くろこのばすけ | ナノ

人事を尽くす緑間真太郎に手を握られる


「手、」
「?」

差し出された手に意味が解らず首を傾げると緑間くんが不機嫌そうに繰り返す。

「手を出すのだよ、早く」
「? なんで?」
「それこそ何故だ」

真剣な目で問い返して来る緑間くんにあ、これ面倒臭いと判断した私は「あ〜はい、どうぞ」と言葉を濁して緑間くんに手を差し出した。掌を見せて差し出した私の手、緑間くんはそれを取るとくるりと回した。あ、手相見てくれる訳じゃないんだ。

(緑間くん、手おっきいな…)

私の頭は単純で、物事はところてん式に抜けて行く傾向にある。私の歪な手を、まるで騎士がお姫様の手にキスする時のように優しく持ってくれる緑間くんの手。さっきまで『何故手?』で満ちていた頭があっという間に『緑間くん』自身でいっぱいになってしまった。

中学生の癖にデカすぎる緑間くんはやっぱり手も大きい。真っ白で長い指、一見するとハンドクリームのCMで使われそうな綺麗な手をしているが、こうして触ってみると違うことに気づく。掌が思っていたよりもずっと分厚くて硬い、…バスケの所為だろうか?

私は良く解らないけど、緑間くんなりのこだわりを持って施されている指先へのテーピングが私の掌の下を滑る。

(指、長いなあ)

近くで見ると意外に節が確りしている事が解った。あと低体温、だ。だからおしるこ缶ばっかり飲んでいるのかなぁ。

そう思いながらぼうとしている内にも緑間くんの手は動く。指先を滑る様に緑間くんの指が重なって、黒縁眼鏡の奥の新緑色の瞳が美術品を鑑定する様に厳しく細くなる。そうしてぴったりと重なり合った手。私の小さくて粗末な手は緑間くんの手の半分しかなかった。

「…小さいな」
「緑間くんの手はおっきいね」
「そうか? 色紙が小さすぎるだけなのだよ」
「緑間くんが大きすぎるだけだと思うよ」

そこで会話は途切れ、しばしの沈黙。
うーん、手を合わせながら沈黙って変な感じだ。教室に漂う砂糖を沢山いれた生クリームの様な空気に酔ってしまいそう。

「私、サッカー部の××君とかタイプなんだよね…」

どう考えても話題のチョイスをミスった。
うわヤバイ。私どんだけだよ、どんだけ空気に酔ってんだよ。慌てて会話のドリフトを切ろうとしたが「色紙」と緑間くんに言われてどきりとする。

「中々の趣味だな、お前」
「…どうも」

流石B型。会話の方向性までマイペースか。緑間くん天然説に拍車がかかって来たな…

(……てか、何時まで手合わせてるんだろ)
「色紙、お前は日々人事を尽くしているか」
「え、じ、人事ですか…」
「そうなのだよ」
「えっと、それなりに…」
「ほう、毎朝おはスタの占いを見ているのか」
「そこまでは…してませんけど、」

でもできることは頑張ってます。そういうと、緑間くんは笑った。笑ったって言うよりも、目を細めてちょっとだけ口元が緩んだだけだけど…私には笑って見えた。

「そうか、」

そう言って緑間くんは私の手をぱっと放す。繋がっていた熱が解けてほんの少しさびしい、放された手を無意識に摩っているとブリッジを押し上げた緑間くんが「だが、」と続ける。

「俺の方が人事を尽くしている」

正直ドヤ顔で言われても困る内容だ。だが前述した通り私の頭はところてん方式なので『緑間くん』でいっぱいの今の私の頭ではそれが仕様もなくカッコよく見えてしまう。

(むむっ私ってば現金だ)

少し火照った頬をぺしぺしと叩いて覚ましながら私は緑間くんに訊ねた。

「そ、それが(やべ噛んだ)…それとこれに何の関係があるのさ…」
「愚問なのだよ、色紙」

だから何がだ。
そう言外に込めて緑間くんをねめつけるれば、渋々と言う感じに彼は答えをくれた。

「日々あらゆる人事を尽くしている俺とお前ではどちらに天命が見方をするかは明白だということなのだよ」
「意味が解らないです」
「…いずれわかる」

訝しげに小首を傾げる私に、やっぱり緑間くんはお得意のすまし顔をしていた。
そうして教室にぽつんと1人残された私は、緑間くんの所為ですっかり冷えてしまった手を1人見つめていた。


掌温度

(この出来事をきっかけに緑間くんと距離が縮まったのは、きっと彼のいう所の“天命”なのだろう)

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