雛唄、 | ナノ

13


「雛ちゃん、手首大丈夫かい?」

 学園を出てから何度目の同じ問いだろう。それほど私のことを心配してくれていると分かるから嬉しいけれど、軽く十回は越えたであろう同じ問いに思わず苦笑が漏れてしまう。大丈夫ですよ、と口にする前に私の右手を引いてくれているきり丸が言葉を発してくれた。

「せんせえ……その質問もう十三回目ですよお。いい加減鬱陶しいと思いまーす」
「う、鬱陶しい……!?」

 きり丸の言葉も否定できずにいた私は隣でがくりと項垂れた土井先生に向かって曖昧な笑顔を浮かべるしかできなかった。山道を上り下りすることに少しばかり疲れたせいもあるだろうけれどこの程度で疲れたなんて言っていられない。

 昨夜から今朝にかけて私の部屋へと居座り意味不明な言葉を言い続けた挙句、去り際に私のいたあの部屋に仕掛けれらたという罠を作動させていったくせ者二人。私が左手首を軽く捻った原因は雑渡さん一人にあると言ってもいい。
 罠を避けるなんてそんなハイスキルを持っているわけもなく、床がぱっくりと割れたその先の暗闇に落ちた時は本当に死ぬかと思った。上から土井先生の声が聞こえてきたときはひどく安堵したものだ。思い出すと微かに震えが襲ってくる。あの落ちる恐怖を覚えてしまった。……そっと頭を振った。

「あ、雛さん! もう少しで海ですよーっ! ちょっと先生! がくがく項垂れてないで早く来てくださいよー!」
「お前が原因だろうが……!」

(……潮の香りだ)

 漂ってきた潮風に目を凝らす。遠くにきらきらと碧い線が見えた。

 土井先生に助けられた後に告げられた、学園の外に行かないかという誘い。気分転換にでもと忍たまの子たちも行ってきたらと言ってくれたものだから、昼食は任せて軽装で土井先生ときり丸と共に学園を出てきた。

 学園の外に出るのは久しぶりで、山々の景色に視線を彷徨わせながら歩いて、今後について話す土井先生に曖昧な返事をしつつ道を進み、今に至る。

 これからの私の部屋について。
 罠のことについて。

 罠は確かに怖かったけれど、結果的に私は生きているのだし、罠を作動させたのは雑渡さんで学園の誰かではない。それだけが私にとっての全てだった。どうして罠を仕掛けられた部屋に私を住まわせたのか、そんなこと聞くだけ無駄だということは私にも分かっていたから、土井先生が必死に何か言っていたような気がするけれど、右から左へとぬけて私の頭には何ひとつ残っていやしない。

 聞きたくないという、ただそれだけの醜い感情で。

「…………きれい」

 土井先生ときり丸が何か言い争っていたけれど、目の前に広がる青にそれだけを呟いて駆け出した。右手に絡んだ小さな、でも確かに生きている証をもった手を静かに振り解いて駆け出した。

「あ、雛さん?!」
「……私たちも行くか」
「よっぽど海見れたの嬉しかったんですかねー……うわ、あっち!」
「砂は太陽の光を浴びて熱くなっているからなあ。気をつけろよ、きり丸」
「わーってますよ! 雛さあん!」

 ちゃぷん。少しばかり小袖の裾を上げて海へと足を浸す。冷たい。青い。澄んだ青だ。綺麗なただの青。私の世界の日本の海と比べたらずっと綺麗な彩りだと思った。

 じぃっと自らの足を濡らすゆらゆらと揺れる波を見つめていれば、私の名前と共に背中にかかってきた重み。うおっと女らしさの欠片もない声をあげて、膝から潮水へとダイブした。

(あれ……ダイブ……?)

