くろこのばすけ | ナノ

紫原敦に伝えられない



伝えたい言葉がある。
(言ってはいけない言葉がある)


「バスケ嫌いなんだよね、オレ」
「…知ってます。てかそれ、毎回私に言う必要性ってありませんよね?紫原くん」
「バスケなんてやっても楽しくないし、勝つだけでオレ負けないし」
「嫌味か」
「みーんなアリンコみたいに小さいから片手で捻り潰せるし」
(…あ、カラスだ)
「全国大会なんて名前ばっかり。手ごたえある奴いないし、つまんない」
(今日の夕飯なにかな…)
「バスケなんて嫌い。ねえ聞いてる、色紙?」
「聞いてます聞いてます」
「聞いてないでしょ」
「聞いてるよ」
「じゃあオレなんて言った?」
「バスケ嫌いって言った」

「……」
「…」

「…そうだよ。バスケなんて嫌いだ…」
「…そうですか」
「負けるのも嫌い…あと、風紀委員と生徒会」
「遠まわしに私が嫌いって言いましたね、いま」
「バスケなんて大嫌い。まいう棒の方が百万倍好き」
「そう」
「…ねえ、色紙さ」
「?」
「なんか、他に…いう事ないの?」

言いたい言葉がある。伝えた言葉、たった一つの揺るぎ無い答え。
込上げてくる激情の言の葉を、私はぐっと飲み込んで。

だってそれは…私が伝えて良いことじゃない。

「…ないよ、特に」
「…嘘つき」
「女には秘密が多いんだよ」
「………」
「紫原くん?」
「…____」
「? …むら、」

「やっぱオレ、お前のこと大嫌いだ」

あなたの手を取って良いのは私じゃない。
(それは遠い未来の、あの子の役目)

だから私は____

「…そっか、」

知らないふりをして、仮面を被って、嗚咽を隠す。

「___」
「ねえ、紫原くん。いっこお願いがあるの」

どうか、

「なにさ」

どうか、はやく

「わたしにバスケ教えて」
(あなたはバスケが好きなんだよ)

はやく________(王子様来て。お姫様はもう死にそうなの、)

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