拝啓、歌舞伎町の皆様。 変わりなくお過ごしでしょうか。私も変わりなく元気で過ごしてい…、
『るわけねぇだろォォォオオ!!』
拝啓、歌舞伎町の皆様。 私は今、異世界の忍術学園にいます。帰りたいです。いやもうマジで切実に帰りたいです。
突然叫んだあたしを怯えた目で見る者、疎んだ目で見る者、そっと目を逸らす者。三者三様の反応だが、結局はあたしと関わりたくないという考えが見え見えだ。泣くぞ。
この世界にやって来て約一週間。あたしは忍術学園の学園長、大川平次渦正殿の配慮によりここで事務員として過ごしている。 学園長含む教員、生徒は皆あたしが異世界から来たという事実をやけにあっさりと受け入れたのを今でも覚えている。なんでもあたしが来る前にも何度か異世界から来た人がいたのだとか。 そしてその異世界から来た人たちを彼らは総じて天女と呼んでいる。あたしが天女とかそれなんて笑い話? 過去に何があったのかは知らないが、忍術学園の生徒たちは天女という存在に嫌悪、または恐れを抱いているようで。あたしに話しかけてくる子はなかなかいない。(ちなみに最上級生の六年生が15歳だというので、あたしからしたら新八や神楽を連想し、親近感が多少なりともあるのだが)
「あげはさーん!」
箒を片手に今に至るまでの回想をしていれば、背後から名前を呼ばれる。ほとんどの者はあたしを天女と呼ぶので、名前で呼んでくる人は数少ない貴重な人物だ。まあ、深く関わるに連れ徐々に訂正していくつもりではあるが。
そんなことを考えながら後ろを振り向くと書類を大量に抱えた事務員の小松田秀作が走って来ていた。あ、嫌な予感。
「うわぁっ!」
ほら嫌な予感的中。 小松田は石に躓きこっちに突っ込んでくる。書類は見事に宙に舞った。
『っいい加減!アンタは走るなってあたし毎回言ってるよね!?』
「ごめんなさーい」
あたしは片手で小松田を受けとめ、舞っている書類を空いた片手で全て掴み取る。 さながら乙女ゲームに出てくる男女のような恰好だ。今のあたしヒロイン側じゃないけど。
小松田がもう一度謝ってあたしから離れるのを見計らって、あたしは書類に目を通す。
『あーあ…見事にバラバラだよこれ』
各委員会に配るためにまとめてあった書類は、宙を舞ったためにごちゃまぜになっていた。
「そんなあ…。せっかく僕とあげはさんで頑張ったのに…」
『うん、そうだね。バラバラにしたのはアンタだけどね』
もう一度まとめ直してくると言う小松田の提案を断って、あたしはこの書類の配布役を買って出た。 小松田はあたしをキラキラとした目で見てお礼を言って来るが違うから。アンタに任せたら余計仕事が増えて面倒になるだけだから。 敢えてそれは言わず、よろしくお願いしまーす!とブンブンと手を振って去って行く小松田に自然とため息が零れた。 とりあえず掃き掃除は一旦中断してこっちを優先しよう。
縁側に腰掛けて書類に目を通していると、廊下の向こう側からトイレットペーパーの山がこちらに向かってきた。…正確に言うとトイレットペーパーを大量に抱えた六年の保険委員長だ。名前は忘れた。
『(これは退いた方がよさそうだな)』
絶対あたしのこと見えてないだろ、アイツ。 そう思って腰を浮かせたその時、
「あっ!」
『え……えええええええええ!?』
一瞬だった。 少年の腕からトイレットペーパーが一つ転がり落ちたかと思った矢先に、少年が廊下から足を滑らせ地面へ、と思ったら地面に穴が開き少年はたちまち落とし穴へと落下。残ったのはトイレットペーパーのみ。 え、何これ、どんだけ不運!?というかこの落とし穴は絶対アイツだ。
あたしはどうするべきか一瞬迷ったが、結局少年が落ちた穴を覗いてみることにした。
『おーい少年、大丈夫かい?』
「ぇ……あ、天女、さま…」
……さすがに面と向かって怯えられると傷つくぞオイ。
『…まあ、いいや。えーっと…四天王寺クン、』
「善法寺です」
『あ、マジか。おしい』
「いや、寺しか合ってないです」
『……細かい事は気にするなよ善法寺。とりあえずほら、手』
そう言って穴の中に向かって手を差し出せば、善法寺は戸惑った表情を浮かべたものの大人しくあたしの手に自身の手を重ねた。
『よし!んじゃ引き上げる…よ?』
「え、」
善法寺の腕を引っ張ろうとしたのと同時に、あたしが膝をついていた地面が崩れた。 え、ちょっと待ってこれ。
『ぎゃあああああああ!!』
「うわあああああああ!!」
案の定落下。なんとか善法寺を下敷きにすることだけは避けることができた。 咄嗟に身体を捻って避けたあたしすげぇ。
「す、すいません天女様!」
『え?いいよ別に。あたしの不注意だし』
「違います…。その、僕が不運だから…」
そういえば一年は組で保健委員の猪名寺乱太郎が保健委員会は別名〈不運委員会〉と言われ、なかでも委員長の不運さは群を抜いてる的な事言ってたな。コイツか。
『というかアンタが不運だろうがあたしには「おやまあ」…ん?』
あたしの言葉を遮る抑揚のない声。上からだ。
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