「あ」
「あ」
「ああああああ……ッ!!!」

 ばしゃんなんて水音と共に顔に飛んできた泡沫。後ろからは土井先生の叫び声が飛んできた。わたしと同じように少し顔を濡らした犯人を見る。

「…………きり丸」
「あは、は……ちょーっとこう、ほら雛さん暑そうにしてたから!」
「こんのバカッ! 雛ちゃんまで巻き込むな! ああもう、代えの着替えなんて持ってきているわけないしなあ……困った」
「う、ごめん、雛さん……」

 しょぼんとしてしまったきり丸に苦笑しつつも、全くもって怒りという感情は湧いてこなかった。濡れたのはほとんど下半身と袖だけだし、髪が濡れていない分、この暑さの中ではすぐに着物は乾く気もした。きり丸の方は、着物の裾が半ズボンのように短いことと私の背に乗ってきただけあって、着物が濡れたということはないようだった。

「――――……ぃ」
「そのままだと気持ち悪いだろう。水を出来るだけ絞ってっと、あ、砂につかないようにね。ますますべたべたになってしまうから」
「大丈夫ですよ、先生。そこまで気にしませんし……」
「いーや! 私が気にする! 雛ちゃんは手首を捻っていただろう? それなのに海水に浸かって……せっかく塗った薬も巻いた包帯もびしょびしょじゃないか。ったく、きり丸。お前はちゃんと反省すること」
「はぁい」
「ぉ―――……ぇ……ぅ―」

(さっきからなんか聞こえる気がするんだけど……)

 気になる音を顧みることなく、土井先生に導かれるまま近くの岩に座らされて、足を取られた。

「え……あの、土井先生?」
「うん? ……怪我はないね、良かった」

 岩に座っている私と、私の足元に片膝をついて水で濡れてしまった私の足先をその懐から取り出した手拭いで拭いてくれる土井先生の姿は、傍から見ればもしかしたら微笑ましく仲睦まじい二人に見えるのかもしれないが当事者としては顔が熱くて仕方ない。

 どうして先生は、さらっとこういうことができるんだろう。きっと私をただの客人として見ているからで、別に女だとかそういう認識をしていないからに違いない。

(……イケメンはずるい)

 嫌でも優しく笑いかけられれば鼓動が速くならざるを得ないわけで。土井先生であれば顔が整っていなくともその心遣いや優しさに心惹かれるのだと思うけれど。なんだか、私ばかりが勝手にどぎまぎしているこの状況がますます自身の羞恥を高めてしまう。

「……雛ちゃん? 顔が少し赤いようだが……」
「ッき、気にしないでください」
「太陽の熱にやられたか? まさか、熱があるんじゃ!」
「ッ!!? な……な……!」

 足先からふと顔を上げた土井先生とばっちり視線が交差して、それだけでも随分と恥ずかしいというのに、あろうことか先生は両膝をついて中腰になって私の顔を下から覗き込むように見上げた挙句、両の手のひらを私の頬に押し付けるのだから言葉も出ない。

(この場で視線を外すのもどこか失礼だし、ああでもこのままじゃ私の心臓がもたない気もするし……!)

 誰か助けてと思った瞬間に弾けた傍らの笑い声。土井先生と二人ではっとなってそちらを見やれば、きり丸が腹を抱えていた。

「っぷくくく……おっもしれえ! ッははははは!!!」
「きり丸、何がそんなにおかしいんだ……!」
「いや……っふはははは!!! 土井先生、にっぶー! 雛さんの顔見りゃわかんじゃん! ねー! 雛さんっ!」

 きり丸に示唆されて、ばっとこちらを向いた土井先生から逃れるようにきり丸をじと目で見てしまう。

「気付いてたならもっと早く助けてくれても……!」
「えー? せんせえはーマジで気付いてなかったけどお、雛さんはなんていうかあ、まんざらでもないっていうかー?」
「ッッ………!!!」

 こんにゃろ、と喉まで出かけてはっとなった。軽口を叩けるくらいの私の今の心境に。私だけを置いて流れていくような目の前の時間を切り取って、気付いた事実に一瞬苦味を覚えたようなそんな気がした。
 きり丸に鈍いと言われた土井先生は何やらきり丸を問い詰めているようだけれど、きり丸は飄々とかわしていく。

