雛唄、 | ナノ

04


 予算会議の真っただ中。

 バゴッ! ガンッ……!

 痛そうな音がしたな、と思った時には、潮江くんと食満くんがそれぞれ顔と頭を抑えて悶絶していた。どうやら、立花くんの仕業らしい。こちら側にころころと転がってきた不気味な生首もとい生首フィギュアなるもの。……よく、できていることで。

 少し離れた場所では、ニセモノの出茂鹿さんと対峙している鉢屋くんと、ぼろぼろになった姿の体育委員会の面々、倒れ込んでいる誰かが確認できた。そして、まとまって何やら話し込んでいる保健委員会の面々も。体育委員会の面々に至っては、善法寺くんたちに目をやった隙にいなくなっていたから驚きだ。遠くから微かに「いけいけどんどーん!」なんて声が聞こえてくる。

「七松くんたち……?」
「ああ。多分、次屋が見当たらなかったので探しに行ったんじゃないかと」
「……どこに?」
「おそらく、山……じゃないですか?」

 山? と呟けば、隣から「体育委員会にだけは入りたくないですよね」と返ってきた。三木ヱ門くんのその言葉に同意するかのように、首を縦にぶんぶんと振った一年生二人。それに返す言葉も見つからず、苦笑してしまう。七松くんが暴君と呼ばれるわけがどんどん明らかになってきて、それが嬉しいことなのか微妙なところだ。

 んー……っとちょっと伸びをする。

 否、しようとした、その瞬間、飛んできた大声。出かけていた欠伸も引っ込んだ。微妙な体勢のまま視線だけを動かす。「バカタレィ!」と大声を発した人物は言わずもがな潮江くんで、続け様に発せられた言葉は早くて内容はよく分からなかった。何とかは認めるが、何とかは認めるわけにはいかーん! とか何とか。

 潮江くんの目の前には立花くん。
 即ち、作法委員会御一行が揃っていた。
 潮江くんの言葉に不敵な笑みを浮かべた立花くんに嫌な予感がする。

「立花くんなんだって?」
「そんなこと言っていいのかな? だそうです」
「気をつけろ。作法委員会のやつら何か仕掛けをしてやがるぞ」

 三木ヱ門くんに耳打ちするように聞けば、三木ヱ門くんの言葉に重ねるように潮江くんが何とも恐ろしいことを口にした。仕掛け? 仕掛けって……なに!?

「立花くん、えげつな……」
「――雛。何か言ったか?」
「…………なにも」

(わあ、なんて地獄耳……!)

 麗しい人が麗しい笑みを浮かべているのを見て悪寒が走るなんて、なかなかないような気がする。あはは、と乾いた笑みを浮かべれば立花くんの笑みがより一層深まったように見えた。そう感じた時には、先ほどの生物委員会の時と同様、団蔵くんと左吉くんに両肩を掴まれ後ろへと引っ張られていた。

 同時に、立花くんの声で「よし」と聞こえたのは気のせいじゃないだろう。
 数秒遅れて、どっしゃん! ……ずぼっ! と何かが抜ける音がした。

「…………何事?」
「えー……落とし穴みたいです。なんか、図書委員会と用具委員会が被害被ってますけど」
「掘る場所間違えたんじゃないの?」
「あ」
「あ」
「あ……作法が落ちましたね」

 団蔵くんと左吉くんに両肩を掴まれたままの不安定な体勢で庭先を見ていれば、確かに用具委員会、図書委員会、そして作法委員会の面々が次々に地面へと吸い込まれていった。それにはなんていうか……言葉が、出てこない。

「…………ほっといていいの?」
「良いんです。寧ろほっときましょう」
「漆喰に図書カード……あ、宝禄火矢です!」

 作法委員会の所業に腹を立てたらしい用具委員会からは漆喰と呼ばれる白くてべちゃべちゃしたものが、同じく怒っているらしい図書委員会からは図書カードが、それぞれ作法委員会に投げ込まれていた。ほんと、なんていうか……ぐっちゃぐちゃだなぁと思う。更にそこへ投げ込まれたのが、宝禄火矢だというのだから、本当に何でもありなんだな、この会議……と思う他なかった。

 食満くんのレシーブ。
 中在家くんのトス。
 高々と上がった、本来は爆弾であるはずの宝禄火矢。
 それを目線で追って、どうなるんだろうかと見ていれば、聞こえてきたのは暴君七松氏の声。

(……あ、嫌な予感しかしない)


 ――……どぉぉぉんッ!


