鬼灯に愛されているかわからない
幼馴染というには、まだ短い時間しか経っていないようにおもう。それなのにこれほどに近い距離にあることが偶に不安で、どうしようもない奇跡に思えるから人生とは儘ならない。
「あ、」
家に戻ると、リビングに真っ黒な塊がいた。いつもわたしを包んでくれるお気に入りのビーズクッション、そこに伸びる人は疲れの色濃い顔で眠りに入っていた。
「鬼灯様、鬼灯様」
「んっ…」
「起して申し訳ないです。でも、疲れてるなら布団に」
「うるさいですよ、ここでいいです …もう一歩も動きたくない」
「わかりました、じゃあせめて道着を脱いで。シワになっちゃう」
ごろんと寝返りをうってそっぽむく鬼灯様の相手をしていると、まるで小さな子どもの世話をしているように思う時がある。いや、だとしたら随分と図体の大きい子どもだが。軽率なことは考えるものではない。
濃い朱色の貝の口を解いて、結び切りを抜いてしまう。逆さ鬼灯の道着を脱がせば、イヤイヤしながら鬼灯様が腕を抜いてくれる。大柄な彼の衣装は、持つだけで手がいっぱいだ。丹色の襦袢姿になれば、少し肌寒いのか大きな足を丸めた。そうして無言でぱたぱたと手が泳ぐ。何かと思って両手で受け止めれば、少し伸びた爪がかりと皮膚を掻いてするすると下がる。そのままぐしゃりとわたしの羽織を掴んで乱暴に引き寄せた。当然わたしは畳の上に転がされた。いたい。だが鬼灯様は目もくれずに奪った紫陽花の羽織に包まれ、満足そうに寝息をたてはじめる。
(小憎たらしいとはこのこと)
両手いっぱいに道着をかかえ、衣桁にかける。帯と帯締めは衣装盆に整え、戸締りを確認して部屋を後にした。しばらく寝かして置こう。
鬼灯、いまでこそ閻魔大王の第一補佐官として地獄に知らぬ人がいない有名官僚である鬼神。
わたしが彼と出会ったのは、彼がまだ何の肩書ももたないひとりの獄卒であったころだ。きっかけというほどのものは思い出せない、ただ気づいたら我が物顔でわたしの家に居すわっていたのだ。なにそれ恐い。事実、わたしは震撼した。なんだこの人、ちょっと頭おかしい。マンガで見て知った気になっていたのが恥ずかしいほどに、どこかイっちゃってる鬼だ。
だけどずるずる年数だけが過ぎて行く。今では多忙もありあまり顔を出さなくなったが、連絡もなく入り浸るのは昔から変わらない。正直迷惑である。あと勝手にわたしの自慢の庭に金魚草を植えるのだけは止めてほしい。あの金魚草ヤダ、勝手にわたしの育てたハーブ食べちゃうんだもん。
必死に懇願するも、鬼灯様にメンチ切られるとひゅんと言葉が引っ込んでしまう。今日こそはと負けずに訴えても、最後にはなあなあと言葉に踊らされ惑わされ、気づけば畳の上で足を広げて思考をどっぷり快楽漬けにされて終わる。朝起きればぽつんと残されるわたし、…これはなんて都合の良い女?ていうか、毎回そ、その、ナマでするの止めて欲しい…! こわいしっ避妊薬だってタダじゃないのに!