「いいじゃないっすか! 今朝も言ったでしょ? 俺」
「何を言ったんだ、何を!」
「えー? 先生、もう忘れたんですかあ? 教師ともあろう人が、ぷぐぐぐ……」
「変に笑いを抑えるな! 笑うならもういっそ笑ってくれた方がマシだ!」

 じゃあ、遠慮なくと先ほどと同じく大声で笑い始めたきり丸が、土井先生にいい加減にしろと襟首を掴まれるまで私はきり丸に見透かされていた淡い下心とあの状況に羞恥を覚えずにはいられず、ただ岩の上で小さくなっているだけだった。

「土井先生、雛さんとだったら結婚してもいいと思いますって。俺、今朝言ったじゃないですかあ」
「「けっ……ッこんんん!!?」」
「被った! 流石っすね! 俺はお似合いだと思いますけどお? 土井先生と雛さん!」

 きり丸の無邪気な笑顔と共に落とされた言葉に、先生ときり丸が知り合いだという水軍の総大将が現れるまでの間、土井先生がきり丸に対してああでもないこうでもないと言い繕っているのを見て、少し自嘲した。

(ここにずっといられるなんて)
(そんな保証はなくて)
(……私は、確かに帰りたいと願って止まないはずなのだから)

 もし私がこの世界に最初から生まれ落ちていて、土井先生と結婚できたのなら幸せかもしれない……なんて思うと同時に太陽の眩しさに瞳を閉じた。

 ちりちりとした熱が痛い。


 ***


「で、そちらのお嬢さんが前にお前たちが言ってた子か?」
「はい、西園寺雛さんでーす! 将来的には土井先生のお嫁さ……」
「きり丸、お前は少しこの口を縫ってでもやった方が良さそうだなあ……?」

 アヒルさんボートに乗って、波にゆらゆらと揺られていれば遠目から見えた顔見知りに声をかけるも陸に下りて、きり丸に話しかけるまで気付いてももらえなかった。

 きり丸と土井先生が何やら言い争っていたようだが、何も困るようなことではないらしい。あの時のきり丸の顔は楽しそうだったし、土井先生の方は照れたような表情をしていたのだから。そして見つけた女の影。きり丸に話しかける前に、ふと顔を上げたその子と視線が交わったのは記憶に新しい。きり丸と土井先生に簡単に挨拶を済ませ、話題を彼女へと向ける。

「そうかそうか。お前がこいつらの言ってた雛さんとやらか」

 なるほど、と一人頷く。
 以前にこちらへとやってきた際に、山田先生が告げた彼女の瞳が綺麗だというその言葉が自分にしては珍しいことにも脳内に残っていたようだ。じっと見れば、その人も視線を逸らすようなことをしない。

「ふむ……細かい事情は俺としてはどうでもいいからなぁ! よし、じゃあ雛とやら! 今日は思う存分、この広大な海を楽しんでいけよ」
「え……あ、はい」
「いい返事だ! どうする、土井先生! 俺と共に皆でアヒルさんボートにでも乗るか!?」
「いえ……その、第三協栄丸さん、良ければなんですけど」

 土井先生が遠慮がちに零した言葉にがははと大きく笑ってしまう。水に浸かってしまった雛さんとやらの着替えを借してくれはしないかと、そんな小さな頼みを断るような肝っ玉の小さい男じゃない、俺は。

「今は夏だからなあ! 着替えてその濡れた着物は外に干しときゃすぐに乾くさあ! でもまあ、女には濡れたままの着物っつーのは気分が良くないだろう。水軍館に行けば、着替えがあるな。多分、男物しかねえけど。それでもいいか?」

 ニカっと笑いかければ、きょとんとした後にお願いしますと小さく言葉を返した雛にまたもや笑ってしまった。久々の来客、しかも女人ということで水軍の者共もきっと嬉しく思うことだろう。

