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雲雀恭弥とケンカしてすれ違う


深夜も深夜、真っ暗になった部屋の中で私は枕に埋もれていた。寝たいのに眠れない、頭の中はあの人のことでいっぱいで胸が痛い。動いていると忘れられるのにこうして1人でいるとどうして出てくるのだろう。忘れたいのに、

(怒って、るかな)

先日、雲雀恭弥を殴ってしまった。
いや、殴ろうとしてしまったが正しい。感情のままに振り上げた拳は見事に避けられてしまったから…まあその所為で怒りのやり場がなくなって、凄い大声で怒って泣いてしまったのだが。良く覚えてないけど、多分15分前後、私は彼に泣き喚いた。疲れて咳き込む上に逆上し過ぎで貧血を起こしてしまった私を草壁先輩が快方してくれたのを覚えている。心配そうな顔で送ってくれたことを覚えている、お前は悪くないと委員長は怒っていないと優しく言ってくれたのを覚えている_______雲雀さんのことは、覚えてない。

頭の中をいっぱいにするのは昔の雲雀さんで、あの時の雲雀さんじゃない。思い出そうとすると頭が熱くなってお腹がぐるぐるして訳が解らなくなる。昨日見た夢に出た雲雀さんは酷く笑っていた。気持ち悪い位に笑って『別れてくれ』と言った。変な話しだ、私と彼は恋人じゃないのに。でも寝起きでびっしょりと汗を掻いた自分を見て、それが何を暗示しているのか、私が深層心理で何を望んでいたのか解って失望。自分に失望、もう私死ねよ気持ち悪い。

そんなんで学校に行けるわけもなく、着替えはしたが感情が暴れてぐちゃぐちゃになって泣いてしまった。母が心配して会社を休むと言いだしたのを無理やりに送り出し、結局学校を休んだ。当たり前だ、行けるわけない。絶対に死亡フラグ立ってるもん。そんなんでずるずるともう3日休んでる。あーこうして人は不登校になるんだなあうん。

(明日は、行けるかな)

そう思って眠る。そして玄関で足が竦んでしまう。あの学校を選んだのは私だ、遠いのに選んだのは私。無関係ではいたくない、少しだけでも関係が欲しい。そう思って、言うならアイドルに会いたいファンみたいな気持ち悪い感じであの学校を受験した。それなのにこの様だ、情けない事この上ないぞ浅上汐。

(明日は行こう)

携帯の目覚まし時計は6時にセットした、よし行こう。もしかしたら殺されるかもしれないけど行かないと、家族に示しがつかないもん。そう思って私は枕に顔を埋めた。もう寝よう、あの人の事は忘れて_____あーなんであんなことしちゃったんだろうわたし。てかもう思い出しているよ、わすれるんじゃないのかい汐さんよお





「汐起きて」

どうやら目覚ましはログアウトされたらしい、死にたい。
お母さんに体を揺すられて目が覚めた私はぼんやりとそう思った。母さんが開けたんだろうな、カーテンの向こうの日差しが「もう昼過ぎだぷぎゃー」って言ってるもん。何時の間にか抱きしめていた布団を離して口元をパジャマで拭う、うぐよだれ…。

「おはよ…なに?」
「あんたにお客さん来てるのよ」

「…あ?」

意味が解らない。あ、そっか私かなり休んでるんだった風邪(仮)で。誰か見舞いに来てくれたのかな、え、でも平日の昼に?一体誰だ。そう思って起き上がって欠伸をしながら「ともだち?」と訊いたら「雲雀恭弥くんだって」と応えられて頭がぱーんじゃなくていえなにいみがわkらくぁwせdrftgyふじこlp

「え?」
「雲雀恭弥くん、だれアレ。超イケメンなんだけど」
「はい?え?」
「雲雀恭弥くん。ねえあの子なに?彼氏?彼氏なの?」
「え、あ?ごめん、ちょ、いみがワカラナイ……」

私はきっとまだ夢の中にいる。
何故か小声になってお母さんと会話しているとコンコンッって音がして親子揃って凄まじい顔でばっと振り向くと何故か雲雀恭弥。私の部屋の扉の前に雲雀恭弥。なぜか私服の雲雀恭弥。眼鏡なくて良く見えないけどあれは雲雀恭弥。だって雰囲気が委員長ぉぉぉおおお

「______(絶句)」
「………」

「…」

部屋の空気が凍りついているのが解った。

「…汐、」

ひさびさにきいたこえがこしまでひびいてきたとはいかなることですか。

吃驚して思わずお母さんの後ろに隠れてしまった。えって顔をするお母さんスマン察してくれ。そんな私に雲雀恭弥はどんな顔をしたのだろう、嗚呼眼鏡。眼鏡はどこだー!!!

「…休学理由は風邪、らしいけど…元気そうだね」
「……」
「ちょ、汐、友達なんでお母さんの後ろに隠れるのちょ」
「元気そうだね」

だって仮病だもん。仮病ですよ、ごめんなさい。

「え、えーっと、雲雀恭弥くん?」
「恭弥で構いません」

敬語!?

