自己紹介にも一苦労 「それが…お布団はあったんですが、部屋はもう空いていなくて…」 「そうか、ご苦労だった。それなら高杉には桂と同じ部屋に…<ガチャンッ>…ん?」 土方さんがそう言った時だった。小太郎と晋助は刀を、あたしは空になった湯呑を畳に落とした。 視線があたしたちに向けられる。 「どうしたあげは。湯呑を落とすと危ないだろう」 「ねえ、桂さんと高杉さんが固まってるんだけど」 湯呑を拾ってくれる一君。二人の様子に首を傾げる総司。 『ありがと、一君。あー…それと土方さん、あの二人は同じ部屋じゃない方がいいかも』 「なんでだ?」 『あいつら、昔っから一緒にいるくせに喧嘩ばっかりするんだよね』 人のこと言えないけど、と付け加えて、二人の方を見た。そうすれば案の定部屋のことでもめてる小太郎と晋助。 「なんで貴様と同じ部屋で寝なければいかんのだ」 「それはこっちのセリフだ。テメェなんかと同じ部屋になんぞ入るか!」 ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人。 あいつら子供か…、と土方さんの呟きが耳に入った。しかしそれもほんの一時。小太郎が突然何か思いついたように手を打った。 「ならば貴様があげはの部屋に行けばいいではないか」 「あ?なんで俺が一人部屋じゃねェんだよ。ヅラが行け」 「ヅラじゃない桂だ」 『どっちでもいいから早く決めてくんない?』 「イヤイヤイヤ!!おかしいだろ!!」 あたしたちの間に入って来たのは平助だった。 何をそんなに慌ててるんだ…? 『どうしたよ、ちびっこ』 「平助な!…いや、どうしたじゃなくておかしいだろって!!」 『だから何が?』 心底わからないという意味を込めて、言葉を発する。それは二人も同じようだ。 「だーかーらっ!男女が同じ部屋ってダメだろ!!」 「心配するな、俺達は気にしない」 「本人たちがいいって言ってんだ。口出しすんじゃねェよ」 でもよー…、と渋る平助。そんな彼を見てたら肩をたたかれた。振り返ると総司が隣に座っていた。 『どうしたの?総司』 「あげはちゃんはあの二人と同じ部屋でいいわけ?」 『え、うんまあ。昔から皆で寝てたりしてたし』 「じゃあ僕の部屋に来てよ」 『おっと、どうしてそうなった』 総司の発言に内心驚く。確かに男には慣れてるとはいえ、総司と二人だとそれはまずい気がする。なんかいろんな意味で!! 「あのな、あげは。お前も女なんだからそういうことはちゃんと断らなきゃダメだ」 『う…左之さんまで』 総司に続き左之さんまであたしの方に来た。二人に言われてしまえば躊躇いも出てくる。 『でも、あの二人が同じ部屋になると間違いなく屯所が半壊しそうだしなー』 「どんだけ仲悪いんだあいつら」 土方さん、呆れるのもわかるよ。あたしもそう思うもん。 でもそれならいよいよどうしようか。 そんなあたしに声をかけたのは千鶴だった。 「それならあげはさん、私の部屋に来ますか?」 『え、いいの!?』 「はい!私もあげはさんとなら嬉しいです!!」 笑顔の千鶴にクラッときた。千鶴と同部屋ならあたしも大歓迎だ。 許可を求めるべく土方さんの方を見た。 「千鶴がいいならそれで構わないが…」 『やった!!』 副長さんのお許しが出たので、これからよろしくね、と笑えば、千鶴も笑った。 こうして部屋決め騒動は終結したのだった。 (あんたらも文句はないよね?) ((こいつと一緒じゃなければいい)) (…本当仲悪いんだな、二人とも) [back]
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