くろこのばすけ | ナノ

高尾和成が休日に緑間真太郎を目撃する


(おっ)

その巨体は、雑踏の中に隠れるには聊か“大き”過ぎる。

久々の休日、ぶらりと街を歩いていると雑踏の中に飛び抜ける緑色を見つけた。休日ということで人がごった返している中ひょっこりと頭一つ分突き出ているその様子が可笑しくて思わず吹き出してしまう。すれば周りから訝しむような視線を向けられ、なんとか堪えようとするも耐えられない…!

(ちょっ真ちゃん!違和感バリバリ!全然町に溶け込めてないよ!)

きっと彼が指名手配されたら直ぐにご用だろう。なにせ、あんな目立つ性格に身長、鮮やかな緑の髪なんて組み合わせ早々いない。

というか、ぶっちゃけ驚いたのはこの休日に彼が外に出ているということだ。彼の事だから、休日は人ごみを嫌って家で引きこもっているタイプだと思っていた。…だから、休日の散歩に誘わなかったのだがこれは嬉しい誤算だ。

高尾は悪戯を思いついた子供の様にニシシと笑うと、軽い足取りでその緑を追った。この目立ち様じゃ、お得意の『鷹の目』も必要無さそうだ。

「おーいっ真ちゃーん!」

生き様様と名前を呼べば、緑色の髪が振り返る。
(おっ)休日だからか、何時もと違う黒縁ではない眼鏡を着用しているのを目敏く見つけ、これはどうからかってやるかと緑間に駆け寄る。彼の横にいざ並ぼうとした手前、相変わらずの仏頂面が僅かに体制を変えた時…ひょっこりと顔を出したものにぴたりと足が止まる。

(なんかちっこいのが出て来た…!!?)

いや、小さくない。断じて外見が小さいわけではない。見た目からして多分自分と同じ位だろう、少し垢抜けない大人と青年の合間の色が見える。問題はアレだ、背丈!これは推測だが、彼女は緑間の隣にいなければこれほどまで小さく見えないだろう。足はすらりと長いし、顔は小顔で袖口から見える腕はとても細い…まあ何が言いたいかと言えば、彼女は大人っぽい綺麗な女子で、高尾の食指の疼くタイプであったということ。だが、身長が可笑しい。見た目ぜんぜん小さく感じないのに、緩いウェーブの掛かった頭は彼の胸より…下?しかない。あれ?なにこれ違和感。

(というか、あの真ちゃんが女連れ…!!!?)

そうだ俺!驚くポイント違う!(タカオ は こんらん している !)

自分から声を掛けて来たくせに、行き成り1人で百面相を初めた高尾に緑間が眼鏡のブリッジを押し上げながら訝しげに眉根を顰めた。

「おい高尾、どうしたのだよ」
「へっ! あ、ぁっと…!」
「?」

何時も飄々と構えている男が此処まで狼狽するのは珍しい。中途半端なポーズは解かれたが、忙しなく視線を彷徨わせる高尾を不審げに見据え「なんなのだよ」と言明を促した。すれば、高尾は何やら切羽詰まった顔で緑間の隣を見やると…ごくりと喉を鳴らした。

「いっ_____妹さん?」

ピシリと、場の空気が凍る音がした。





「ほんっっとーにゴメン!!」

悪かったあ!と、立ったままだが顔文字みたいな土下座する青年に、私は何と言えば良いか解らなかった。取り敢えず衆目があるので顔を上げる様に言うと、しょぼんとした青年の顔が露わになった。うーん、この人が緑間くんの新しい友達かあ。

先ほど、高校に進学してからは久しぶりになるデート(という名のお買いもの)をしていた私と緑間くんに駆け寄って来た青年A(仮)。私の事を緑間くんの妹さんに見えたらしい___蛇足だが、緑間くんの家に下の兄弟はおらず、上にお姉さんが1人いる。___別に『妹じゃなくて彼女ですよ』と言ったわけではないが、漂う空気にソレを察したらしい彼は私か緑間くんが口を開くより先にこうして謝り倒して来たのだ。

「あの、本当に気にしないで下さい。…こういうとアレだけど、本当に良く言われる事だからわたし気にしていないです」

事実だった。どう見ても顔も色も似てないのになぜかそう言われる。一番悪い時は、警察官に職務質問で『どういう関係?』『援助交際?』と言われたことがあった。あれはもう私の家族に一生ネタにされる勢いだ。

でも仕方ない。だって緑間くんは身長190cmオーバー。対する私は身長150アンダー。良く見ると垢抜けない顔立ちをしている緑間くんだけど、多分バスケで鍛えた大きな体躯と擦れた雰囲気、それに目立つ髪色が先行して、高年齢のイメージを他者に与えてしまうのだろう。…対して私と言えば、顔はやけに大人っぽい。だから良く見ると緑間くんと釣り合いが(多分)取れているのだけど、平均以下の身長がどうも子供のイメージを先行させてしまっている様で…要するに噛み合わないイメージの泥沼状態なのだ。

(うーん…その対策に、今日は服装大人っぽくしたんだけどな…やっぱ駄目か、)

解っていてもシュンとしてしまう。此処に緑間くんがいなくて良かった、そう思ってほっと息を着くと少年Aが話しかけて来た。

「そーいや、何してたの?買い物?」
「うん、」
「へー真ちゃんが彼女と買い物とか…ちょっと意外。何かってたの?やっぱ服とか?」

私はベンチに、彼は地面にヤンキー座り(死語)。
ぱっと明るい顔で話してくれる彼は酷く話しやすい。ちょっと怖い座り方だけど、彼の雰囲気に合っていて不思議と親しみを感じる。二語三語言葉を交わした私は嗚呼と納得した。だからこの人は緑間くんと友達なんだ。

「いいな、緑間くん……」
「? なに?」
「…ううん、なんでもないです。えっと、なんでしたっけ?」
「何買いに来たの、ってはなし」
「あ、そうだった。えっと、ブブゼラを買いに…」

「へ?」

私がそう言った瞬間、少年Aの顔が面白いことになった。

「え?なに?ブブゼラ?」
「うん」
「ブブゼラって…あの、ブーッって吹くヤツ?」
「うん、そのブブゼラ」
「なんでブブゼラ?」

「欲しかったから」

本当にそうとしか言えない。唐突にブブゼラが欲しくなったのだ。だから、バスケ用品を買いたいと言う緑間くんと意見が一致してスポーツ用品店に向かっていた最中だったのだ。回想しながらそう言った私を少年Aは食い入るように見据えて二拍ほど、突然「ぶはっ!!」と吹きだした。おおっまるで漫画みたいな笑い方するな少年!

「えっちょっ…ぶ、ぶぶぜら…っほしかったか、って…い、いみふめい!」
「…」
「て、天然カップル…!」

緑間くんはともかく、私は天然じゃないんだけどなー…。

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