「どのくらいの頻度でマスターベーションをしているか……て、え…?」
「どうしました?」
最近身体がだるいので病院に足を運んだ。いつもは風邪気味でも市販の薬や休息で満足しているが、ここ数年医者にかかっていない。たまにはちゃんと診断してもらおうと気まぐれで初診にかかった先で、症状のチェックシートのようなものの記入を促された舞雷は、一項目めにしてペンを止めた。
「…あの、普通こういうのって…既往症とか、今日此処へ来た理由を書くんじゃないんですか…?」
「マスターベーションの意味が判らないというなら教えますが」
「………いや、その……」
「…ああ、週と考えてください。一週間にどの程度するか」
「これ答えないといけませんか?」
「嘘は許せない」
舞雷が記憶している限りのチェックシートとは全く違う。そもそもこういうものは待合室で書き終えるのが大概である。もう完全に個室になっているし、診室には舞雷と医者の若い男しかいない(というのも珍しかった。普通、助士がうろうろするものだし、後方に部屋が繋がっているのが大概だ)。
いくらなんでも訝しいのと恥が勝り、ペンを止めたまま医師を伺う。大方の医者に言える傲岸な態度は共通しているが、見れば見るほどこの医師は若い。まだ三十にも到達していないような青年である。髪は銀色、姿勢も悪いが、しかし頼りなさげではない。淡々と事務的に、真剣な表情で舞雷がチェックシートを記入するのを待っている。
「此処一月の平均で記入を」
「………」
今すぐにでも逃げてしまいたかったが、ただ座っているだけの若い医師は、何故かそうさせない威圧感があった。
「――ッ…」
およそ舞雷の予想がつかないところで必要な情報なのだろうと無理やり自分を納得させ、真っ赤になった顔を俯かせながら答えを殴り書く。
「…では次」
「……へっ…?」
渋々次の質問を読んだ瞬間マヌケな声が口から飛び出た。
「(マスターベーションの方法について。膣内とクリトリスのどちらを刺激してオーガズムを得るか)……?!」
「……ゆっくりでいいですよ」
「、え!?」
「後の患者はもういない」
夢でも見ているのかと震える舞雷を、若い医師は口角を吊り上げて見下ろした。









「これ絶対違う、違うっ…」
「ああ、今頃気づいたのか?性病の検査でもあるまいし…たかが風邪の初期症状で下世話な質問などするか」
「う、うぅ……」
「微熱があるからな。その所為で騙されたことにしておいてやる」
簡単な診察をするのに設えてあったベッド上で、マスターベーションをしてみせろという項目がチェックシートの5問目だった。結局同じような卑猥な質問に答え続け、ベッドの上に乗るまで彼女は半信半疑で、これがこの若い医師…石田三成の思惑だったと気づきもしなかった。
怪訝そうにはしたものの、自ら服を脱いで見せたことを自覚して、舞雷は羞恥で死にそうになる。気づけばベッド上ではしたなく開脚している彼女の身体はベッドのパイプに繋がれて、姿勢を正すことも出来ない状態だった。
「どういうことなんですか…っ」
「…お前が私の好みだったから、普通に診察するのをやめた。それだけだ」
「かぜ、風邪の薬だけください…」
「……熱が上がってきたな。安心しろ、一度自慰を見せてくれたら普通に薬を出してやる。あと、その症状はただの風邪だ」
「じ、自慰って……」
「さっきまでするつもりだったんだろう?出来る筈だ」
「う、う…ぅ」
羞恥の熱も当然あったが、同時に風邪の熱も上がる。舞雷はけだるさに襲われて、この状況をうまく理解できなくなっていた。
早く終わらせて薬を貰って帰ろう。程度に考えた舞雷は、ぼんやりしながら自由だった右手をそっと己の下腹部に運ぶ。明るい場所で露になっている性器の入り口を指で撫で、その様をベッドに寄りかかる三成が静かに見ている。
「……あれ…?」
「ん?濡れているのが不思議なのか」
「…んぅ……?」
「見られて濡れたんだろう、淫乱」
「………」
熱がなければあまりの羞恥で涙くらい流す状況だが、もう舞雷は眠ってしまいたくて仕方ない。いつの間にか濡れていた己の膣の反応を不思議に思いつつ、しかし深く考えるまで脳は元気でなくて、溢れてきた精液を指で舐って肉壁に指を沈める。
人払いがすんでいるのか、病院内はとても静かだった。まして個室ではなおさらである。熱に追随して襲ってくる頭痛に苦しみながら彼女が指をぐにぐに動かすと、倣ってぢゅぶりと音がした。
「……はっ…」
「道具…は、使わないんだったな」
「あっぅ…」
「単に持っていないだけだろう?」
「……んぅー…」
「それで達せるのか?」
「……ん…?」
快楽があるわけではない。濡れているのもあまり彼女の自覚している範疇ではなく、どんどん上がっていく風邪の熱の方に落ちていく。
その様を見てつまらないのは三成だった。病人なのはわかっているが、せっかく此処まで持ち込んだ可愛い女のそそる痴態を見ずに終えるなど阿呆だ。
「強請ってみろ、舞雷」
「……え…?」
「お前が欲しいと言えば、そのもどかしい指をどかして私が快楽をくれてやる。舌でも指でも…ペニスでもいい」
「………」
とんでもないことを提案されている、と漠然と感じはしたが、もう荒く息をつくのが彼女の精一杯だったのだ。
「ど、でもい……」
「欲しいと言え」
「…ほし……」
「何が」
「………え、ぅ…?そ、それ…」
舞雷は促されるまま、己の精液で濡れた指をそろそろと男の股間に導いた。ああ、しまった。なんとなくそう思ったがもう遅い。少し硬めのベッドと壁に寄りかかり熱に抗うだけの彼女に、満足そうな男が覆いかぶさる。
「…生でいいだろう?舞雷…」
「……んぅ…」
彼女はコクンと頷いた。


*強制自慰