くろこのばすけ | ナノ

誕生日祝いに猫耳の花宮真をもらった


「………」
「フーッ…フーッ」

霧崎第一高校のバスケ部部室。その中央に置かれたパイプイスに修羅がいた。
修羅は目を真っ赤にして怒りの形相を浮かべている。餓えた獣を前にしたような、何時襲い掛かって来てもおかしくない気配を感じるが、その心配はなさそうだ。なぜなら、修羅はパイプイスに荒縄で縛り付けられているからだ。

「なぜ荒縄…」
「その方が雰囲気でるだろ」

この異様な光景を目の前にしても、古橋は淡々としていた。まあそれはそうだろう、恐らく彼が、目の前の修羅を拘束したのだから。

(とういうか…なんで、)
「ぐっ、ごふ、ふー!」

さきほどから何か叫んでいるが全く分からない。それはがっしりと口に咥えさせられたボールギャグの所為だ。だが緒戸が気になっているのはその更に上…修羅の艶やかな黒髪の上に被せられた猫耳カチューシャだ。

「練習試合もないのにわざわざユニフォームに着替えさせた上で拘束してカチューシャを着けるのがこんなに大変だとは思わなかった」
「うん…それやろうと思う人も中々いないよ…」
「フッーーー!!!」

古橋にドン引きする緒戸に対して、修羅…基、拘束され猫耳を着けられた花宮のボルテージはどんどん上がっている。ダンダンッガタガタとパイプイスの揺れる音が大きくなった。

「え、本当にどうしてこうなったの?」
「え、色紙の誕生日祝い」
「え」
「え」

きょとんと互いにクエスチョンマークを浮かべて小首を傾げる中、緒戸は思い出した。
そういえば瀬戸にこの間『誕生日プレゼント何が欲しい』と聞かれ、『特に何もない』と答えた。だがその派生で、花宮はその日も忙しいから一緒に祝ってもらうのは絶望的だろうとか、最近猫がブームだとか、そんな話をしたようなしなかったような。

「…瀬戸くん、頭の使い方間違ってるよ…」

花宮といい、どうして頭の良い人は素直にその知識を社会に貢献しないのだろう。頭が良すぎる人の行動というのは、常人の理解では到底及べない。

「じゃあ、俺は行くから」
「ちょ、放置!?」
「見回りの教師には手をまわしてあるから、明日までごゆっくり」
「はあ!?」
「あ。シャワー隣だから。自由に使って」
「そう言う問題ではなく!っちょ、」

緒戸の制止も虚しく、古橋はとっとと部室を出てしまう。しかもガチャリという音が聞こえて来て、緒戸はハッと扉に縋りついた。ノブを回すが押しても引いてもビクともしない。

「と、___」

閉じ込められた。
どさりと肩に下げていた鞄が落ちる。もう何が何だか解らない。ぐうの音も出ない。そろそろと後ろを見れば、こちらを射殺そうと眼光を鋭くする花宮がいて。緒戸は嗚呼と悟った。これは、人生最悪の誕生日になりそうだ、と。

「と、とりあえず花宮くん…お、落ち着いて」
「フッ、フーッ!!」
「わ、わかった!取り敢えず解くから!すぐに開放するから!」

ダンダンと足踏みで威嚇され、緒戸は慌てて彼に駆け寄った。
取り敢えずどうしようかと見分する。花宮の腕はパイプイスの裏で何やら複雑に荒縄で結ばれている。ラフプレーに慣れしている彼を警戒したのか、拘束は二の腕にも成されており、腹部、太腿、足首と細かに成されている。

「ん?」

そうしてぐるりと彼の周りを回ると、パイプイスの下に何か隠れていることに気づいた。見ると紙袋が置かれている。何かと引き摺り出すと、パイプイスに括りつけられた砂袋を見つけた。もう何も言えなかった。

(なんだろう)

がさりと開いた次の瞬間、緒戸はバッと封を戻して素早く元の位置にそれを戻した。かあああと顔が真っ赤に染まった。な、なっ…!

(なんであんなものが…!?)

入っていたものを思い起こしては、ぼんっと体の中で熱が弾けた。
中には…猫の尻尾が入っていた。いや、ただの猫の尻尾じゃなくて、その…夜のおもちゃというか、そういうもので。

(ふふふ、古橋くん何考えてるんだ!?いや、この場合瀬戸くんもか、っていうかいい、いったいどこでこんな…!)

