本来、そこまで軽い女ではないと舞雷は自覚していた。だが現に彼女は見知らぬ男の部屋にいた。 公園でコーヒーの缶を受け取った後、全く誘う様子のなかった男を相手に、彼女の方から車に乗せてくれと頼んだ。此処で初めて男の顔を見上げた舞雷は、公園のぼんやりしたライトに浮かぶ男の隻眼に気づく。髪は明るい色だった。まじめで堅実そうな――とは言いがたい容姿をしていたが、不思議と嫌悪はなかった。彼女の中では少なからずあったのだ、毛利が今頃女と寝ているというのなら、自分だってこのチャンスを逃すものか、と。 「……私…何してるんだろ…」 シャワーを借りながら舞雷は少し冷静になる。冷えきった身体が温水で温められる。ほっとしたと同時、罪悪に似た心地悪さが胸をざわめかせ、目頭を押さえた。自分のしようとしていることはただのあてつけだ。くだらないということは承知している。それでも止ろうとは思えなかった。 自暴自棄に陥っているようなものだったが、舞雷は風呂を出、用意されていた男ものの大きな服をかぶると、濡れた髪もそのままに男に向かって走り出す。ぎょっとして片目を開いた男の胸に飛び込んで、頭の中で「だめだ、やめろ」と命じながら唇を寄せた。 「っ、おいおい……」 「お願い抱いて…ね…?」 「……後悔、しねぇだろうなァ…」 「いいの…!」 公園の時点で、同棲中の恋人に追い出されたと舞雷から聞いていた男は、睨むように彼女に問うた。彼女の起こした行為がどういう思いで引き起こされたことかは男にはわかっていた。しかし、綺麗事を言って拒む程のお優しい人間じゃあない。執拗に、すがるように寄ってくる唇をかわすことなく、寧ろ貪るように舌を絡めた。 「いくら服がねぇったってよゥ、シャツ一枚でこの俺を誘惑するたァ…」 「あっ、ん…だって…っ」 「ジャージの下置いてあっただろうが。ついでに上も」 「んっ、」 「…いいけどよ」 貸してやった自分のだぼだぼのシャツを捲し上げれば、ほぼ裸体だ。男は曝された舞雷の乳房と、キスだけでややも濡れる膣を前に舌なめずりした。尚も求めるように舞雷の手は伸びてくる。導かれるように服は脱がされ、いつの間にか引っ張り出されたペニスは早くも半勃ち。白くしなやかな手が誘うように擦っていく。 そのまま彼女を持ち上げてベッドに倒す。髪が濡れたままだったが、そんなことはお互いに気にしなかった。舞雷は罪悪感を拭うようにひたすら淫乱に、男はそれを受け入れてやるだけだ。柔らかく吸い付くような肌は触って心地良かった。身体のラインを確かめるように男の手が這っていく。舞雷は腕を伸ばして陰茎を扱く。それに飽き足らず自ら身体を起こして口を開けた。 「随分積極的だなァ、お嬢さんよ」 「はっ、…イヤ…?舐めるの気持ちよくない…?」 「そうじゃねぇよ、すげぇイイ」 「ん…」 「フェラがどうのってんじゃなくてよ、セックスに関してを言ってんのよ」 「……いいでしょ…?」 「…ああ、俺はな」 「…………」 アンタみたいな好みの女が淫乱なんて素晴らしい、と男は笑った。舞雷には「俺は」の意味が引っかかったが、考えるのをやめた。もう完全に勃起していた巨根を前に、感じさせようと舌を動かすだけだ。ちゅぶちゅぶ吸っていれば男はそれ以上を言わなくなり、腕を伸ばして舞雷の膣を弄る。濡れそぼった膣は難なく男の指を数本吸い込んだ。 「はっぁ…」 「挿れてやっから」 ぐ、と肩を押されて口を離す。促されるままにベッドに寝転がり股を開けば、男のペニスがぐにゅりと膣に浸入してきた。頭を突き抜けるような快感に舞雷は顔を歪ませる。シーツを掴んで、ギシギシ揺さぶられる身体を支えるように力を篭めて、陶酔するように自分を見下ろす男と視線を絡めた。 「っ、く、あんた…っ」 「あっあ、あ、」 「すげぇイイじゃねぇの…っ、絡み付いてたまんねッ…!」 「はっんぅ、あなた、だって…!」 「良かったぜ、声かけて…」 「ああっ、!」 本当にこんなことしたいから声かけたんじゃないんだぜ、と耳元に熱っぽく吐いて、男はより激しく腰を進めた。 舞雷は頭の中を真っ白にして、ただ快感だけを求めて喘いだ。忘れたかった。逃げたかった。自分の恋人も同じ事をしていると思えば、頭の中を真っ白にしたままにできる。だから最奥に男が精液を吐き出しても、すがってキスを求める位は出来てしまった。
*抱かれた腕
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