 その予感の通り、どこからともなくやって来た七松くんの手によってアタックされた宝禄火矢は、私の目の前の、そう、各委員会が集まっていた庭先へと落ちて、爆発したのだった。…………ばくはつ、したのだった。

(いやもう、すごすぎて言葉もありません)

「今年の予算会議も無事終わったな……」
「はい。各委員会が自滅しましたからね」
「……いやいやいやいや、無事!? これのどこが無事なの!?」
「あ? ……無事だろ?」
「そうですね。無事な方じゃないですか? 今年は」

 私のツッコミに対し、潮江くんと三木ヱ門くんは一瞬顔を見合わせたかと思うと、至極当然と言わんばかりに無事だと繰り返すものだから頭を抱えたくなってしまう。予算書を確認し始めた二人を横目に、一年生二人へと問いかける。

「…………ねえ、左吉くん、団蔵くん」
「はい、何ですか? 雛さん」
「私の感覚が異常なんだと思う?」
「……まあ、ここの中では異常かもしれません」
「……そっか、そうだよね」
「でも、雛さんの感覚が普通だとおれは思う!」
「団蔵くん……ありがとう」

 まるぅく穴の開いた地面に、ところどころ黒焦げになった庭先。ぷすぷすといった音がしている。もわもわとした煙が徐々に薄れて、姿を現した生徒たちの姿は随分と薄汚れたものだった。しかし、よく死なないものだな……と思う。「皆、丈夫だよね……」と、半ば感心しつつ呟けば、ですねーなんて可愛らしい同意を得られた。

 そして、潮江くんが予算書片手に、ずたぼろになった作法・図書・用具委員会の面々に向かって、各委員会それぞれの今年の予算について言い放ったことで、予算会議は終わった……かのように見えた。


 ――が、しかし。


 ここで終わらないのが、このしっちゃかめっちゃかな予算会議。
 立ち上がり、会計委員会の片付けを手伝っていれば、出てきたのは一枚の予算書。団蔵くんが見つけたものらしい。それが、第二の騒動の幕開けだった。

「なになに? えー……」

 団蔵くんから手渡された紙を読んでいた三木ヱ門くんの顔が徐々に歪んでいく。どうしたんだろう? と団蔵くん、左吉くんと共に見守っていれば、三木ヱ門くんの手がわなわなと震え出した。かと思えば、その口が開き、零れてきたのは潮江くんの怒りを誘うものだったようだ。

「……潮江くん、すっごい形相だったね」
「ええ……人一人殺してきたかのような……」
「学級委員長委員会って確かさ……鉢屋くんが……」
「ええ……鉢屋先輩が委員長代理を務めておられます」
「鉢屋くんもよくやるね……」

 三木ヱ門くんの手から学級委員長委員会の予算書を奪い取って、そのまま鬼のような形相で走って行ってしまった潮江くん。あとに残された私たちだったけれど、一年生の面々が止める間もなく駆け出して行ってしまったのを見て、三木ヱ門くんと二人、顔を見合わせた。

「三木ヱ門くんも行った方が良いんじゃない……?」
「え? ああ、まあ、そうなんですけど……」
「私のことなら心配しなくていいよ」
「いえ、そういうわけにはいきません! 雛さん、雛さんも行きましょう!」
「ええ? だって、私がいても邪魔なだけ――」
「雛さん! 雛さんは邪魔なんかじゃありません。大丈夫です、一緒に行きましょう?」
「…………!」

 三木ヱ門くんの言葉に軽く目を瞠って、それから、首を縦にひとつ振ってみせた。そんな私の手を取って、三木ヱ門くんは微かに微笑んでくれた。いつもと同じ、綺麗な笑み。
 潮江くんたちはどうやら学園長先生の庵へと向かったらしく、三木ヱ門くんに手を引かれ、小走りでそこへと辿りつけば、これまた潮江くんの大声が聞こえてきた。

