辰馬の父親が主催するパーティーに参加しているあたしたち万事屋。
ここぞとばかりにありとあらゆる甘味を味わったあたしは、休憩するために会場から出て長い廊下を歩いていた。
そして少し行った先から聞こえてきた誰かの言い争う声。
あたしは面倒事を好まないため引き返そうかと考えていたところ、言い争う内の一人の声に聞き覚えがあることに気が付く。
その声の主がわかってしまったあたしはどうしようかと悩んだ末、そちらの方に向かうことにした。
「ここを調べて来いって小五郎のおじさんに言われたんだ!だから入れてよ!」
「ダメだ。いくらあの毛利小五郎の使いだとは言え、ここは関係者以外立ち入り禁止なんだ」
「でも、『何してんの』…!」
あたしの目線の先には警備員と扉の前で揉めている江戸川コナンの姿があった。
…このパーティーに参加してたのか。全然気づかなかった。
それはコナンも同じようで目を丸くしてこちらを見ている。
『…あたし、このパーティーの主催者の息子、坂本辰馬の友人なんだけどさ。あたしが付き添うし、コイツ入れてやってよ』
「はあ……まあ、それなら」
『ありがとーございまーす。ほらコナン、行くよー』
「え、ちょ、」
あたしはコナンの腕を引っ張って、部屋の中に入った。
中にはコンピューターがいくつか並べられており、ここは何かの制御室のようだ。
「…まさかこんなとこで会うとは思わなかったよ、あげはさん」
『それはこっちのセリフなんだけど』
そんなことを言いながらもコナンは何かを捜しているようで、部屋の中をうろうろしている。
『ねえ、アンタが毛利小五郎の名を使ってまでここに入りたかった理由って何?』
あたしのその問いにコナンは顔を曇らせる。
そして、まだ確信を得られたわけじゃないんだけど、と口を開いた。
『………は?爆弾!?』
「しーっ!外の警備員に聞こえる!」
『お、おお…。ゴメン。…で、何でここに爆弾が仕掛けられてるってわかったわけ?』
「パーティー会場ですれ違った男たちが話してたんだよ。ここに爆弾を仕掛けたって」
『マジか』
コナンの話を聞くに爆弾魔は二人、もしくはそれ以上。ただのテロリストならまだいいが、爆弾となるとこの会場にいる人全員が人質に取られたようなもんだ。
うーん…非常に厄介。
「!…あったよ、ほら」
『うわー…モノホンだー…』
カチカチと不吉な音を立てる爆弾はこの部屋の天井裏から出てきた。
コナン曰はくこれは遠隔式で操作できるものらしい。
『アンタこれ解除できんの?』
「やるしかないよ」
『ですよねー…。とりあえずあたしは銀時に連絡しとくわ』
コナンが爆弾とにらめっこしているうちにあたしは銀時の携帯へと電話をかけた。
ちなみにあたしも頑張れば爆弾を解除できないこともないが、何分めんどくさくてやりたくない。コナンがいてくれてよかった。
そんなことを考えているうちに銀時と電話が繋がった。
<…あげはか?どうした?>
『んー…いや、ちょっとめんどくさいことがね』
<そりゃお互い様だな>
『?…アンタ今会場だよね?』
<あー…それがよォ…、>
銀時が言う会場の様子にあたしは思わず口を引きつらせた。
あっちはあっちで爆弾魔の一人と思われる男が人質を取って、脅しをかけているらしい。拳銃も所持しているとか。
そしてあたしはそれを聞いた後、こっちの情報も銀時に伝えた。
銀時は、少しヅラたちと話す、と言って一度電話を切った。そしてすぐにもう一度コール音が鳴る。
<あげは、犯人の話を聞く辺り爆弾は一つじゃねぇ。おそらく全部で四つだ。今からそこに行くから待ってろ>
『ん、りょーかい』
あたしは銀時の指示に頷くと、今までずっと爆弾処理に徹していたコナンを見た。
『どう?できそう?』
「いや、まだ。でもこれくらいならもう少しすれば解除できるよ」
『おお、さすが高校生探偵、工藤新一』
「はいはい」
『返事が雑!』
コナンの意識は爆弾から逸れることなく(まあ、当然と言っちゃあ当然だが)、今の彼の表情は"江戸川コナン"ではなく"工藤新一"だった。
『(……よくもまあ、やるモンだ)』
爆弾処理何て一歩間違えれば、この会場にいる人たちも自分でさえも死んでしまうと言うのに。
…コイツは自分の危険を顧みない性質(たち)なんだろうな。まあ、爆弾を目の前に椅子に腰かけて見ているだけのあたしに比べたらよっぽどマシなのだろうけど。
「あげは!」
『、おお、銀時。と小太郎と晋助も』
「俺らはついでかよ。なあ、ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ。そっちの様子はどうだ?」
扉を開けて入って来たのは銀時、小太郎、晋助だった。
三人の話によると会場にいる爆弾魔の一人は辰馬が相手取っているらしい。そして辰馬に任せて会場を出た三人は残りの爆弾処理班として動くことになっているようだ。
『こっちは今コナンがやってくれてる』
「おお、さすが高校生探偵、工藤新一」
「(…この人あげはさんと全く同じこと言ってるよ)」
感嘆を漏らすように呟いた銀時にコナンはそんな風に思っていたのだとか。
「とりあえずそのガキが爆弾を一つ処理してんのなら、残りは三つか」
くつくつと笑う晋助のその言葉にコナンがムッとした表情を浮かべたのをあたしは見逃さなかった。
晋助は本来の工藤新一と同い年な上、そのことを知っているのだからガキ扱いするなということだろう。
こんな状況でさえも愉しそうな晋助とは対照に、小太郎は難しい顔をして口を開いた。
「そうだな…。だがそれらがどこにあるかが問題だ。いつ爆発するやもしれんというのに、この建物をしらみつぶしに調べていくのはちとリスクが高いだろう」
「それなら僕がわかるかもしれないよ」
そう答えたのは今まで爆弾と向き合っていたコナンだった。
「え、コナン、それマジ?」
『てか、その爆弾はもういいの?』
「マジマジ。これはあともうちょい。…ねえ、坂田さん。この建物全体の地図とか持ってない?」
「あー…ねぇな。高杉は?」
「持ってるわけねェだろ。ヅラは?」
「ヅラじゃない桂だ。ないな。あげはは?」
『ない』
「あ、持ってた」
『「「持ってんのかよ!」」』
「(何だこのコント…)」
最終的に小太郎のポケットから出てきたこの会場全体の見取り図を床の上に広げる。
その際にコナンは何故だが呆れた目をしてこちらを見ていたが。
『…で、わかりそう?爆弾のある場所は』
「うん…あくまで憶測だけどね」
そう言ってコナンは三か所を指さす。
その場所を特定した理由は人目に付きにくいとか、人がたくさん集まる場所の近くだとか、そんなところ。あたしから見てもそこが妥当だと感じた。
「…なるほどな。サンキュ、コナン」
「この場所へは俺達が行こう」
銀時たちはお互いに顔を合わせ、立ち上がった。
「あげは、お前はコナンについてろ」
『ん、了解』
「ヘマすんなよ?」
『わかってるっての。アンタらもね』
始終愉快そうな晋助に徐に笑って返せば、彼らはあたしと同じようにニヤリと笑った。
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