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作戦その@強請って見る。
「むくろ、お願いがあるんだけど」
「なんですか」
こてんと上目づかいしたことも虚しく、骸はいやに真剣な顔で詰めよって来た。くそう、なにか反応しろよ!
「あのね、実はお母さんから赤さんの写真が欲しいって言われたの」
「わかりました。僕が撮りましょう」
「うん、じゃなくてね。最後まで話を聞いてね」
ジーンズのポケットからアイフォンを取り出す骸をにっこりと諌めて続ける。
「むくろと、赤さんの写真が欲しいんだって」
「………」
「おねがい、むくろ」
すごーく嫌そうな顔をするむくろだが、キラキラ光線で負けじとお願いした所「…わかりました」と折れてくれた。いえーい!みたか赤さんっわたしは勝ったぞ!!
だが、撮れた写真のむくろはぶすりとしていて赤さんはいやに良い笑顔をしていた。あれ、なんかこれ思っていたのとちが……まあ、こういう一歩から始まるんだよね!
作戦そのAおしめの時間に業と席を外す。
いえーい。全国の婦女子の皆さん見てますかー!浅上汐もとい、六道汐でーす。キャア!リア充でごめんーね(^ω^ ≡ ^ω^)
骸は無駄にわたしにひっついている訳じゃない。わたしが強制的に赤さんのお世話に協力させているお蔭で、ご飯の時間やおしめを変える時間は解っているはずだ。なので敢て、そこで席を外してみた。ふっふー。赤さんの下のお世話は、パパに大事なお仕事なのですよー。
自動販売機の隅に隠れ、わたしはフフフと笑みを漏らす。今頃、赤さんはパパにおしめを変えて貰って嬉しいだろうな。帰った時、ふたりでキャッキャと笑い合ってくれていればわたしの計画は万事完ぺ____
「汐、見つけましたよ」
「……デェスヨネー」
どうでもいいが、わたしは対むくろ戦かくれんぼで勝てた例がない。ほんとどういうチート使ってんだって怒鳴りたくなるほど、彼は迷いなく的確にわたしを見つけるのだ。
「少なくとも三ヶ月は僕の許可なくほっつきまわるなと何度も、言い含めたつもりでしたが」
「いや、三ヶ月って長いよ」
「ええ、ですが一ヶ月も経たない内に言いつけを破ったあなたに言われたくありませんね」
冷たいオッド・アイがぎろりと見下げてくるので、わたしの心臓はマッハだ。わかりやすい溜息とともに掌を貸してくれる骸に大人しく従って立ち上がり、ハッとする。
「あれ、赤さんは?」
「ああ…看護婦に任せてきました」
「なに業務の邪魔してんのよ!おしめはどうしたの!」
「それも任せました。何のために高い金払ってると思っているんですか」
「まあ、端金ですけど」とぼやく骸に、わたしは呆然とした。
いや、確かにとんでもないVIP待遇受けてるけどさ。テレビでも見たこと無い厚遇だけど、それとこれとは別だろう!
(もう…やめよう)
貴重な看護婦さんの時間を無駄にしない為にも。
わたしは手をひいてゆっくりと歩いてくれる骸にそう誓った。
作戦そのB可愛いということを知らしめる。
「きゃー赤さんってば可愛い!」
「きゃー!」
ぺたぺたと頬を触ってくる赤さんとあからさまにいちゃいちゃする。隣でイスに座っている骸は長い足を優雅に組み、ひとり読書にしけこんでいる。くそ、イタリア語…わからねえ…。分厚い本だな、えっと…『Regole del nome di buon auspicio』うん、よめん。
「赤さん、ママにちゅーしてください」
「ちゅう?」
頬を寄せるとぷちっと柔らかい唇が触れる。「ありがとう」とわたしもキスを返す。ちらりと骸を見るが…くそう。微動だにしてやがらねえ。
「じゃあ次はパパだね」
「は」
「だー!」
「はい、パパもちゅーう」
赤さんを抱いて寄せてやると、漸く骸が顔を上げた。うわ、嫌そうな顔。でも負けない。にこにことしてやると、赤さんも「だー」と手を骸に向ける。おお!わかってるねぇ、赤さん。ふふ、こんなかわいい赤さんを前に手も足もでま___んぐ。
「はい。ごちそうさまです」
ちゅーされた。くそう…
作戦そのCもういろいろめんどくせぇ。
「むくろっいい加減にしてよね!!!」
「…」
「赤さんと仲良くしてくれないと困るの!これからどうやって子育てしていくのよ!」
ベッドの上に仁王立ち、びしりと骸に指を指す。行儀が悪いとはいわない!事は一刻をあらそうのだ。大事なことなのだ。
「わたしだけでしろっていうの!そんなのむり!むくろが少しでも協力してくれないと大変なのよ!きついのよ!鬱になるのよ!」
「汐、落ち着きなさい」
「わたしは落ち着いてるわよ!」
あ、やべ。なんかマジで泣きたくなってきた。
「いっぱいっぱい考えて、いろいろやってるのに全然意味ないし!むくろはへーぜんとして…うぐ、わ、わたしの苦労わかってくれないじぃ〜…!」
「解りました。解りましたから、汐。ベッドから落ちたらどうするんですか」
「うっさい!わわ、わたしに指図しないで!びえー」
結局。大泣きしてしまった。
そんなわたしを、骸は慌てて抱きしめてくれた。「ごめんなさい」「僕が悪いんです」「泣かないで下さい」「ごめんなさい」…あれ、おかしいな。そんなこと言わせたいわけじゃなかったのに。……わたしのばか。
わたしの、ばか。