(あらためて…死にたい)
世間的に、鬼灯様はいまだ連れ添う女性がおらず独り身ということになっているのが救いだ。いや、その前にわたしが鬼灯様のなかで…一応、彼女という立場にいるのか、そっちの方が怪しい。どうしよう自信がない、都合のいいセフレが精々かもしれない。
(鬼には寿命がないって…最初はお得だと思ってたけど、実は面倒かもしれない。その所為で、切るタイミングがつかめない…)
無駄に長い寿命のせいで、“このままじゃダメ”という気持ちになれない。そう思うと、別にこのままでも良いとはと思ってしまう。それは鬼灯様のせいだ。わたしはわたしなりに、きちんと彼と言う男を好いていたから。だが、マンガを見ていたときから好きでしたなんて、この世界では電波の台詞なのでお口にチャックである。それを抜きにしても、鬼灯という男は酷く魅力的だ。比類なく有能であることもそうだが、鍛え上げられた無駄のない肉体や、涼やかな目元。冷徹な人格とは裏腹に目元に咲くのは艶やかな赤。自の魅力を良く解っているのだと思う、だからこそ、彼はそこで息をしているだけであらゆる鬼の目を惹いた。わたしもその一人だ。
どうしてものか、そう考えてハーブ茶を淹れる。さて飲もうと伸ばした手よりもさきに、ぐわしっと後ろから伸びて来た手に湯飲みを攫われた。
「ひっ ほ、鬼灯さまっ驚かさないでください…!」
「あ˝あ?」
なんでもないです。機嫌の悪い顔で一睨みされた。こわい。やっぱりわたし鬼灯様の彼女じゃないよ、だってあれ想い人の女にむける目じゃないもん。
ぐいと湯飲みを煽れば、ごくりと太い喉仏が踊る。ん、と無言で湯飲みを押し付けられた。黙ってもう一杯淹れれば、今度はゆるりと喉を潤す。そうして先の奪い方とは裏腹に、酷く優しい手付きで湯飲みを盆へと戻した。
「ごちそうさまです、 相変わらずまずい」
「うっ」
「淹れ方ぜんっぜん上達してませんね。これではハーブが可哀そうです、土下座して謝りなさい」
寝癖のついた髪をがしがしと掻きながら酷いことをいう。でも事実だ、本当にわたし上手くならない。
どうしてだろうと悶々としていると、するりとお腹が楽になった。見れば、帯が解けている。誰が何をしたなんて言うまでもないこと、思わず帯を抱きこむ様にすれば、後ろから不機嫌そうに「手、邪魔です」と言われた。いやいやいやいや。
「あの、お休みになったほうが。疲れてるようですし、わたしご飯つくりますから」
「それは魅力的なお誘いですが、今は結構。早くその手をどけてください」
「待って、まって。添い寝? 抱き枕ですか?」
「男と女がひとつ屋根の下で二人きりで、そんな健全なことをするわけないでしょう。考えれば解ることです」
もたもたしているうちにわたしは畳の上、鬼灯様はわたしの上。そして抜き取られた帯をまるで鞭のようにぱんっと左右に引いて見せられた。なんで、そういうことするのかわからない。まるでこれ以上抵抗すれば無理強いを辞さないという態度も顔も、やめてほしい!
「鬼灯様、あの、 あのこういうのはもう控えたいというか。わたし色々考えたんです、それで、 あの」
「ッチ まあ良いでしょう、一応聞いて差し上げます。ですが、雰囲気ブチ壊しておいてまあた性懲りのないことたらたら聞かせる様なら…きっちり報復は受けて貰いますからね」
この人は確か、好みの女性のタイプを従順でない人と言っていたはずだが? それなのにどうして反抗しようとするたびに不機嫌になるんだ? もう良く解らないです、わたし。
必死にあわせを死守するわたしに、鬼灯様はひどくご立腹な様子だ。それもそのはずだ、彼はもう準備万端なのだから。わたしのお腹に容赦なく跨る太い腿。それを包む襦袢の一部が膨れ上がっている事実から目を反らす。こわい、鬼灯様のはおおきいしながいし、苦しいのだ。しかもそれがちょっと尋常じゃなく気持ちいと最近思うようになってしまった。ありえない!あれは凶器だよ!?
「こ、こういうことを改めていうのはなんですが、こういうのは良くないと思うのです。鬼灯様の立場を思えば、わたしのような相手がいた方が楽なのはわかりますが、 あ、ちょ、 ですが、鬼灯様のことを本当に想っている鬼女をおもうと、心がやるせなくて、 ん」
「はあ…で、わたしにどうしろと? あなたをわたしの女ですと、報道陣や閻魔大王の前で公言してほしいということですか」
「そんなことはいってません!」
話しているのに、鬼灯様はどこか心ここに在らずという顔で。わたしの髪をまるで動物にするように撫でる、やめ、やめっ 頬をぐにぐにするのやめてください!
