くろこのばすけ | ナノ

赤司征十郎と一緒にロードワーク


白地に赤いラインの入ったジャージが軽快に前を走っている。その姿は走り始めた時から一部の狂いもなく足取りは相変わらず軽いものだ___私と違って。

「はあっあっせ、セージュッ!」

がくんと力の抜けた上体を膝で支え、絞り出す様な叫びはなんとか彼に届いたらしい。じんわりと汗を掻いた赤い髪を掻き上げながら振り返ったオッドアイが、荒い呼吸を繰り返す緒戸を見て呆れ混じりに伏せられた。

「へばるな。まだ走り始めて30分も経ってない」
「あっアンタと一緒にするな…!」

赤司の言葉にかっと頭が熱くなるが、いかせん体力が限界を迎えている所為で怒るに怒れない。現役バスケ選手で毎日当たり前の様にハードなフィールドワークを熟す赤司征十郎と、緒戸の様な体力皆無の引きこもりが同じ量を熟せるわけがないだろう!

「む、むりっはあ。 もぉはしれなっいっ」

第一、なぜこんな休日の朝から走ってるんだ私。可笑しいだろ、今何時?朝の6時?寝てる時間だよ!

悪態を着きながらボタボタと額から零れる汗を拭った。ジャージの中は汗でびしょ濡れ、きっと酷い事になっているに違いなかった。







早朝五時半。鳴り響いたインターホンに叩き起こされた緒戸はとっても不機嫌だった。そんな緒戸に訪問してきた赤司は悪びれた顔一つせずに言った。『走りに行くぞ』と。

アホか。

そう思うも緒戸の意見なんて聞きいれられる筈もなく。半強制的にパジャマからジャージに着替えさせられた緒戸は引きずられる様にして赤司に外へと連れ出され、何時も彼が走っていると言うランニングコースを当たり前の様に走らされた。無茶ぶりにも程がある。

(こんな走ったの…久しぶりすぎる…)

ぐったりとベンチに座り込んだ緒戸は赤司に渡されたタオルに顔を埋めながら遠い過去のことを思いだした。大学生になってこうしてランを強要される事は殆どない、確か高校生の時が最後だったはず…。

持久走でもマラソンでも、後ろから数えた方が早い緒戸。短距離も長距離も関係なく『走ること』が苦手な彼女がなんでこんなことをさせられているのか。全部あの男の所為だ。

「緒戸」

名前を呼ばれて顔を上げると何時の間にか赤司が立っていた。緒戸をベンチに誘導するなり言葉もなくいなくなった彼が戻って来ていた。

「飲め」
「! スポーツドリンク…」
「一気に飲むなよ、少しずつ含むんだ」

きゅっとペットボトルの蓋が開けられたそれを手渡され、緒戸は赤司の言葉に頷いて一口含んだ。冷たい、それに美味しい。平時、スポーツドリンクは苦手なので好んで手にしないが…やはりこういう時はこの味が良い。不思議なものだ、

一口二口を続いて喉を潤し、ほうと息をつく緒戸に赤司は小さく嘆息した。ぎゅっと握って放さない彼女の手からペットボトルを取り上げ自分も一口飲み込んだ後キュっと蓋を閉めて緒戸に渡してやる。

「僕はもう少し走る。ここで待ってろ、良いな」
「! 走らなくて良いの?」

てっきりまた走らされると思っていた緒戸が驚いた顔を上げると、赤司は呆れた様に腕を組んだ。

「まだ走れるのか、お前は」

心なしか威圧の籠った言葉に緒戸はぶんぶんと首を振った。無理だ、もう一歩も歩けない。その返事を解っていた様に赤司は肩を竦めて緒戸の頬を一撫する。

「大人しく待ってろ、良いな」

再度繰り返された問いかけに、今度は確りと頷く。
その様子に赤司は満足そうに笑うと、さっさと走って行ってしまった。軽快なその様子に改めて彼と自分の違いを思い知らされながら緒戸はぼんやりと空を見上げた。

今日も良い天気だった。

back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -