のようにそう言って、優しくしてくれることが嬉しい。
へにゃりと情けない顔で笑うわたしに、十代はぽりぽりと頬を掻いた。そして思い出したように脱ぎ捨てたズボンからデッキケースを取り出して「とりあえず、雨が止むまでデュエルしようぜ!」と言う。喜んでわたしは頷いた。







ざあざあと雨が降る。
止む様子がないそれを、僅かにあけたカーテンから見ていた。しゃっと閉じて部屋に戻れば、三段ベッドを背もたれに、すやすやと眠るまちの姿ある。その傍にはデュエル中に実体化したハネクリボーが寄り添っていて、大きな目を閉じて同じように寝息を奏でている。

(…上、なんかかけてやる方がいいか)

これが万丈目や翔なら放っておくが、まち相手にそうはいかない。彼女は自分とは違う、腕の細さも体の柔らかさも、何もかもが違う。弱くて、小さな…傍にいてやらないと直ぐ死んでしまいそうな存在だ。シーツをかけてやった後、十代はまちの前に座り込みぼんやりとその姿を見つめた。今までこんな風に、傍にいてくれるなら何でもしてやろうと思ったことはなかった。自分の傍が心地よいようにと、相手の気持ちを慮る様になったのは初めてだ。その小さな変化は、十代の世界を着実に変えている。全部ぜんぶ、まちに出会ってからだ。

「……まち、」

手のひらで押し潰す様に口にした名前は、酷くあまい砂糖菓子を噛み砕いているようだった。その味を、未だ知らない十代は、瞳を閉じて暖かな余韻を胸に感じた。

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