いや、正直バスケ部員なら山崎くん以外平気な顔して買いに行きそうだけれども!
そこではたと思う。いや、そんなわけないと思いながらも思いついてしまった可能性に目を背けられない。ま、まさか、

(これ、花宮くんのって…わけないよね)

そんなわけないと思いながら、緒戸はそろりと花宮の顔を覗く。上気した頬、ボーグギャグ越しに零れる熱い吐息に、眇められた目…じとりと見ていると、いい加減変わらない状況に痺れを切らしたのか花宮がぎろりとこちらを見て来た。だが、普段ではそれで怯える緒戸が負けじと彼を睥睨する。

「は、花宮くん……まさかと思うけど、これ…自前じゃ、ないy」

続きは、ガンッと床に降り下ろされた花宮の足踏みに遮られた。彼の全身から漂うドス黒い雰囲気が圧を増し、人一人殺しそうな眼光が緒戸を睨みつけた。

「す、すみません…す、すぐに外しま、外します、」

かたかた震えながら花宮の足元に座り込んだ緒戸に、花宮は漸く満足そうにふんぞり返った。…拘束されたままだと、その姿はわりと滑稽なのだがそれに突っ込む人間はこの場にはいなかった。彼の足に巻き付いた荒縄はある程度空間が用意されている。緩いために、彼が暴れない限り怪我しないが、決して結び目を解かないと抜けないその拘束からは、なんとも歪な優しさを感じて正直そっと目を反らしたい。

(と、とけない…)

指で縄を摘まんで引き抜こうとするも中々上手くいかない。流石は男の力で結ばれたそれというべきだろう。本来なら楽そうなボールギャグから取り掛かりたいが、いかせんこの現状で花宮の暴言を浴びせられながらの作業はSAN値が持たない。なので、上でなにやら怒鳴っている彼は無視させてもらおう。緒戸は作業に集中しすぎて何も聞こえてない何も聞こえていない何も聞こえていない…!

(…な、なんだろう…なんか変な気分になって来た)

縄を解こうとして、何度も花宮の足に触れてしまった。男らしい太い足首は緒戸のそれと違い、皮膚も骨も厚い。触れた先に感じる脂肪ではなく筋肉の温度にぞくぞくしてしまう。少し顔を上げれば、うっすらと筋肉の浮かぶ二の足が見えて、ぶるりと背が震えた。

(わ、わたし…エスっ気ないのに、)

そういうのはむしろ、花宮の担当なのに。
そんなことを思いながら、見えない魔力に操られる様にして緒戸は花宮の足にキスをした。ちゅうと緒戸の唇が触れると、びくりと花宮が震えた。熱に浮かされながら、ゆるりと見上げると花宮が珍しく目を見開いて緒戸を見ていた。驚愕、そんな言葉が似合う花宮のめったに見せない動揺した姿に、ふるりと太腿が震える。あ、駄目だ。

「…、」

緒戸はそのまま、ちゅっと膝頭にキスをする。そうして彼の足にキスの雨を降らして、その筋肉の浮かび上がった足に掌を這わせていく。何度かそうしていると漸く我に返ったらしい花宮が唸り声を上げた。止めろ、そう言っているのが雰囲気で解った。でも止めない。暴れる足を跨いで腰を下ろす。すると、足踏みのためにあげられた甲が緒戸の下着を擦る。

「あっ」
「!」

零れた嬌声に、花宮の足がぴたりと止まる。それをいいことに、緒戸はするりと身を寄せてちゅうと花宮の内腿に口付けた。

「は、花宮…くん、」

恥ずかしい、だってこんなことしたことがないから。でも、もう、止められない。
緒戸はゆるりと花宮のユニフォームに手をかけた。そうして裾の内から侵入すると花宮の身体が跳ね上がる。そのまま彼の膝に伸し掛かる様に体を這わせ、緒戸は今にも飛び出してきそうなほど鼓動を重ねる心臓を必死に抑えながら、彼の足の付け根に顔を埋めた。

「ちゅ」
「っ!」

薄いユニフォーム越しに唇を押し付けたそこは、既に熱い熱が籠もっていた。
つんと鼻先をつく匂いに気押されながらもちろりと舌で“そのあたり”を探る。最初はたどたどしいソレも何度も繰り返せば次第に慣れて来て、気づいた時には度重なる戯れにその熱はくっきりと形を顕にして、緒戸の舌はねっとりとそれに這わされていた。

(…起ってる)

こくりと息を呑んで、パンツに手をかける。ズラすと黒いトランクスが見えた。は、花宮くんはトランクス派なのか…知らなかった。

花宮と体を交えたことは何度かある。だけど片手で数えるほどだし、全て花宮が主導権を握っていた。緒戸はただただ与えられるばかりで、何時も花宮が繰れる甘い感覚に溺れている。それを享受するのに精一杯で、こんなことをしたのは初めてだ。

(ま、漫画とかで見たことあるし…多分、できる。うん、き、気持ち良くできるかは…自信ないけど、)

それでも、やろうと思ってしまったのはきっと花宮の猫耳カチューシャの所為だ。

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