くろこのばすけ | ナノ

花宮真とコンビニ


「まーくんは何にするの?」

ふりかえった花宮くんの顔はこの世のものとは思えないほどに歪んでいた。

「ブサイク」
「てめぇが変な呼び方するからだろが!」
「え、いいじゃん。ほら、スマップの一番歌の下手な人みたいで」
「俺は音痴じゃねぇ!」

「一緒にすんな!」と怒鳴りながら、片手にぶら下げたカゴに辛子明太子のおむすびを投げ入れる。おいおい、潰れてしまうぜ。

「わたしツナー」
「自分でとれ」
「えー」
「ケッ」

吐き捨ててすたすたとコンビニの奥へと行ってしまう。酷いんだー。そう思いながら、おむすびのツナを手に取る。うん、あとペットボトルとホットスナックを買おう。

(花宮くんのお家どんなのかなー)

本日、花宮くんの家にお泊りすることになった。一応、大学受験に向けた勉強合宿という名目があるので卑しいものではありませんよ。まあ、母親には『女友達の家に』と言ってあるが…いや、だってはずかしいじゃん。それに、何時まで花宮くんの彼女でいられるかわからないし…いや、そもそも付き合ってるのか?わ、わからん…。

(まあ、花宮くん結構気ままな所あるし…流れに身を任せよう、)

うんうんと頷いてふらふらとお菓子売り場に向かう。嫌なことは考えないに限る。

(チョコかおー)

頭を使うと糖分が欲しくなるものだ。キャラメルと迷ったが、やはりここはチョコレートにすべき。チョコ良いよね、美味しいよね。とっても幸せな気分になれる。わたしは根っからの甘党だ。苦いのは大の苦手で、チョコレートといえば一にミルク二にミルク、三四は勿論五もミルクという人間だ。なので迷わず、ミルクチョコレートに手を伸ばすとついと伸びて来た影に先を越された。

「バァカ、ビター一択だろ」

後ろから伸びて来た手がミルクの隣に陳列するビターチョコレートを手に取る。そうして当たり前のようにカゴに追加する花宮くん。それを暫く見詰めたあと、わたしは再度ミルクに手を伸ばした。

「ミルクなんてガキが食うもんだ」
「…もしかして、珈琲飲める人種?」
「たりめぇだろ」
「うわー。チョコや珈琲なんて単なる味覚の選り好みなのに、それで大人だの子どもだのいっちゃう花宮くんってばとってもおこちゃま。アイキューいくつですかぎゃあー!ぎぶぎぶ!」

無言でスリーパーホールドを決められた。こわい!このひとこわいよ!
気づいたら締められていた当たり、多分本気で切れたんだと思う。いや、そうなるって解ってていったわたしも悪いんだけどさ、もうちょっと手加減してよ。

「偶に…わたしはまーくんのなんなんだろうって思うよ…歩くサンドバッグ」
「フハッ 誰がわざわざお前みたいな小うるさいサンドバッグ使うんだよ。好きもんじゃねーぞ」
「花宮くんはわたしが傷つかない人間と勘違いしていないかい?」

ぐさぐさと刺さる見えないナイフに思わず言葉を漏らす。すると花宮くんがじっとこちらを見て来た。なにかと見返すと「ん」とカゴを持ち上げられた。

「? ああ、会計?サイフなら鞄に…」
「んなことわけねぇだろ、バァカ。その手に提げてる鳥のエサ入れろってんだ」

君も同じおにぎりだろうに。
逆らう気も失せ、大人しくカゴにおにぎりを入れた。すると「さっさと会計済ますぞ」とげしげしと足で太腿を殴打された。ちょ、脂肪がたぶんってなるからやめて!そう思いながらふらふらとレジに向かう。その後ろで、花宮くんがこっそりミルクチョコレートをカゴに放り投げたことなんて知る由もなかった。

「ありがとうございましたー」

ちろちろりんというコンビニのチャイムは割と好きだ。偶にこの音がインターホンの音になっているお家があるが、あれすっごく憧れる。

「…将来家を建てるなら、この音インターホンにしたい」
「なんでわざわざプライベート空間にフォーマルな要素取り入れるんだよ」
「イヤ?」
「イヤに決まってんだろ。んな駄案棄却だ」
「は…花宮部長…それって査定に響きますか」
「ボーナス99%カット」
「……そ、それはやりすぎだよ花宮くん…!じゃあわたしは何を楽しみに仕事をすればいいのかわからないよ!人参がなきゃ馬も走れないんだよ!」
「まずは再教育からだな。仕事とはなんたるか一から教え込んでやる。そうして俺の成績のために身を粉にして働け。よかったな、無能なお前も世のために貢献できるぞ…なんていう訳ねぇだろバァカ」
「いろいろ唐突すぎて、どこからどこまでが冗談なのかわからないよ…!」

ブルブルと震えながら言えば「もうお前黙ってろ」と口にアメリカンドック突っ込まれた。

「ふまい」
「そりゃよかった」
「先生、ケチャップ下さい」
「自分でやれ」
「あ、マスタードはかけないようにおねがいします」
「めんどくせーなー!自分でやれ!」
「手がふさがって…」
「片手空いてんだろ」
「いや、こっちはほら…見えないお友達と繋いでいる手だから」

ドックを持っていない手をひらひらさせると、花宮くんの額に青筋が生まれた。おぎゃー。なんちゃって。

「わかったよ。自分でかけるよ…」
「たりめぇだ、ぶっ殺すぞ。……お前、ほんと…そういう所ばっか器用だな…」
「は?」

片手でケチャップだけかけるわたしをみて、花宮くんが何とも言えない顔で言う。それを目の端に、マスタードだけ残ったプチって折ってソースをだすアレを捨てた。

「このプチっていうの画期的にみえて実はかなり非効率的だと思う…。名前なんていうのかな…」
「ディスペンパック」
「花宮ペディア…」

ぼそりと呟いたあと、そっとアメリカンドックを花宮くんに差し出した。怒られるだろうと先読みに出たので、機嫌をとっておこうとおもったのだ。案の定、花宮くんは眉根を吊り上げてこちらを睨んで来たが、すぐに意図を察してくれた。「フン」と鼻を鳴らしながらもがぶりとアメリカンドックにかじりついた。

「おいし?」
「……わるかねぇ…なんていうかバァカ。マスタードが足りねぇんだよ」
「ごめん。マスタードさんどうしても外せない用事があるっていうから…」
「止めろ。これ以上俺をお前のおちゃらかワールドに巻き込むな」
「ひどす」

がぶりとアメリカンドックに食いついてむうと膨れる。花宮くんはぺろりと唇を舐めて、ケチャップを拭っていた。片手にコンビニ袋、逆手にわたしのお泊りグッツ入ったバックを下げながらぼちぼち歩く。

「家いったら覚えとけよ」
「なにを?」
「過去問終わらせるまで眠らせねぇからな」
「きゃ。まーくんったら大胆あう」

無言で足を裏から蹴られた。がさりとコンビニ袋が揺れた。

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