くろこのばすけ | ナノ

ただの赤司征十郎と一緒に帰る


才能ってなんだろう。

赤司征十郎は『バスケの天才』なんて呼ばれている。
赤司くんの他に四人の子を纏めて『キセキの世代』なんて呼ばれている。彼らは、10年に一度の逸材だとか。バスケの神さまに選ばれた天才だとか。____そんな話は、聞き飽きた。


「王手」
「えっ」

パチンッと置かれた歩兵に私の意識が弾けた。はっと盤面を見れば私の王将が赤司の歩兵を目の前にしていた…うそ、気づかなかった。

「終わりだな」
「はう」

平時のまま嘆息する赤司に私はがつんと机に頭を打ち付けた。やはり彼にしてみれば私なんて対局の相手にならないらしい。ちらりと教室の壁時計を見上げると時刻は5時を過ぎていた。日が暮れるのが早いこの時期、もう外は真っ暗だった。

「…帰るか」

私の視線を一瞥した赤司が呟く。
私はそれに同意し、将棋の駒と簡易盤を片づけた。弄っていた教室の机を戻し帰り仕度を澄まして赤司と教室を後にした。特に会話は無かった。

「あ、雨」

上履きからローファーに履き替えて校内を出ようとした時、ぽつりと落ちて来た水滴に緒戸は空を見上げた。その頬にぽつりぽつりと水滴が落ちる。ゆるりと目に被ってくるそれに慌てて姿勢を正す緒戸の後ろから、同じくシューズに履き替えた赤司が出て来た。

「小雨か、…確か午後から雨が降るって言ってたな」
「天気予報のお姉さん?」
「いや、緑間が」

赤司の言葉に、緒戸の頭の中にドヤ顔の緑間が浮かんだ。
『〜なのだよ!』という独特過ぎる口癖が相俟って非常にイラッとした。むーんと眉根を寄せる緒戸の隣で赤司も同じく険しい顔で空を見上げる。

「…この分だと、家に着く前に降られるな」
「げっ…! どうしよ…」
「お前の家よりオレの家の方が近い。寄って行け、傘くらい貸してやる」
「良いの?」

驚きで目を丸くして訊ねてくる緒戸に赤司はくすりと笑みを返した。

「今更なにを遠慮している」

そう言って弧を描く朱と朱金のオッドアイが、水滴に濡れてきらきらしていた。

「…それもそっか」
「ああ。まったく、手の掛かる幼馴染を持つと苦労する」

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