***
「ふう…」
『あ、終わった?』
銀時たちがこの部屋を出て行ってから数分と経たず、コナンが息を吐いた。
そこにはいくらか安堵も混じっていたから、無事に爆弾は解除できたのだろう。
『お疲れ、名探偵』
「ハハ…今回は探偵っぽいことはしてねーけどな」
『あ、口調が工藤新一っぽい』
「あー…」
『あたしたちはアンタの正体知ってるから別にいいじゃん』
「いや、あげはさんってうっかり俺の正体バラしそう」
『信用ねーなあたし。そこまでうっかりじゃないわ!』
こうやって呑気に会話できるのはコナンがいち早く爆弾の存在に気づき、行動してくれたおかげか。
そういえば銀時たちの方は上手くやっているのだろうか。…いや、アイツらのことだ。きっとうまくやっているに違いない。
『…あれ、どこに電話かけてんの?』
「警察」
『…………ああ、そういえば誰も通報してなかったね』
コナンは蝶ネクタイを模った変声期で毛利小五郎の声に変え、警察に電話をかけていた。
というか、爆弾を見つけたらまずするべき行動があたしたちからはすっかり抜け落ちていたのだ。
『警察も来ることだし、もう大丈夫そうだねー』
「……いや。まだ犯人が何人いるのかも特定できてないしどうだろう…」
『ああ、それで思い出した。辰馬はどうしてんだろ』
アイツちゃんと犯人確保できてるのかな。
信用していないわけではないが、そういう点では辰馬が一番心配だ。なんてったてバカだから。
「動くな!」
『「!!」』
突然背後から聞こえてきた怒鳴り声。反射的にあたしたちは振り返った。
そこにいたのは拳銃を持った男。会場に現れたという男は辰馬が相手しているから、また別の爆弾魔の一人だろう。
「…殺されたくなかったら大人しくこっちへ来な」
男は銃口をこちらに向け、ジリジリと近寄ってくる。
『…外に、警備員がいたはずだけど?』
「俺が来たときには既に気絶していたが?」
『「「…………」」』
あたしたちの間に沈黙が流れる。
おかしいな。あたしとコナンが中に入った時には普通に起きてたから……。
『……晋助か』
「何やってんだあの人」
多分説明とか面倒で気絶させたな、アイツ。
コナンは呆れたように突っ込みながらも、そっとシューズに手を伸ばしていた。
それを目に留めたあたしは彼を制す。
『…いーよ、コナン。アンタがやらなくても』
え、とコナンは立ち上がったあたしを見上げる。
そんな彼の呆けたような表情と、拳銃を前にしても焦りを見せないあたしに戸惑った男の声。それにあたしはニッと笑った。
『爆弾処理はアンタに任せっきりだったしね。……それに、こっちの方が断然あたし向きだ』
使い慣れた木刀を握る。
そんなあたしの動作に男が目に見えて動揺したのがわかった。
「……毎度思うんだけどその木刀どこに隠し持ってんの?」
『んー、企業秘密』
「そうかよ…」
「おい!何話してんだお前ら!」
今度はしっかりと銃口があたしに向けられる。男の標的(ターゲット)はあたしに定められたようだ。
そしてそれは同時に、確定の合図。相手が武器を所持していた場合の、あたしが手を出してもいいという合図。
『万事屋、紅藤あげは―――参る』
あたしのその言葉と同時に放たれた銃弾を避けて床を蹴った。男が反応するより早く間合いに入り、拳銃を持った手を蹴りあげる。
そのまま体を回転させた勢いで木刀を薙げば―――、
『一丁上がりっと』
気絶した男がドサリと床に倒れる。
拳銃を所持していてもやっぱりコイツは一般人だ。とても呆気ない。
「……相変わらず見事な立ち振る舞いで」
『まあね』
ハハ、と苦笑を漏らすコナン。
こういう事態に慣れてるからね、あたしたちは。
『…あ、一応縛っとこうかコイツ』
「そうだね」
コナンとあたしは近くにあった紐で男を縛る。
その最中にコナンが、あっ、と何かに気付いたように声を上げた。
『何?どした?』
「いや…あげはさんに一つ頼みたいことがあるんだけど……」
『?何さ』
コナンはチラリと解除された爆弾を一瞥して、あたしを見た。
「あの爆弾処理したのあげはさんってことにしてくれない…?」
『え、やだよ』
「即答かよ!頼むって!さすがに小一の俺が爆弾を解除したと知られるのはマズイだろ!」
『ええええええ。……あ、じゃあ警察来る前に逃げるか』
「は?え、ちょ、」
意味が分からないという顔をするコナンを無視して、脇に抱える。その際に戸惑いの声が聞こえてきたが、それも無視。
『逃げるが勝ちってことで』
「ええええええ」
コナンを抱えたまま廊下を走っていると、見慣れた銀髪と長髪が視界の先に映った。
『銀時ー、こたろー』
「お、あげはとコナンじゃねーか。お疲れさん」
あたしたちに気付いた銀時が片手を上げる。小太郎もあたしたちを見て、お互い怪我はないようだな、と安堵の息を漏らした。
二人の足元には壊された爆弾(のようなもの)と気絶している爆弾魔と思われる男たちが転がっていた。
犯人グループはあたしや辰馬が相手したのも含めて全部で五人いたらしい。
「そっちも無事に終わったようで安心した」
『楽勝だよ、あれくらい。んで、警察来る前に逃げてきた』
「あー…なるほど。土方クンたち来るとめんどくせーもんなー…」
「……ていうか、いい加減下ろせよバーロー」
『あ、ゴメン』
ジト目で見上げてくるコナンを床に下ろす。
「銀時、坂本連れてきたぜ」
「ああ。辰馬も悪かったな、一人残しちまって」
「アハハハハ!金時の頼みじゃき、これくらい構わんぜよ」
「銀時だっつってんだろ」
あたしたちの後ろからやって来た晋助と辰馬。これで万事屋も全員揃ったわけだ。
『…そんじゃ、あたしたちは警察来る前に退散しようか』
「あげはに同感だな。警察…特に真選組には会いたくねェ」
「高杉はまっこと真選組が嫌いじゃのう」
「いつものことだろう」
「そーさな。…じゃあ、コナン。俺らは帰るがあとはよろしく頼んだぜ」
「……なんていうかいつも嵐の如く現れて、嵐の如く去って行くよね、坂田さんたち」
「そうか?」
『まあ、いいじゃん。ってことでじゃあねー』
近くでパトカーのサイレンが鳴っている。警察がもうそこまで来ているのだろう。
あたしたちはコナンに別れを告げて、窓から外へ出て行った。
「……まあ、全部あの人たちがやったってことにすればいいか」
だから、一人残されたコナンがそう呟いていたことも、後日土方さんが万事屋まで押しかけてくることも、今のあたしたちには知る由もなかったのだ。
正義は誰のものなのか(少なくともそれは、)
(彼らのものではない)
title:たとえば僕が
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