伏木蔵と云ふ少年/鶴町

それまで足しげく保健室へ通っていた、包帯と嘘で身を包む男が音信不通となって一月、少年は何事もなく日常を過ごしていた。

数ヶ月目になり、どうしたんだろうと漠然とは考えれども、半年が過ぎるころには名を口にすることすらなくなった。

学園で過ごす初めての冬、件の男は戦で殉死したらしいと、頬を忍らしからぬ涙で濡らした委員長から聞くが、少年は薬草を煎じる手を休めることなく、ああ、そうだったんだと独りごちるだけだった。

三年生になり、長屋を移動するため荷物整理をしていたとき、級友の下坂部は懐かしいギニョールが屑籠に入っていることに気付く。何かが違う、と思うけれどそれが何か判然としなかったため、結局何も言わなかった。彼はいつも誤解と失言、それに伴う何らかの損失を恐れていた。屑籠を抱えた伏木蔵が焼却所の方へ歩いて行くのを、図書室から二ノ坪は見ていた。




忍術学園を去る六年目の桜の季節、少年の荷物は風呂敷一枚で間に合うほどの量しかなかった。

そのわずかばかりの荷物のなかには、半分ほど燃え跡の残る、煤けて古びたギニョールが含まれていたのだが、そのことを知るものは少年を除いて誰もいない。


付け加えるならば、少年が三年生になって間もないころ負った、左手の火傷の由縁を知るものもまたいない。



そうして、華やぐ春、伏木蔵と云ふ少年は、少年から忍へとなったのであった。



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