「では何時も通り、あなたは足を開いて、わたしの世話を甲斐甲斐しく焼いていればいい。はい論破、では始めましょうか」
「ういやああああ ちょ、ちょっとま、 」
「あれはいやこれはいや… そういう割に、明確な解決策を口にしない。こちらが提示しても首を振るばかり…そんなことで状況が変わると思っているから、あなたは甘い。フルーツの缶詰に入っているシロップより甘い!」
「あ、あれ、鬼灯様おいしいってたべるじゃないですか」
「はい、大好物ですよ」
いうと、噛み付くようにキスをされた。鬼灯様の大きな体に押しつぶされて、わたしはあっという間に主導権の返却を余儀なくされた。あとの記憶は曖昧で、とりあえず明日は出勤無理ということだけ本能的に理解した。
「ひっ ぁ、」
ずるりとお腹の中を陣取っていたものが引き抜かれる。大きな先っぽがイったばかりの膣をひっかくようにして出て行くから、足の先までぞわぞわが止まらない。良く内臓を引きずり出されるみたいっていうけど、その通りだとおもう。畳の上に俯せになって、必死にそれが抜けるのを待つのはまるで拷問だった。
「本当に鮮花さんは、わたしの魔羅がお好きですね。こんなにとろとろにして…ほら、本気汁でべちょべちょですよ。あれだけ嫌がってたくせに、下の口は正直で助かります」
着物の襟を掴まれ、後ろに引くようにしてずるりと剥かれた。もう抵抗する気力もなくてされるがままになっていると、大きな手にくるりと体を反転させられた。汗で口や額についた髪を払われて、ぼんやりとした視界に鬼灯様が近づいてくる。
「鮮花さん…まだ、わたしが解りますか?」
「ぅ、… ほ、 ほーずき、 さま」
「はい、そうですよ。あなたの“鬼灯”です」
顎を掴まれ押し上げられて、剥き出しになった喉に厚い舌がはう。そうしてまるで獣のように噛み付いてちゅうと吸われると、なんともいえない感覚が押し寄せて変な声がもれた。息苦しくて、短い息を繰り返すのに鬼灯様は気づいているのかいないのか、そこへのキスを止める気配がない。そのうちに逆手がするりと太腿を割って、ちゅくりと先ほどまで好き勝手に暴かれていた秘所に触れる。
「ん、 あ、っぁ !」
「良い子ですね、ちゃんと意識を保ってきちんと感じてください。本能ではなく、理性で覚えるのです。誰が善くしてくれるのか、…他の男に股を開かれて、稚拙な愛撫であんあん啼かれては不愉快です」
「ひ あ んっ やっ ひ、ひっか んっ」
「わたしが開いた体なのですから、わたしにだけ善がればいい。誰が忍耐強く、子宮でイケるように躾けてあげたとお思いですか。鮮花さんはそういう意識が薄い、だからあんな戯言をいう」
舌がでろりと下につたって、乳首をちゅうと吸う。そのままぴちゃりと舐めながら、舌の裏のざらざらで擦られると気持ち良くてたまらない。指は秘所にかすかに埋まり、やさしく腹で入口を擦る。愛液を擦り込む様にして柔らかい入り口を内側から擦られるとお腹が切なくてきゅんきゅんした。
「あ、 うぁ、 あっ あ、 ほ、 ほーずきっ さぁ あっん!」
「鮮花さんここお好きですよね、この入口の浅い所。入れるときも、ここに亀頭がひっかかってもの凄く良い声で啼く」
「あんっ んっこ、 こわいっ ほ、 ほずき、 ほぉずきさ、 ほおずきさまっ」
「はい、構わないですよ…ほら、情けなく。縋る様にわたしに抱きついてみせないさい」
身体を起してくれた鬼灯様が、近くに顔を寄せてくれるから。わたしは遠慮も恥もかきすてて、その首に縋りついた。ぎゅうとだきついて、気持ち良くでどこかにいってしまいそうな自分を保つ。黒い髪に顔を埋めて、涙でいっぱいにしながらも、彼にはしたなく足を開く。なんて滑稽だろう。入口の気持ちいところを擦られて、空いた手できゅうとクリトリスをいじめられて、あっけなく達してしまった。びくんっと足が魚みたいに跳ねて、まるで魂ごと放り出される様な感覚がこわい。震える足で思い切り鬼灯様の身体を挟んでしまった、そこにだけ生きている感触がある気がしたから。
