食事の挨拶をする紫原敦
「緒戸ちん」
「ひっ」
ゆるりと伸びてきた大きな腕に身がすくむ。
後ろから現れたそれは、ゆるりとわたしの右肩を掴むと容易く身を引き寄せる。くるりと回ってしまったわたしを待っていたのは大きな体だった。ぼすんと倒れれば、甘ったるい香りと頬をくすぐるセーターの繊維。わたしがそれにもがく前に、背中に二本の柵ができる。そうしてぐっと圧し掛かってきた重さに悲鳴をあげた。
「お、おも、おもいっ」
「重くしてるのー」
「あぶ、あぶい!はなれてぇ」
「えーいっ緒戸ちんで押し花―」
「シャレにならぬ!」
想像してぞっとした。わたしと紫原くんの体格差では、それは冗談ではないのだ。
大きすぎて何も見えない。そんな腕の中に囚われて、恐怖で身がすくんだ。固まるわたしの体を大きな掌がイタズラに這い回る。わたしの顔ほどある大きな手がスカートの上からがしりとお尻を掴んだ。
「ひっ!」
「んー…」
「え、あっ、ちょ…!むらさきばらくん!!」
ばしばしと目の前の壁を叩くも静止せず。もみもみとまるで自分のもののように好き勝手に揉みしだくそれにぞくぞくした。あ、やばい。太い指がお尻の割れ目を撫で開いて、するりと今にも足の付け根に入り込んでしまいそうで、
「む、むらさき…っ」
「緒戸ちん、」
ふいに被さっていた陰りが明けた。おそるおそる見上げた先で、とろんと惚けた紫原くんがにまーっと子どものように笑った。
「緒戸ちんのお尻マシュマロみたいー」
「っ__!」
「ねえ、食べていいー?」
大きな巨体を苦しそうに折り曲げて聞いてくる。近づいてくる彼の顔にびくりと体が跳ねた。触る掌はいつの間にか止まっていて、物惜しげにわたしはお尻を揺らしてしまう。あ、あ、もう、だめ、
「だめ、なのにぃ…」
「んーごめんね?」
わなわなと涙目になってしまったわたしに、紫原くんはそういって小首をかしげた。ちゅうと涙を吸ってくれる唇、そこから毀れた涎が甘い。気づいたら、彼がもっとキスしやすいようにと背伸びをしていた。つま先をせいいっぱい伸ばして背伸びするわたしの体を、紫原くんが気づいて手助けしてくれる。引き上げられた体に、体は簡単に宙に浮いてしまう。おぼつかない足元にいまさら不安がこみ上げる。揺らしたつま先が床に擦った。
「むらさ、っ」
「……まーす、」
こぷりとキス。何度も首を傾げて、より深く交わろうとする。
背筋を走る感覚にああもう無理だと、わたしは彼の腕に擦り寄って、暗転。
いただきますと言ったら、召し上がれとキスをして。
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