「じゃあ、行くかー!」

 水軍館へ向かう途中で後ろを振り返れば、土井先生もきり丸もあの子を気遣って歩く速度を落としている。面白い光景だと、がははと意味もなく笑った。


 ***


 水軍館に入ってまず、顔の整っている人が多すぎるんじゃないかと、そう思わずにはいられなかった。自分の呑気な思考に内心苦笑が漏れるも、事実なのだから仕方ない。

「おーい! この中で誰か女でも着れそうな衣持ってる奴いねえかあ?!」
「女……? 女でも着れそうな服なんて、皆持ってないと思いますけど……なんだ、客人でしたか」
「東南風の言う通りだな。うーん……網問、あいつなら持ってるかもしれませんよ。あいつ綺麗好きだからそれなりに綺麗なの持ってるんじゃないですかね」
「じゃあ義丸、網問を呼んでくれ!」
「? ……分かりました」

 ここに来る途中で自己紹介をしてくれた水軍の総大将である第三協栄丸さんの声に、額を始め晒されている皮膚のあちこちに傷の痕が見えるどこか色っぽい、よしまる、と呼ばれた人が立ちあがって館を出ていく際に、一瞬だけ視線が交差した。
 首を傾げられた気がするけれど、なぜだろう。夏の暑さのおかげでここに来るまでに大方乾いてしまった小袖を見下ろしていれば、前方から声がした。

「雛、まずはここにいる奴らを紹介してやろう! 皆、集まってくれー!」
「何ですか、お頭……って女がいる……! ッうぷ!」
「ええ!? って何だ、土井先生ときり丸と……女だ!」
「間切も重も客人に対して失礼だろう。とにかく、間切、お前は船に戻ってろ。初対面の女人の前で陸酔いで吐くのは良くない。いいですよね、お頭」
「由良四郎……だな、陸酔い組と船にいる連中は後で船の上ででも自己紹介してやってくれ! な、雛! 昼飯食ったら、船に乗って海でも眺めてこい! いい気分転換になるぞ、きっと!」

 がははと笑う第三協栄丸さんにしばし呆気に取られてしまったけれど、言葉を咀嚼してこくんとひとつ、無言で頷いた。私の隣に立つ、一年は組の教科担当である彼の、私の頭に乗せられた手のひらが大丈夫だと言ってくれたそんな気がした。
 今、この場にいるのは兵庫水軍の中でも精鋭と呼べる人たちだけらしく、あといさんという人に男物の小袖を借してもらって着替えた後に、順に紹介してもらうと私と大して年の変わらない人が何人かいて少しばかり驚いてしまう。それと同時にすごい、とも思えた。

 私と同い年のような人が、ここで、一人の人間として、親に頼ることもなく自分の力で生きてるんだと思うと急にいたたまれなくなって、知らず知らずの内に拳をぎゅうっと握ってしまった。

(子供じゃない)
(けれど、大人にもなりきれない)

 そんな私とは大違いで。

「雛とお前らは年が近いからなあ……よし! 網問、重! お前ら、雛を連れて船に乗ってる連中と見回りでも行ってこい! 女人を漁船に乗せるわけにゃいかねぇから見廻り船でな!」
「あ、じゃあ、俺も行きますよ」
「そうか、じゃあ義丸と網問と重だな! 雛、楽しんでこいよ!」
「ちょ、第三協栄丸さん! 彼女は今、手首を怪我していてですね、万が一海にでも落ちたら……」
「土井先生は心配性だなあ! だったら、俺たちも行けばいいじゃないっすか! いいですよね、第三協栄丸さん!」
「おう! 行ってこい!」

 昼ご飯をご馳走になり、それなりに緊張が解れてきたところでかかった第三協栄丸さんの提案。私の是非は関係なしに話は進み、結局は義丸さんと網問くん、重の三人と土井先生ときり丸と一緒に船へと乗り込んだ。
 重とはどうやら同い年らしく、重くんと呼んだら全力で拒否されてしまった。