「大分、子宮もほぐれてきましたね… さあ、入りますから足を解いてください」
「いっ ィや 」
「我儘いわない。一度出したとはいっても、こちとら欲求不満と不眠不休でいい加減キてるんですよ。早く子宮の奥までつっこませろ」
「ぅ ぐ、 あ、あっ ぁ !」
ずるりと大きなものがはいってくる。忘れていた感覚、でも確かに覚えている質量がお腹を内側から膨らませる。いたい、はずなのにそのぴりぴりと裂かれるような感触さえもきもちい。ずるずる、ずるずる。もういいよね、もういっぱいだよ。むり、むりはいらない。そう脳が訴える境界線をあっさり超えて、それはこつんと一番奥をノックした。
「っ ! !!」
「ッチ 暴れるないでください、入らないでしょう」
「っあああ!」
ずるずる、ずるずる。だらしなく鬼灯様を求めて下がり切った子宮が押し上げられる。そのまま奥へ奥へと押し込まれて、見たことのない子宮の口が鬼灯様の亀頭をくぷりと吸いついているのが解る。意識とは裏腹に、もっとほしいと強請る様に体の痙攣とともに、ちゅちゅうとまるで赤子のように吸い付いている。それを感じているのは鬼灯様も同じらしく、涼やかな目元がどこか苦しそうに歪んだ。腰を掴んで浮かせ、ずくずくと膣に押し入れながら、畳む様にして覆いかぶさってくる。
「はあっ… 鮮花さん、口を開きなさい。ああ、もう開きっぱなしでしたね」
「う、 んっ」
唇が重なる。ぴったりと合わさった秘部、あつくてにげたくて善がる腰をがっしりと掴んだ手が許さない。鬼灯様の角がこつんとあたる。舌がからまって、裏側まで丁寧に舐められた。誘導に従って舌を出せば、先の方を咥えてちゅううと吸ってくれる。鬼灯様の犬歯が唇を切るけど、それすらどうでもいい。もう頭の中は、目の前の人とこれ以上にどうやってどろどろになるか、それしかない。
「ほ、ずき、 さ」
「…ほら、ここまで入ってますよ。最初は泣いて痛がって大変でしたのに…今はこんなにも素直に受け入れる。それもこれもわたしの調教の甲斐あってこそ、あなたがドMで助かりました」
「ひっ ぅ」
「さあ、どろどろになりましょう。 …もう二度と、あんな戯言考えられないようにしてやる」
まるで射殺すな愛憎渦巻くかがちの瞳。それすら知らず、わたしは始まる子宮への快感に善がった。何度も精液をお腹の中で受け止めて、鬼灯様が腰を押し付ける度にまじりあった愛液がぐちょりと音をたてる。途中、熱にうかされた耳が「孕んでしまえ」という幻聴を拾った。それもいいと思った、だって本当に気持ち良くて。鬼灯様の子どもならぜったいにかわいいいもん。
ぎゅうぎゅうと縄のように締め付ける鬼灯様の腕。その苦しさすらきもちがいい。ああもう、どうにでもなってしまえ。でも適うなら、この鬼と一緒にいられる未来がほしい。そう思うのは、贅沢なことだろうか。

始めて、目にしたときから。印象には残りにくい女だった。切欠なんて覚えていない、気づいたときには絡め獲られて、彼女なしでは息苦しさすら覚えるようにさせられてしまった。
愚かなもので、こんな体にしてくれた張本人は、未だにわたしから逃げられるつもりでいるらしい。愚かなことだ、逃がすつもりなど毛頭ないというのに。第一に、わたしが彼女との仲を公言しないのは、誰よりも彼女自身がそれを嫌がるからだ。それがわたしの中の何かを暴れさせて、彼女への調教に容赦を失くさせる。いつか離れてしまうかもしれない、わたしを置いてどこかに行ってしまうかもしれない。わたしが常日頃、そんなことに怯えていることを彼女は知らない。知らなくていい、だってカッコ悪いでしょう。度量の狭い男だとは思われたくなかった。
ではどうすればいい。繋ぎとめたい、ここにいてほしい。心をわたしに“あずけて”ほしい。そうすれば、こうして日々怯えずに済む。この家に足を運ぶたびに、恐怖せずにすむ。部屋に残る生活の痕跡を辿って、仄暗い悦びを覚えずにすむ。
「孕んでしまえ」
呪いとともに吐き出す。この怨みには、底がない。