「これはどういうことですかッ!? 学級委員長委員会の“打合せ雑費食事茶菓代”をいつの間にやらひっそりこっそりちゃっかりしっかり計上しているとは!」

 そう。予算会議終了後に出てきた予算書というのは、鉢屋くんが委員長代理を務め、その顧問を学園長先生が買って出たという、学級委員長委員会の“打合せ雑費食事茶菓代”だった。更には、既に学園長先生が顧問となったことで予算を通していたというのだから、会計委員長である潮江くんが怒るのも無理ないだろう。

 辿り着いた先。私たちより先に到着していた面々と潮江くんの後ろ姿、鉢屋くんと学園長先生の、今にも「えへ」と言わんばかりの顔、それから潮江くんの足元で伸びている誰かの姿が確認できた。踏み……踏み潰してるよ、潮江くん。

「あれって出茂……鹿、さんだっけ?」
「ええ、おそらくは」

 出茂鹿さん……先程、鉢屋くんがニセモノだと言って捕えに行った人物。じゃあ、あれは本物の出茂鹿さん? 三木ヱ門くんに確認をとれば、またしても三木ヱ門くんの声に重なるように、「ていうか……おまえ誰だよ? 出茂鹿じゃねえだろ」なんていう潮江くんの声が聞こえてきた。潮江くんの言葉にえ? と、彼らの方に顔を向ければ――。

(…………ッ!!!?)

 ぺりぺりぺりぺりっと何かを剥がすような音。
 うあぁぁあ……っと何かを恐怖するような声。
 見れば、か、顔、顔が……!

「は、剥が……!?」

(あ、夢に出てきそう……)

 潮江くんが出茂鹿じゃねえだろと言った途端、その“出茂鹿だった顔”が剥がれて違う顔が出てきたのだから、恐ろしいったらない。……変装? 分かるよ、変装なら。鉢屋くんがいつもやってるのも変装でしょう? でも、鉢屋くんは私の前であんな風に顔を剥がし落とすなんてこと一度もしなかった。しなかったんだよ……!

「あああっあんたは!」

 私が、人の顔が剥がれ落ちたことに対してショックを受けている間にも話は進んでいて、何やら新しく出てきた顔は学園長先生の友人の弟子の顔らしかった。しかし、更にその下に別の顔があるなんて鉢屋くんが言い出す始末。

「顔の顔の下に、更に顔……!?」
「雛さん……深く考えない方がいいですよ」
「だって、三木ヱ門くん! 顔の顔の下に、更に顔だよ!?」
「だから! 深く考えちゃだめなんですって!」

 その“更に下の顔”の正体を突き止めるべく、私たちの前で話し込んでいる一年生の面々。彼らの会話からその正体が分かったのか、潮江くんと鉢屋くんが零したのは「ドクアジロガサ忍者」という単語。

「ドクアジロガサ……?」

 何とも奇妙な名前だなあという意味も込めて呟けば、その瞬間、ドクアジロガサ忍者がこちらへと飛びかかってくるではないか。キャー! ぎゃー! という幼い子たちの悲鳴と共に聞こえたのは、学園長先生の「逃がすなッ!」という声。続いて、ぼむっと何かが弾けた音。視界を覆ったのは、白い煙。

「学園長ーッ! 煙幕張ってどうするんですかー!?」
「ッわぁ!? 雛さん! 無事ですか!? てか、いますか!?」
「い、います……っげほ、ごほっ!」
「逃げたぞッ! 三木ヱ門ッ! 団蔵ッ! 会計委員会の名にかけて追え!」
「えー……なんで会計が?」
「それより先に雛さんですよ!」
「我々会計委員会が今日こそは敵を倒すッ!」
「分かりましたよ! あーもうッ! えーい、神崎はどこへ行った!?」

