フッたはずの白石蔵ノ介くんにチューされる
「白石くん、すっごいモテるでしょう?」
「えっあ、お、おぅ…そうやなあ、モテるなあ…ぶん殴りたいくらい」
「でしょう。それにとっても優しいから、先生にも後輩にも好かれていて、まさにパーフェクトでしょう」
「お、おん… てか、さっきから白石褒めてばっかやん自分、」
「うん、だって白石くんのこと好きだもん」
「! って、な、ならなんで白石フッたんや!」
「だからダメなんだよ。わたしじゃあ白石くんが好きすぎて、男女問わずぜんぶに嫉妬しちゃって白石くんが白石くんじゃいられないよう壊しちゃうもん」
淡々とした告白に、同級生の忍足くんは開いた口がふさがらないという顔をする。それが面白く思わず笑えば、ハッとした様子で慌てて口を閉じて居住まいを正した。ベンチに座っているわたしたちの間には人一人分の距離があって、忍足くんは合わせた掌で指をくるくる回しながら言う。すっごいくるくるくるくる回る指に気を取られながらも、わたしは聞く体勢をとった。
「お、俺は…むずかしいことわからん。でも、白石メッチャいいやつで。俺はいっちゃんダチやーっておもっとるから、アイツは幸せにならアカンねん」
「うん」
「せやから相手がまちやって知ったとき、俺ごっつ嬉しかって。やって! まちは白石があー言わんかったら、俺が告ったる!っておもってるくらいエエ女やもん!めっちゃ理想のカップルやん!オレ的に!」
「俺的とか、うける」
「なーーのーーに! まちにフラれたって白石にきいて、心臓はじけ飛んだわ!死んだわ!この先50年は見ん筈だった三途の川見てしもうたわ!!」
「忍足くん64歳くらいで死ぬの?」
「かわいく小首傾げてもアカンで!俺はいまおこっとるんやからな!!」
「知ってる知ってる」
「なんて白石とくっつかんのやあまち!」
「だから、わたしじゃだめなんだって」
「なんでやァ!」
「そのうちわかるよ」
きっと、大人になれば解る。
きょとんとする忍足くんににっこり笑って、わたしは小さく息をついた。そよそよと風が流れて来て気持ちが良い、心は穏やかだった。昨日、あの四天宝寺中学の王子様をフったとは思えないほど日常的で、何時もどおりの時間だ。そろそろ帰ろうか、そう忍足くんに切り出そうとしたら「わかるかなあ」って後ろから聞こえた。
あまり耳馴染のない声に誰かと振り返ろうとしたら、頬につうと冷たい指が滑った。驚いてびくりと跳ねるわたしの首にほどよく焼けた長い腕が回される。その手には包帯がぐるぐると巻かれていた。
「俺にもそれ、わかるかなあ。花酒さん、」
「し、らいしく、」
「ううん、ウソ。ごめんなあ、ウソなん。ほんとはなにも解りたくないねん」
だから
がっと大きな掌が顎を掴む。そうしてぐいと乱暴に顔を持ち上げられた先で、薄くて冷たいものが口に触れた。わたしの目には、ぼこりと盛り上がった喉仏が見えた。
「____だって、俺。諦め悪いから」
口の中に溶かす様に呟かれた。最後に名残惜しいというように唇を舐めて、白石くんがわたしから離れる。わたしにキスした白石くんが、わたしから離れる。
(舌…あつかった、)
生々しい感触、ざらりと猫のような他人の舌…熱い、した。
茫然と見上げる先で、象牙色の髪を少しだけ頬に貼りつけた白石くんがうっとりとした顔で笑っていた。
「待ちきれんもうて、奪ってもうた。堪忍な」

The Prince do not escape the prey caught
「……」
「キャー」
となりで忍足くんが顔を真っ赤にして、顔を掌で覆っていた。女子か。