ジー。

重たい瞼を薄く開けたところで、まず耳に微細な機械音が届いた。悲しいことに我が部屋には高度な機械の類いは一切ない。そういえば…と目覚めていた時の最後の記憶を掘り起こそうとしたが、何かがもやのように邪魔をして、何も思い出せなかった。

ギシ。

不思議なことに、先の機械音より遥かに大きい、何かが――そう、これはベッドのスプリングだ――軋む音を遅れて拾う。それは一定のリズムで激しく鳴り続けた。…私の身体の揺れに合わせて。

ぐちゅ。

ベッド上で何故か揺れている私の意識が、少しずつ覚醒してくる。そこで耳に入ってきたのは、この粘着質で不快な音だ。

私は、この音を拾ったのを皮切りに色々なことを認識しはじめた。
己の身体が揺れているのは何かが尻や裏腿の辺りに衝突している所為だと気づく。だからスプリングが軋んでギシギシいっているのだ。ならば粘着質な水音は?鉛のように重い身体の感覚も段々と鋭敏になってきて………、あ、ああ、この音の元は私だ、衝突してくるのは見知らぬ男で、膣にペ、ペニスを挿れらッ……

「ああっ!!ぅ、やぁあ!」
「…気づいたか。長かったな…どうやら薬が強すぎたらしい」
「ひっいッ、ひうぅッ!なにッあぅぅ」
「可愛いぞ舞雷…お前の中は素晴らしい快楽だ…」
「やああぁッ!」

私は咽び泣いた。夢中で腰を打ち付けるこの男のことは知らない。すぅっと戻ってきてしまった感覚の所為で状況は把握できたが、身体中を襲う痺れにも似た快楽と畏怖の撹拌された感覚を自覚して、死にそうだ。

拉致の挙句強姦。この男は私を知っている。通り魔的なものでないなら計画されているだろう。抗おうにも両腕はベッドに括られている。だからただ泣き喚く。




やだやだとひたすら泣いていた。頭の中が真っ白でそれしか出来なかったのだ。
やがて男が小さく呻いて白濁を吐いた。膣の中に直接出されたが責め立てる勇気も意味もなかった。ぬるりとペニスが出ていく感覚さえ生々しい。

男は私に顔を近づけた。

「愛している、舞雷」
「………!」
「お前は私のものだ。死ぬまで私に添い従え」

ジー。

意識が硬直する。耳に届いたのは最初に聞いたあの機械音。見つめてくる男の視線から逃げて眼球を上に向けたら、その正体が見えた。小さなディスプレイに裸体の私と覆い被さる男の全容が映っている。


*監禁