「舳丸の兄きー!」
「っと、西園寺さん大丈夫か? ……よっと」
「あ、ありがとうございます……義丸さん」

 船に乗り込む際に手をかしてくれたのは義丸さんで、先ほど私を見て首を傾げた人だった。首を傾げたのは、いつもはいない女人がいたからだとか何だとか。

「鬼蜘蛛丸さあん! お久しぶりでーす!」
「やあ、きり丸。今日はどうし……って、おや、義丸が女人を連れてる……!」
「俺の連れじゃなくて、土井先生ときり丸の連れだよ。忍術学園の客人だそうだ」
「ほう……で、ここには何をしに?」
「気分転換にでも、と。彼女に海を見せたいそうですよ、総大将は」
「そのついでに見回り行ってこいってか?」

 鬼蜘蛛丸さん、と呼ばれた人を始め船に乗っていた水軍の人たちの視線がこちらに投げかけられて思わずびくっとしてしまった。情けない。

「もう、皆してそんな一斉に雛さんのこと見ない方がいいと思いますよ。ね、雛さん。大の男がじろじろ見てきたらそりゃ身構えるっていうか」
「網問、お前はまた飄々と……!」
「疾風兄ィ! っと、来たのか! 俺は間切っていいます、よろしく!」
「お前も自由だな、随分と……」

 間切くんも私と年が近いらしく、彼の進行でぽんぽんと船の上にいた水軍の人たちとも自己紹介をし合うことになった。忍術学園でお世話になっているだけのただの女人である私にも、彼らは優しく話しかけてくれた。

「海はいいだろう? 俺なんぞ、海で生きてる方が陸より長いせいで陸酔いしちまうし」
「蜉蝣兄ィはまだいいですよ。ある程度は吐かずに我慢できるんですから」
「鬼蜘蛛丸は吐いてばっかだしな!」
「……陸酔い、ですか」
「笑っちまうだろ? 人間で、地を踏みしめるための足があるっつーのに陸がダメなんてよ」

 そう言って笑いながら、男前な笑みを浮かべた蜉蝣さん、鬼蜘蛛丸さんをしばしの間、見つめてから一人そっと青々と光る水面へと視線を向けた。

 足があっても、翼が欲しいと望む人がいるようにもしかしたらこの人たちは、足でも翼でもなく水の中をずっと泳いでいられるような、エラが欲しいのかもしれない。私が忍術学園という一種の温い優しさに満ちた箱庭から逃げ出したくて、鳥が羨ましいと思ったようにこの人たちは魚を羨ましいと思っているのかもしれない。

 私のただの変な推測に過ぎないけれど、そんな意味も込めて魚だ……と小さく呟けば近くにいた航と間切さんが言葉をくれた。

「どう? いい気分転換にでもなった?」
「土井先生がさっきぶつくさと雛ちゃんにはいつも窮屈な思いをさせているからとか何とか言ってたけど、海見てると窮屈なんて吹っ飛ぶから今日は見飽きるほど見てけばいいさ」
「お前ら、久々に年の近い女人に会ったからってはしゃぎすぎんなよ」
「舳丸の兄きだって多少は浮かれてたくせにー!」

 彼らのやり取りが何だかあまりにも普通で、明るくて温かくて、海の青にぴったりだと思った。……きらきらしている。太陽も海も目の前の、私と同じ成分で構成されているはずの人間も。



「煌めきの方、碧」



 見回りを終えて、船を降りて陸に足をつけて、ただ地を踏みしめる。帰り際にまた来いよ、と言ってくれた人たちに胸が苦しくなった。来た時と同じように、きり丸と手を繋いで土井先生の隣を歩いている帰りの道で、今日の私はとても幸せだと思う。

 今朝の危ない罠のことなんて、頭の中からぽーんと抜けてしまっていて。

(この海に)
(また来たいと、思った)


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