くろこのばすけ | ナノ

秀徳メンバーに混じってバスケしたらバテた


心臓が力強く脈打って、体中に血を巡らせている。吐き出す息は熱く、灼熱のマグマを飲んだ様に肺が燃えていた。

「はあはあっ」

ぼたぼたと落ちる大粒の汗は耐えなくて、浮かんできた涙に視界が眩む。

「もっむり…」

まるで戯画みたいにばたりと倒れ込んだ私にタカちゃんが何事か叫んでいたけど答える気力は無かった。


「ぎゃああぁああオトっちっ!オトっちが倒れたー!」
「ぎゃー!緑間彼女が倒れたー!」
「ちょっ宮地センパイ!水!水持って来て!」
「おーどうし、って何があった!??」
「助けて部長ぅぅ!このままじゃ俺真ちゃんに殺される!」
「水!水ぶっかけろ!」
「ちょっ女の子に何すんの宮地センパイ!」
「おおおお前ら落ち着け、こういう時はれれれ冷静につ」
「大坪がいっちゃんパニくってねぇ!?」

「なにをしてるのだよ」






そよそよと仰がれる風にすうと呼吸が通る。
ミーンミーンと煩わしい蝉の声が世界に戻ってくるとき、漸く私の意識は浮上する。ゆるりと瞼を開くと薄暗い視界に黒いなにかが見えた。

「…?」
「起きたか、色紙」

耳触りの良い大好きな声に顔を上げようとしたけど、それは大きな手に阻まれた。その手は起き上がろうとした私の頭をそっと戻すと汗でびっしょりになった髪を梳いてくれる。きっと汗でべたべたの筈なのに嫌なそぶりを見せず、風を含ませるようにして梳いてくれる緑間くんの手に私は安堵の息を漏らす。…あ、これ緑間くんの足だ。

「気分はどうだ、痛むところはないか?」
「ん、大丈夫…」

でも流石に体の倦怠感は抜けず、少し甘える様に掌を重ねるともう一方の手で頭を撫でてくれる。それが嬉しくてほうと息を漏らすと「真ちゃーん!」という馴染の声が聞こえた。

「真ちゃん!オトっち目ぇ覚めた!?」
「五月蠅いのだよ高尾、もう少し静かにしろ」
「あー!オトっち!オトっち俺だよ!解る!?タカちゃん!」

「う、うん…タカちゃん…」

もの凄い見幕で顔を近づけてくる高尾くんに驚きながら頷くと、緑間くんが「近い」とタカちゃんの顔をぐいと押しのけた。

「いやー良かった。もうオトっち倒れた時はどうなるかと…あ、これ買って来た!熱中症っぽいから少しでも飲んで!水!アイスも買って来た!」
「先に水なのだよ」

本当はアイスが食べたかった。でも、緑間くんが先に高尾くんの持っていたビニール袋に手を突っ込んでスポーツドリンクを引き抜いたから無理かなと諦めた。緑間くんに助けて貰いながら起き上がり二口程喉に流した。

「ほう…おいし」
「そうか、眩暈や頭痛は?汗は引いた様だが…」
「うん、汗はないよ。眩暈も頭痛もヘーキ」

そう答えれば、緑間くんは漸く安堵したように「そうか」と目元を緩めた。

「いやーマジで良かった」

続いた高尾くんが安堵の言葉を漏らしながらアイスの袋をべりっと破き、取り出したアイスにがぶりと食いついた。…うん、高尾くんも疲れていたんだよね。

「もーほれろうしろーはとほもった」
「食いながら喋るな…そもそも、お前たちが言わなかったらこんなことにはならなかったのだよ」
「うへ…すんません」

厳しく目を光らせる緑間くんに高尾くんががっくりと肩を落とす。

なんだが、初めて高尾くんと会って以来。なんの因果か、緑間くんとのデート中に彼に会う頻度が高くなった。そうなると大抵、デートは三人になる。私は高尾くんが嫌いではないので特に言わない、緑間くんも何もいわないからそれが通例だった。

今回もそういう流れだったのだが、少し違ったのは高尾くんも1人じゃなかったということ。高尾くんは先輩(つまり緑間くん先輩でもある)の2人と一緒にいたのだ。バスケ部主将さんの大坪さん、それに少し垢抜けた感じの宮地さん。三人はバスケをしに行く予定だったらしく、それを聴いた緑間くんが少しうずっとしたのを見た私は、同行することを了承した。…緑間くん、最近バスケが本当に楽しそうだから、

それ最初は四人でバスケをしていたんだけど…途中で何故か私も参加することになって。緑間くんは「止めとけ」と言うけどイージャンイージャンコールに私も引けなくなって「少しだけ」と参加、…私は私の脆弱さを甘く見ていた。

(まさか10分足らずで倒れるとは…)

予想外だ。それも、緑間くんが席を外していた時だからタイミングも悪い。あーやっぱ、私そういう星の下に生まれてるなぁ…

「まったく、色紙ももう少し自分のひ弱さを知れ。そして体力をつけるのだよ」
「うん、そうだね……解った!じゃあもう一回バスケする!」
「駄目だ」
「なんで!?」

やる気満々で言ったのに即座に却下された。ショックで目を見開く私に、緑間くんがイライラした風に「それでは本末転倒…」「お前はどうして…」とクドクド言われた。途中でアイスを食べていた高尾くんがにやけながら「そーいう所に惚れてるくせに…」なんとか呟いて、緑間くんに水をぶっかけられていた。

「え、なにタカちゃん?」
「お前は気にしなくて良いのだよ」

「真ちゃん!それ俺の!俺の金!」

スポーツドリンクを頭から被ってしまった高尾くんがギャーギャーと叫んでいたが緑間くんは相変わらず呆れた様な顔をしていた。このとんでもない暑さの中、ポロシャツでいる彼に感嘆を覚えながら私は庇に隠れたベンチの下でぼんやりと蝉を声に心を傾ける。

そんな夏の日のこと。

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