 げほっごほっ……! と煙に咽る。煙幕とは読んで字の如く。 雛さん! と私の腕を掴んで煙の外へと連れ出してくれた三木ヱ門くんは、会計委員長である潮江くんの鬼のような形相を前にくせ者退治へと駆け出して行ってしまった。いやいや、私よりもくせ者退治を優先すべきなのは当然だから気にしてないけれど。

「だいじょうぶー? 雛さん」
「けほっ……尾浜くん……」
「いやー……学級委員長委員会の予算書が見つかるのは時間の問題かなーっては思ってたんだけどさー、まさかそこから曲者退治に移行するなんてねー」
「尾浜くんは追っかけなくていいの?」
「んー? だってさぁ、三郎はほら、雷蔵の真似してるし、他の委員会が総出で追っかけてるから別にいいかなぁと思って」
「ああ……」

 けほけほと咳き込んでいれば、後ろから背中をさすってくれた手があって、誰かと思えば、鉢屋くんと同じく、学級委員長委員会に所属している尾浜くんだった。尾浜くんの指し示す方向を見れば、なるほど、尾浜くんが行かなくてもくせ者退治には十分かもしれなかった。

 潮江くん率いる会計委員会に、立花くん率いる作法委員会(……あ、立花くんの髪がくるくるパー……)。食満くん率いる用具委員会に、中在家くん率いる図書委員会(こちらふたつの面々も酷い格好……)。久々知くん率いる火薬委員会に、竹谷くん率いる生物委員会(こちらふたつは比較的元気……?)。それぞれがくせ者を退治せんと奔走している。

「鉢屋くんはどこ行ったの……?」
「雷蔵んとこじゃなーい?」
「……学級委員長委員会って自由だね」
「まぁね」

 学級委員長委員会所属だという一年は組の庄左ヱ門くんの姿もない。同じく一年生の、こちらははじめましてに近い今福彦四郎くんは、私が咳き込んでいるのを見てか白湯を持ってきてくれた。なんて、いい子。

「ふぁぁあ……眠くなってきた」
「ほんっと……自由だね、尾浜くん」
「いいじゃない。俺も参加すればよかったかなー、くせ者退治」
「さっきまでめんどくさがってたじゃん……」
「暇になってきたんだってばー。……まあ、でも、俺にはここで雛さんと一緒にいるっていう役目があるしね」
「え……」

 尾浜くんの言葉に彼の方を向けば、ウインクと共に、雛さんを一人にはできないでしょ? と返ってきた。それが彼らの優しさなのか。それとも、わたしが彼らの足枷なのか。答えはおそらく、両方で。私の胸中を察したのか、目の前の尾浜くんはにっこりと笑った。

「雛さん、手出してー」
「え? あ……はい」
「はい。どーぞ」
「…………なに、これ?」
「金平糖」
「や……分かるけど。……なんで?」
「んー……? 嫌い? 金平糖」
「きらいじゃ、ない……」
「じゃあ、ほら! 大人しく口に入れる!」
「は? ……ッぐ!!?」

 間抜けにも開いた口。
 飛んできたのは甘く凸凹したモノ。

「……手の上にもあるんだけど」
「うん。貴重だから大事に食べてね」

 尾浜くんの笑みに脱力する。その貴重な金平糖を投げ込んできたのは誰ですか。危うく喉に刺さりそうだった……。何だか上手くハグらかされてしまったような気がしないでもないけれど、尾浜くんなりの気遣いなんだろうなと思うと追及する気は起きなかった。鉢屋くんも、尾浜くんも、優しい。

 そんなことを思いながら、手のひらに乗っけられたままの金平糖をひとつ口へと放り込んだ。と、聞こえてきた、だだだだだッ! と誰かの足音。尾浜くんと彦四郎くんと三人でその音のする方向へと顔を向ければ、そこへ姿を現したのは左門くんだった。そういえば、予算会議の途中から姿が見えなかったなぁ……。

