遊城十代におかえりなさいをいう
チェンジリングという言葉がある。
それは子どもが魔物に誘拐され、魔物の子と取り換えられる話。取り換えられた魔物は、しかし子どもと瓜二つで親でさえ判別がつけられないという。だが彼らは人ではなく魔物、その異端さは…一目で知れ、周囲は畏怖し、忌み嫌ったと言う。
「十代」
それは全く違う人の名前のように思えた。
三年ぶりに再会した友人は、都会では見る事のない真っ赤な制服に身を包み悠然と佇んでいた。
「まち、久しぶりだな!」
「…」
「いやー夏休みとか帰ってこれなくてごめんな! 色々あってさ、デュエルアカデミアはスゲー所でさっ 毎日飽きることがねぇってうか、退屈させてくれねぇんだよ! だからえーっと…忘れてたわけじゃないぜ! マジで、これは本当に!」
「…」
「……まち?」
首を傾げて、不思議そうにこちらを見つめる胡桃色の瞳。同じ色のはずなのに、全く違う色に見えるのはなぜだろう。わたしよりずっと大きくなった背丈とか、男らしくなった肉付とか、細くなった顎のラインとか。他にももっと違う所はあって、それは想像していた成長のはずで。なのに…なぜ、____こんなにも、目の前の人が他人に思えてしまうのだろう。
十代の顔からすうと微笑が消えた。それが目の前の違和感に拍車をかけるようで、びくりと体が震えた。委縮するわたしに、十代はなにも言わない。おかしいと思っているはずだ、十年来の知人が少し成長しただけの相手を前に怯えるなんて、ありえない。ありえないことだ、誰よりわたしがそう思っている。なのに、震えは、止まらない。
沈黙するわたしに、十代の手が伸びて来た。頬に触れようとするそれが、一瞬真っ黒な鱗に赤い爪をもつ異形のそれに視えてしまう。そうしたらもうダメだった。堪らずに逃げ出そうとしたわたしを、しかし、十代は許らなかった。
「逃げるな、頼むから」
「っ …!」
「大丈夫… 俺も、コイツも何もしないから」
掴まれた肩に触れる手が、ぞっとするほど冷たかった。目の前に迫った十代に、大丈夫と言われてもなにがと怒鳴って返したい。でも、できない。恐いからだ。十代が、十代…その中にある異物を、怒らせることが恐い。
「じゅ、 じゅーだい、こわっ こわい」
「解ってる」
「おねが、 にが、 はなして」
「できない」
「ど、し」
「………二度と、戻ってこねぇ気がするから」
俺の所に。
その言葉は、空気に溶けて消えるようだった。ずるりと身体から力が抜ける。コンクリートにぺたりと坐り込んだわたしの腕が、十代に捕まれてぶらんと揺れた。逃げる気力すらないのは見て取れるだろうに、腕を掴む十代の手は緩む気配を見せない。
「じゅー、だ い」
「…ああ」
「アカデミア、楽しかった?」
「ああ、…楽しいことだけじゃなかったけどな」
「ともだちできた?」
「たくさん、今度紹介する っても、暫くはムリだろうけど」
「十代」
「…」
「十代、だよね」
するりと力を込めて、十代の腕に触れる。手首を掴んでいた手が緩み、それに応える様に絡み取って…きゅうと繋いでくれる。
「ああ、 俺だよ。まち、」
「 」
泣いて、悲鳴をあげてしまいたかった。
堪えきれずに抱きしめれば、十代は確りと受け止めて「なんで泣くんだよ」と破顔した。それすらどうしようもなく痛くて、わたしはただただ彼を強く抱きしめることしかできなかった。
「おかえりなさい」
漸く出て来た言葉はそれだけ。十代はなにもいわずに、強く抱きしめてくれた。その手は確かに人の温かさを孕んでいて、わたしはまた無性に泣きたくなった。
