赤司征十郎が甘やかしてくれる
朝から思い当たることは多かった。でも、喉も痛くないし頭も痛くない。身体が怠かったけど月経の所為だと思って家を出た。そうして迎えた放課後、
(やばい…お腹痛い…)
机にうつぶせて吐いた息が熱い。体調不良とは不思議なもので、一度自覚すると面白い位に状態が悪化する。そう言う訳で私の体調も面白い位にフォールアウト真っ最中なのだ。
(だめだ…自転車で帰る元気ない…迎えに来てもらう?無理だろ、じゃあ歩いて…)
「緒戸」
悶々と考えていると不意に名前を呼ばれた。友達の声じゃない、男の声だ。誰だろうと顔を上げた先で視界が真っ赤に染まる。
「緒戸、」
もう一度、優しく名前を呼ばれる。なんだか眩しくて目を細めるとそっと影が落ちて来た。少し汗ばんだ前髪を払い額を拭ってくれる手、ぼうとして頭では良く理解できてないけど体がその人を求める様に擦り寄った。ああもう、これだから幼馴染っていやなんだ。
「…熱いな、」
ぺったりと、額に張り付いた手甲が冷たくて気持ち良い。ほうと息を着くと、それを見た赤司征十郎が眉根を寄せる。なんだ、文句でもあるのか。
「熱は?測ったのか?」
「んー…いや、まだ…」
「保健室には…その様子だと行ってないな」
はあとため息交じりに図星を突かれた。呆れ色に染まるオッドアイに攻める様に見据えられ私はうっと言葉を詰まらせる。
「1人で帰れるか?」
「ん…がんばりゅ」
「おばさんに連絡は?」
「してない、けどヘーキ」
「到底そうは見えないが」
失礼な。頑張れはイケるよ、人間って結構頑丈にできてるもん。
そう思ってぶすっとしていると赤司がまた呆れた様に溜息をついて手首からするりと何かを外した。何かと視線を上げれば机に投げ出していた手を取られた。…熱がある所為だろう、節々がむき出しになった様に痛くて少し眉を寄せるも赤司は気にした風情も見せない。ちくしょう気使いやがれ。
「…なに、これ」
手首に嵌められた真っ赤なリストバンドには覚えがあった。…ちらりと赤司の手を見れば、やはりそこに何時も嵌められているものがない。
「……」
「匂いを嗅ぐな。昨日洗濯に出したばかりだ」
思わず匂いを嗅いだら怒られた。ごめん、ちょっと気になったもんで…。
「で、これ…どうするの?」
「先に校医に話をしておくから保健室で寝かせてもらえ。部活が終わったら迎えに行ってやる」
えーと、それはつまり…
「一緒に帰ろうってこと?」
「…それ以外に聞こえるのか?」
そう言って優しく頭を撫でる手に、私は言葉を無くして机に顔を伏せた。
リストバンドに残る温度(顔が赤いのは熱の所為だ)
頬を擽るリストバンドに少しだけほっとした。
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