「……え?」
「素晴らしい被写体だろう?」
絶句した。手に持っていたカメラを支えていられなくなり、十数万が落下する。首にかけていたストラップにぶらさがってカメラは壊れなかったが、確実に自分の心が歪んだ気がした。目の前には縛り付けられてM字開脚している泣き顔の女性。ああ、ワシは彼女を知っている。彼女の名前は――







「舞雷」
「あっ、おい三成……はぁ…」
別に趣味というわけではないが良いカメラを買った。まだ家の中や忠勝、近所の景色や道端の花くらいしかカメラに収めていないから、自慢がてら三成でも写してやるかと声を掛けたのだが。昔から何かとワシを避ける三成は、また最近出来た彼女の方にふいっと流れて行ってしまった。
「仕方ない…また被写体になってくれ、忠勝」
「……!」
自分から頼んでおいてなんだが、あまり忠勝は写しがいが無いんだよなぁ。
「貴様、そんなものまで本多しか相手をしてくれる人間がいないのか」
「!み、三成?!」
考えうる様々なポーズをとってくれる忠勝を適当に写していると、いつの間にか恋人の元から三成が戻って来た。確かに避けられることの方が多いが、機嫌によってはこうして寄って来てくれることもある。…稀に。
髪で見えないが三成は確実に憐れんで眉を寄せていることだろう。慌てて手を振り忠勝を先に帰らせて、この珍しいチャンスに縋った。今まで三成にカメラを向けたことなんてないが、実はポーズはちゃんと決めるタイプだったりしたら面白いじゃないか!
「三成、被写体になってくれ!!」
「断る」
ポーズを決めるタイプ以前の問題だった。無駄にわくわくしていたのに瞬時に消火されて肩が落ちる。見るからにガッカリしたワシを見て、三成はしばし考えた。何を考えたかなどその瞬間は判らなかったが、どうやら心は穏やかな様子で三成は口を開いた。
「午後、私の家に来い。最高に美しい被写体を用意しておく」







―――そして今が午後。
口では断るとか言いながら、身なりを整えて自分がやっぱり決めポーズをとるんだろうなどと思っていた自分を呪い殺してやりたくなる。
何度目を擦っても目の前には全裸でМ字開脚した女性…三成の恋人、舞雷。しかもこれは同意の上のことじゃないのは明らかだった。
泣きはらした顔をして、縛られた四肢を揺らして逃げようとする。傍らに立って平然としている三成は、ワシの登場で抵抗を強めたらしい彼女の頬に一撃くれて、つい「やめろ!」と叫んだこちらを強い視線で睨んだ。
「い、一体…何だっていうんだ…?」
聞きたいことが多すぎる、否定したいこともたくさんだ。
舞雷は殴られた衝撃で鼻血を出した。つぅっと赤い筋が唇に到達し、小さく呻き声を上げている。……この場合ワシは何から責めていけばいいんだ?三成をどう叱るべきなんだ?殴ったことを咎めるよりも、まずは…ああ、混乱してきた……。
「…貴様は被写体を探していたんだろう?私が厚意で最高の被写体を提供してやっているというのに、不満か」
「被写体…って…彼女のことか…?」
「他に誰がいる」
昔からだが、三成の家には驚くほど物がない。だから誤魔化して「そこの電気スタンドいいじゃないか」と持っていくようなことも出来ない。本当にここには被写体らしい被写体は、この卑猥な格好の女性一人だった。
「ッ、三成、その人はお前の恋人なんじゃなかったのか?」
「そうだ。舞雷は私の女だ」
「嫌がっているじゃないか、そんな酷いことをしてやるな!」
「……酷い?」
「そんな格好をさせて、挙句殴りつけるなんて非道だろう!」
ようやく三成に責をぶつけることが出来た。しかし三成はいかにも「何が悪い」と言った風に表情を崩さない。
「家康。私はこれ以上に美しい被写体を想像出来ない」
「…っ、何…?」
「この世に舞雷以上に美しいものがあるのか?舞雷の妖艶な姿こそが、最高の被写体だ」
「………三成…お前、」
「さあ写せ。私が許す」
許すったって、お前。
続ける言葉を失って立ち止まっていれば、三成はワシから目を離して舞雷に跨る。キスしているんだろうことは判った。苦しげな女のくぐもった声と喘ぐような呼吸、そしてじゅぶじゅぶ唾液を吸い上げる音が部屋中に響いていた。
「……おい、家康、美しいだろう」
「…え、あ…?」
「濡れてひくつく舞雷の膣」
淡々と、しかし熱を籠めたような声だ。今まで何だかんだと友人を続けてきたが、その長い歳月でさえ一度も耳にしたことがない声だった。
つい流されて三成の指さす"そこ"に目をやると、激しいキスの所為かぬらりと濡れて光を吸い込む性器がある。
つい目を奪われていれば、三成が唐突にそこへ指を突き入れた。男の節だった指がぐぶぐぶ沈んで、ぐちぐち鳴って、あんあん言った。
「……ま、待て待て待て、三成何を…っ、何をしてるんだ?!」
「…セックス」
午前中に見たままだった服装の三成が、シャツを脱ぎすて性器を出したところで我に返った。さっきまで指が出入りしていたと思った場所に三成が突き入れる。つい立ち位置を変えて見やすい所へ動いた自分を殴りたい。
「縛ったり殴ったり…セックスしたり、一体何のつもりだ?!」
「だから…被写体の提供だと、言っている…っく、」
「ワシはエロ写真撮りたいなんて一言も言ってないぞ!!いやその前にお前ら普通の恋人同士か?!三成が無理やりしているようにしか見えん!」
「聞きわけが良くないとつい手が出るが、それだけだっ…、問題は…」
「その言葉で済ませていい問題じゃないだろ!」
あれ?ワシ正しい?今これを責めて、OKなの?
その間にも三成は舞雷に腰を打ち付けている。あんなに余裕なさげに表情を崩している三成も珍しいな…などと思いながら、舞雷の悩ましい嬌声と結合音が頭の中で暴れていた。


*写真撮影会