くろこのばすけ | ナノ

中学生の赤司征十郎と図書館で勉強する


ぺらりと、赤司の指が雑誌を捲った。

赤い睫毛に影を作りながら月刊バスケ雑誌を読み進める赤司征十郎を緒戸は両手で頬杖を突きながらじいいと見つめた。

休日の昼下がり、緒戸と赤司は図書館に来ていた。
ともなれば当然の如く私服である。緒戸は改めて雑誌に夢中な赤司の姿を見た。

上は被るタイプのシンプルなパーカーで、首元からはチェック地のシャツ襟が見えている。下は淡い色合いのカーゴパンツにオシャレなワークブーツ。アクセサリーの類は、ズボンのポッケに無造作に入れられた財布に繋がるチェーンくらいのものだ。

余談だが、赤司は帝光中学では何時もぴっしりと制服を着熟している。ネクタイは綺麗に縛られ、ブレザーには皺ひとつない。背筋が綺麗なことも相俟ってとても大人びた印象を受ける。

対してバスケ時は打って変わる。膝丈のスポーツパンツにTシャツ。何時もスラックスで隠された足を出し、体育館を駆け回る様は制服の時と違って幼い…年相応の印象を受ける。

なら、私服は?

正直意外だった。そんな彼なので大人っぽく決めて来るか、はたまた年相応なカジュアルな格好をしてくるかと思っていたのでこれは予想外だ。

(でも似合ってる)

服装のお蔭で何時もの近寄りがたい雰囲気が緩和されている。普段から『近寄りがたい』という理由で女生徒から直接的なアプローチを受けない赤司だが、これならそんな彼女たちの悩みを立ちどころに解決するだろう。今の彼は話しにくい雰囲気のない、とてもカッコいい男の子だ。

「緒戸」

不意に名前を呼ばれてビクリと体を揺らしてしまった。「え」っと漏れた声がなんともアホらしい。序に握っていたシャープペンも落ちたのでマヌケさ倍増だ。

あわあわと慌てる緒戸に対し、赤司は呆れた様に溜息をつくと転がって来たシャープペンを掴んだ。「ほら」と呆れ混じりに渡される愛用のシャープペン。何時もは何気なく使っていた筆記用具だが、赤司の大きな手に持たれると…こんなにも小さく見える。

「ありがと、」
「随分とアホ面を晒してたな、宿題は終わったのか?」
「むぐっ」

受け取ったシャープペンを両手で握り言葉を詰まらせる緒戸の姿に、赤司ははあと隠す気もなく溜息を吐きだした。そして手にしてた雑誌を閉じると緒戸が開いていた教科書を奪った。

「あっ」
「_____数学か…、どこが解らない?」
「え、えっと…」
「早くしろ」

緒戸は馬鹿な顔をしているがそこまで馬鹿じゃない。
帝光中学でも成績はどちらかと言えばトップだし、そりゃあ主席の赤司には敵わなくともこの程度の問題では躓かない。…さっきのは、赤司に見とれていて進んでなかっただけだ。

でもそんなこと言える訳もなく、緒戸は羞恥交じりに解き進めていた教科書の一部を指した。ううっ…こんな問題も解らない馬鹿だと思われたら最悪だ…!

断腸の思いで嘘を着いた緒戸に対し、赤司は指示させられた場所を一瞥するとぺらぺらと他のページも捲りだした。暫くそうした後、所定のページを開きなおした教科書を緒戸のノートの上へと戻す。

「この問題は二次関数の応用だな、…落ち着いてやればお前なら直ぐ解ける」
「う、うん…」
「代入式は解ってるんだろう? もし答えがでないとしたら計算ミスだ、ノートに書いてある式で合っているからもう一度計算してみろ」

赤司の朱と金朱のオッドアイに促され、緒戸はこくこくと頷いてノートに戻った。かりかりと途中まで書いてあった式をシャープペンを継ぎ足していく。やがて導かれた数字におそるおそる赤司をみれば、じっと緒戸のノートをみていた彼がこくりと頷いた。

「正答だ」
(ほぅ…良かった)
「次行くぞ」
「!?」

はたまた余談だが、緒戸はあまり人のいる前で勉強するのが得意じゃない。
そんな彼女が赤司と図書館で宿題を捌くことになるなんて、どういう経緯かは聞かないでほしい。

(うう〜緊張するっ)

赤司に言われ、次の問題を解いていると不意に名前を呼ばれた。

「…緒戸」
「ん?」
「あと3ページ頑張れ、そしたら昼飯を食べに行こう」

赤司の言葉に緒戸の手が一瞬止まる。

「お前が好きなもので良い。オレも手伝ってやるから早く終わろ」

相変わらずの上から目線。…彼は、ただ図書館に来る相手が欲しかっただけかもしれない、宿題がやりたかっただけかもしれない…一緒に昼食を食べる相手が欲しかっただけかもしれない。
本当にそれだけで、私が誘われたことに他意なんてないかもしれない。

それでも、

「緒戸…?」

それでも、こうして一緒にいられることが嬉しくて。
『好きなもので良い』『手伝ってやる』なんて言葉が嬉しくて。

「…ううん、なんでもないです」

頑張ろうと、思ってしまう。


(きっと私がこんなことで一喜一憂してるなんて思わないんだろうなあ)
(きっとオレが冬休みに会いたいって言った意味…解ってないな)

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