クラスの中心にいるような明るく活発な――とは遠いが、確かに石田君と毛利君は人気がある部類だった。二人とも明らかな棘を持ち、確実に近寄り難く嫌われ者でもあるのだが、同時にほとんどの女子や一部の男子に色々な意味で慕われている。 つまり、根暗で引っ込み思案な私にとって、二人は雲の上の人に違いなかった。運悪く日直や他当番などが一緒であるとか、誰かに言付けを頼まれでもしない限り口をきくことすらない筈だった。
しかし、気づけば私はその二人に挟まれながら、ほどほどに遠い帰路を歩く羽目になっていた。
「舞雷そなた、どの部の所属だ」 「い、イラストレーション部……です」
すぐ右隣から毛利君が質問を投げてくる。ちなみに当校では美術部とイラストレーション部には大きな差異があり、つまるところ後者はいわゆる『おたくむけ』の部活として有名だった。 もちろん自分はおたくであるし、アニメやゲームが好きだ。部活動に顔を出せば気の合う友人が大勢いて、この上なく楽しい時間を過ごすことができる。だが、この二人を相手にこの趣味を暴露するのはとても心苦しかった。恥ずかしいと思った。当然理解がないと思ったからだ。
「そうだったのか?私はてっきり帰宅部だとばかり思っていた」 「あ、あの…最近は家でゆっくりしたくて、顔を出していないから…」 「……男が出来、部活動どころでなくなったのではないか?」 「えっ!」
残念なことだが、私の趣味に対して少し否定的な反応をする者も少なくない。彼らも当然その類だと思ったが、意外にもすんなり受け入れてくれた様子だった。 それに安堵しながらも、なぜ私を取り囲んでいるのかをずっと疑問に思っていた。酷いストレスだった。それがどうだ、また意外すぎる質問が毛利君の口から飛び出して、私は思わず足を止めた。
恋人なんて……、そう、現実世界に恋人なんている筈ないじゃないか。
二人も足を止めて、絶句する私を黙って見つめていた。二人の双眸は少し威圧的で、答えを急かしていた。
「な、なぜ、そんなことを……?」 「いるのか、いないのか?」 「いっ、いません!いるわけないでしょう、私なんかに、そんな人…っ」
石田君に促され、やっと私が答えると、二人は顔を見合わせてどうしてか睨み合ったように見えた。
「舞雷は私のような男は好かないか?」 「…………は…?」 「我ならばそなたに相応しいが、どうだ」 「………」
もう、夢なんだ。こんなの乙女ゲームの中だけのことだもの。
私は瞼を閉じてこぶしを握り締めた。これが夢でなければ、二人にからかわれていることになる。 夢なら醒めて。からかっているなら私が黙っている間に去って。
「……やはり恋愛ゲームでもあるまいし、脈絡もなく好意を寄せられても舞雷は流されぬな」 「何故だ?私は本意で舞雷を私のものにしたいと思っているが」 「大方、夢か我らの悪ふざけだとでも考えているのだろう」 「夢?悪ふざけ?私は本気で――」 「面倒な奴よ……」
…………。
夢なんでしょ?
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