「おい、」
それぞれ盛り上がっている中、静かな低い声が響いた。 それはもちろん。今の今まで話に入ってくることのなかった高杉だ。 全員の視線が自分に集まるのを鬱陶しく感じながらも、高杉は続けた。
「俺ァ疲れた。とっとと部屋に行きてェんだが?」
高杉はいかにも不機嫌というように、あげはたちを睨んだ。
ああ、そういえばコイツ。さっきからやけに部屋に行きたそうにしてたっけ。 あげははコナンたちに会うまでの彼の様子を思い浮かべた。
「おいおい、晋ちゃんよ。お前さん、なんでそんな機嫌悪いわけ?」
「晋ちゃん言うな天パ。元はといえばてめぇらのせいだろうが」
高杉が不機嫌な理由は、ここに来る前に散々あげはたちに振り回された。というより連れまわされたからだ。 思ったより、そのダメージがきているらしい。
「まあ、確かに。ここで立ち話もアレだな。一度キリにして部屋に行くか」
『あ、じゃあ。蘭と和葉さ、一緒に温泉いこうよ』
あげはの提案に快く賛成する蘭と和葉。
「そうだね!ここの温泉、肌とかにもいいらしいし、私も行きたかったんだよね!」
「ほな入り口で集合な!」
女子組はもうすっかり仲良くなったようだ。 ここの温泉は評判がいいとか、美肌効果があるのだとか話していた。
「お父さんたちはどうする?」
「俺は部屋で寝るから、お前らだけで行ってこい」
「僕たちも温泉に入るよ。ね、平次兄ちゃん?」
「ああ、そうやな」
そしてお互い一度挨拶をして、それぞれの部屋へと向かった。
***
「そういえば、あげはちゃんはどこの高校なの?」
約束通り三人で湯船につかるあげは、蘭、和葉。 あげはは蘭が帝丹高校に通っていることを知っていたが、蘭はあげはたちがどこの高校かを知らなかった。
『(まあ、それが普通だよね)』
自分たちが特殊なのだ。それはしょうがない。
『あたしたちは銀魂高校だよ』
そう言ったあげはに蘭はおおげさに、ええ!?と叫んだ。 幸い彼女たち以外に客はいなかったが、あげはと和葉は予想外の蘭の反応に肩を揺らした。
「ど、どないしたん?蘭ちゃん?」
『あたし、なんか変なこと言った?』
「あ、えーっと…。そうじゃなくてね。私の友達が銀魂高校ってイケメンが多いけど、教室から窓を破って机が飛んで来たり、よく爆発らしきものが起こってるってきいたことあったから…」
あげはちゃんは大丈夫なのかなって思って。 遠慮がちに言う蘭にあげはは笑う。
『大丈夫だよ、蘭。それに……いや、なんでもない』
それに、それ全部あたしたちが原因だから。 あげははそんな言葉を言いそうになったが、咄嗟に飲み込んだ。
コレ言ったら絶対ドン引きされる。てかあたしのせいじゃないし? そもそも机が飛ぶのは銀時や晋助、時々小太郎が喧嘩するからで、爆発するのはたまに遊びに来る中学生の神楽と、こちらもたまに遊びに来る真選組の総悟が鉢合わせて、暴れるからだし。 あげはは自分も銀時らに混ざって、物を壊すことは棚に上げた。
『とにかくあたしは楽しくやってるから何も問題はない…「 」…よ……?』
あげはは聞こえてきた何かに顔を上げた。 今、確かに……。
「あげはちゃん?」
「のぼせてしまったん?」
二人には聞こえなかったのか、あげはを不思議そうに見ている。 そんな彼女らに返事もせず、あげはは目を凝らして一点を見つめた。そしてそれが何かわかると勢いよく立ち上がる。
『蘭、和葉!今すぐ湯船から出て!!』
「え?」
『いいから!!』
あげはは一つ舌打ちをすると、二人の腕をつかんで湯船から上がった。それと同時に飛沫を上げてさっきまで自分たちのいた場所に何かが落ちてくる。 かなりの質量があるであろうそれ。赤く染まる湯船。
それを目にした蘭と和葉は悲鳴を上げた。 おそらく二人の声は隣の男湯の方にも届いただろう。 そう予想したあげはは二人に服を着るように言うと、自分はバスタオル一枚のままお湯に浮いてるもの、つまり男性の死体がおちてきた方へと器用に岩を伝って登って行った。
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