「じゃあ恭弥くん、えっと汐のお見舞いに来てくれたのよね。ありがとー、でもこの通り元気だから。心配かけてごめんね」
「……いえ」
「ところで汐とはどういうご関係?」

私は思い切り母親の背を殴った。バシッバシッバンッ!!!と何度も叩くがニヤニヤとしている母は一向に「え〜だって、ねえ…?」と言う。くそ!この女雲雀恭弥の恐ろしさを知らんのか!!PTAで保護者様たちと何の話題で盛り上がってんだ!!このノーテン女!!









「恋人」










「だと、僕は思っています。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「_____っ!え、い、いいのよ気にしなくて!ね!汐!汐?」
「それと1つお願いが」
「ん、なに?私に?」
「はい。病み上がりの所申し訳ないのですが、娘さんを今日一日お借りできますか。4時までには責任もってこちらにお送りします」
「ええ勿論良いわよ!もう最近引きこもりっぱなしで困ってた位だから連れて行ってくれるととっても助かるから!それに時間なんてもう気にしないで楽しんでらっしゃい」
「ありがとうございます」

そう言って柔らかい物腰で頭を下げる人は誰だ。

「じゃあ汐が着替えるまでの間お茶でもどう?紅茶飲める?」
「いえ、僕は外で待ってます」
「気にしなくて良いのよ?」
「大丈夫です、お気使いありがとうございます。____汐、」

返事の代わりにびくりと肩が震えてしまった。

「外で待ってるから、」

そう言って、ぱたんと扉が閉まった。呆然としている私を今度は母が興奮した様に叩いて来る。「アンタ何時の間にあんなこ捕まえたの!?」痛いですお母様。

母と格闘しながらなんとか着替えを終えると30分以上雲雀さんを待たせていることに気が付いて慌てて家を出ると雲雀さんがマンションの壁に凭れていた。会う為に慌てて出て来たのにそれを見つけた瞬間びっくりして肩が震えてしまった。雲雀さんがゆっくり伏せていた瞳を開いてこちらを見ると同時に後ろから母が出て来た。「お待たせしてごめんね、雲雀くん!」この人はどれだけ怖いもの知らずなんだ。

「お、お母さんっ」
「じゃあ楽しんでらっしゃいな」

とんというよりもドンッ!と私の背を押し出して「汐を宜しくね雲雀くん」と言って母がばたんっと戸を閉めた。…もうやだなんなのあの人。絶対のぞき穴から見てんだろ(正解)

そう思ってじとっと見てると「汐」と呼ばれた。見ればじっと真っ黒な瞳が私を見ていて気恥ずかしくて自然と視線が下がってしまう。うーうーっとどこかの女の子みたいに頭の中で呻きながらぎゅとロングスカートを握った。普段は掛けていない黒縁の眼鏡を何度も弄ってしまう。クリーム色のパンプスの先をもじもじさせていると「行くよ」と言われる。

顔を上げると何時の間にかグレイのキャスケットを目深く被った雲雀さんがちらりとこちらを見て踵を返す。すたすたと歩いて行く雲雀さんにえ、ど、どうしようと思っていると「何してるの」っとむっとした声で呼ばれて慌てて駆け寄ってエレベーターに入った。

「あ、あのっ」

エレベーターを降りてマンションを出ると久々の日差しに眩暈がした。前を歩いていた雲雀さんが私の声に振り返ってくれる、どんな顔をしているのかは逆光で見えなかったけどあまり良い顔はしていないだろう。雲雀さんは他人に意見されることが好きじゃないから。でもこれだけははっきりさせないと駄目だと思い私は震える手をぎゅうと握りしめて喉を振るった。

「____がっ、こう、休んでごめんなさい…」

そうじゃないだろうわたし…!
そうじゃなくて、なんで来たのかとかさっきのこ、こ、ぃびと発言の真意とか、そういうのを訊きたいんだって!そう思っているのに言葉が出てこない、訊きたいのに(怖くて、)聞けない。

「っ____」

きゅっと唇を紡ぐ汐を雲雀はじっと見据えた。そして「君は、」と口を開く。

「君は、そういう恰好もするんだね」
「!」
「前見た時と随分と雰囲気が違う」
「そ、それは」

「そっちの方が君に似合う」



「前の服も君らしかったけど、僕はそっちの方が好ましい」そう言う彼は一体誰だ。もうこれは雲雀さんじゃないんじゃないか。私が知っている雲雀さんはこんなことを言う人じゃない、言える様な人じゃない。けど、


「もっと君の事、ちゃんと教えて」


きっと、色んな感情を詰めたであろう彼の言葉に、「ひば、りさんも…私服、似合ってます」としか返せなかった私は愚か者だ。それでも、「…変な事言ってないで、早く行くよ」と言う声は何時もより優しかった気がする。当たり前の様に引かれた手に、包んでくれる大きな無骨な指先に____訊きたかった言葉は全部どこかに引っ込んでしまった。

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