雛唄、 | ナノ

シャーペン


「これはシャーペン」
「しゃあぺん……」
「本当はシャープペンシルっていうんだけどね」
「しゃあぷぺんしる?」
「うん、そう。略してシャーペンって呼ぶのが普通かな」

 手渡したシャーペンを凝視している三郎次くんと久作くん。きょとんとしたまま私の言葉を反復した左近くんと、ほわわあんとした表情でこちらを見つめてくる四郎兵衛くん。三郎次くんに手渡したシャーペンとは別にもう一本のシャーペンを自身の指先で弄びつつ、この物体は何なのかと説明すれば、途端に輝いていく彼らの瞳。

「これで文字が書けるんですか!?」
「こんな細くて小さいので……」
「ここ押すと芯が出てくるでしょう?」
「わ、ほんとだ」
「面白いですね! まるで絡繰りみたいです」
「ぼ、ぼくにもおさせて」

 持っていたシャーペンのボタン部分をカチカチと押してみせれば一ミリ程芯が出てくる。それを見た三郎次くんが私と同じように、手にしたシャーペンをカチカチと押す。それを周りでじぃっと見ていた三人が自分も押してみたいというから、私が持っていたもう一本も左近くんに手渡した。

 一本のシャーペンをそれぞれ二人ずつ何回も何回もカチカチと押すものだから、当然出てきた芯の長さもそれ相応になってしまって、とうとう三郎次くんと久作くんが押していたシャーペンからは芯がまるごと一本出て地面にぽとんと落ちてしまった。

「ああッ! お、落ちちゃった……」
「すごい。芯ってこんななんですね。ちなみに、この芯って何で出来てるんですか?」
「えーっと……多分炭素……?」
「たんそ?」
「あー……元素の、ひとつ?」
「げんそ?」
「…………ごめん、お手上げ」
「つまり、分からないってことですか?」
「……そうなるね」

 三郎次くんが落ちた芯にショックを受けてる傍らで、久作くんは真面目な性格ゆえかシャーペンの芯の原料を問うてきた。炭素かなとは思うものの、その炭素すら何かと問われてしまえばもう苦笑せざるを得ない。わたし、そこまで詳しくないからなあ……。ごめんね、と紡げば不思議そうに何で謝るんですか? と久作くんが言うものだからぱちぱちと何度か瞬き。

「あああッ! 折れた……!」
「ばか! 高級な物だったらどうするんだよ!」
「あ、大丈夫。それ別に高級な物とかじゃ全然ないから」
「う……でも」
「それに折れても使えるから大丈夫」
「……どうやってですか?」

 三郎次くんの声にそちらを見やれば、彼の手には真っ二つになった芯。左近くんと二人してサァッと顔を青ざめさせていたけれど、その心配は必要ないよと小さく笑った。ほら、こうやってと手元に戻ってきたシャーペンの蓋を取って消しゴムの部分を外して芯をその中へ放り込む。そして、また先ほどと同じようにカチカチと鳴らしてみせれば一ミリ程顔を出した芯。

 こちらを凝視していた二年生四人に得意気に、ね? と微笑んだ。

「「…………おお!」」
「なるほど。じゃあ、余分に出してもまた戻せば使えるってことですね」
「ほへえ……」
「余分に出した時はね、こうして戻すのが普通かな」

 久作くんの言葉に今度は出していた芯を引っ込めようと、ボタン部分を押したまま机に芯を押し付ける。そうすると、とんっと軽い音を出して芯は引っ込んでいった。

「「おおお!!!」」
「ほええ……」
「あ、ちゃんと戻るんですね」

 きらきらとますます目を輝かし始めた彼らが微笑ましくて、はいっともう一度持っていたシャーペンを今度は四郎兵衛くんに手渡す。楽しそうに芯を出しては引っ込めてを繰り返す四人がとても可愛くて仕方がない。

「ここについてる、黒いの……? なんですか?」
「それは消しゴム」
「けしごむ……?」
「何に使うんですか?」
「そのシャーペンで書いた文字とかを消すのに使うって言えば分かるかなあ」
「? 消す? 消せるんですか?」

 どうやら彼らの興味はつきないらしい。せっかくだからシャーペンで何か書いてみようか。そうしたら説明もできるし。一見は百聞に如かずっていうしね。そう提案すればとても良い返事が返ってきた。なんていうか、幼い子に何かを教えるのって思っていたよりずっとずっとたのしいかもしれない。


(楽しい?)
(はい! とても楽しいです!)
(そっか、よかった)
(この紙は何て言うんですか?)
(それはね――)


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