「ややっ!? 雛さんに尾浜先輩! それに一年の……今福!」
「やあ、神崎。何してんのー?」
「ニセモノの山田先生を探しています!」
「ああ……また迷ったんだな」

 尾浜くんの呆れた声も何のその。走り回ってきた際に集めた情報をべらべらと喋るだけ喋って、左門くんはまた走って行ってしまった。しかし、すごい情報量だった。各委員会がどこで何をしているか、把握しているなんて左門くんはどれだけ迷っ……走ったんだろうか。

 左門くんの話によれば、山田先生が大荷物を抱えて困っているらしい。そして、それがおかしいということ。何故なら、その大荷物は、山田先生の奥さんに「年末に帰れない」と連絡した後に、山田先生の奥さんから送られてきたもので、その奥さんは超過激らしく、その荷物は大変危険なため、本来の山田先生なら近寄らない代物だから、らしい。そのことから、その山田先生はニセモノで、くせ者だと判断するに至ったようだ。

 それを聞いた尾浜くんが「ニセモノの山田先生……ね」なんて呟くものだから、本日何度目になるかも分からない嫌な予感が頭をよぎる。

「さぶろーう! 雛さん連れてくからー!」
「勘右衛門……お前な」
「だって楽しそうなんだもーん」
「……分かった。私も行く」

 いつの間に戻ってきていたのか、不破くんと同じように頭をぼわんっと膨らませ薄汚れた格好をした鉢屋くんが上から降ってきた。突然のことにびっくりして言葉も出ないうちに、取られた手。走り出す尾浜くんに鉢屋くん。彦四郎くんが視界の隅で手を振ってくれているのが分かった。癒し……じゃなくて!

「ちょ……え? ね、ねえ! どこ行くの?!」
「「くせ者のところ」」
「ええ!?」

 わたし、行く意味あるー!? と続けた言葉は華麗にスルーされた。彼らの足の速さに躓きそうになるも必死で走っていれば、見えてきたのは各委員会メンバーと、何やら大荷物を紐解こうとしている山田先生(ニセモノ)の姿。聞こえてきたのは、潮江くんのと思われる「いかんっ!」という声。隣の尾浜くんと鉢屋くんの「やば……」なんていう声。

(え? ……いかん? やば……?)

 次の瞬間。


 ――……ちゅどーんッッ!


 ……ばくはつ、した。



「無から有へのを」



 音が鳴るその一歩手前、宙に浮いた身体。音が弾けたその瞬間、誰かに庇われたこの身体。何が起きたかなんてまるで理解できなくて、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。真っ暗。しゅぅぅう……と沈静化する音と、いってぇ〜……だの、うへぇ〜……だのと呻く声でようやく我に返る。

「はー……」
「ぐっちゃぐちゃだねー……」
「は、鉢屋くん……お、尾浜くん……」

 どうやら爆発から私を庇ってくれたのは鉢屋くんと尾浜くんの二人だったようだ。塹壕? と呼ばれる穴の中、覆いかぶさられたまま、斜め上を見上げれば、逆光で顔は見えにくいものの、二人して苦笑いを浮かべているようだった。その姿に大丈夫? と問いかければ、大丈夫じゃないなんて返ってくる。だから、なんだか。


 ――おかしくて。


「…………っふは」

 今の現状も。
 これまでの予算会議も。
 思い返すと、なんだかおかしくて、くすくすと笑いが漏れる。しっちゃかめっちゃかだったけど、不思議と楽しかった気さえしてきた。

「……あんた、やっぱり変な人だな」
「ねー。爆発で吹っ飛ばされかけて笑うなんて、雛さん大物なんじゃなーい?」

 口ではそう言ったけれど、彼らの表情は優しかったように思う。

 土井先生の「みんなー無事かー!」という問いに対し、誰かが「全員無事でーす……」と返していたことから、全員無事なようでほっとする。無事じゃなきゃ、笑えない。ああ、なんだか、その「全員」に私も入っていることが自然で、うれしい。

 予算会議。
 私が想像していたものとは全然違っていたけれど、とてもとても印象に残るものだったなと思う。こうして、予算会議は無事に(?)幕を閉じたのだった。


(受け取ったのは)
(鮮やかな彩りに満ちた――)


 ※予算会議参照:原作43巻
  オリジナル要素付加


(69/88)
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