人手不足という訳ではないと思うのだが、大谷さんに刑部の仕事と思しきことを押し付けられた。内容は、大谷さんが直々に締め上げた間者の類を城下に放り捨てて来いというものだ。

――正直、まっぴらご免である。
職務というより趣味が混じった大谷さんの拷問など…考えたくもない。生きていて解放されるなら吉報ではあるが、どれだけ痛めつけられているかは容易に想像がつく。それを、どうして私が引き連れて捨ててこれるだろう?
気の毒過ぎて放置などとても出来ないし、それ以前に瀕死の人間など恐ろしくて見たくない。

どう考えても私には遂行出来そうになかったが、このまま立ち尽くして解決するものでもない。何よりこうして無駄に時間を食っている間に件の罪人が死にでもしたら後味が悪すぎる。
仕方なく大谷さんに断りを入れるべく宙に浮く輿の姿を探し歩くと、角から急に現れた三成さんの甲冑に軽く跳ね飛ばされた。

「いたっ!」
「何を呆けて歩いている」

半歩ぶんよろけて後退すると、三成さんの方は呆れた様子で、ぶつけた鼻頭を抑える私を見つめていた。

「痛いじゃないですか…大体、呆けてなんていませんよ。普通に歩いてましたもん」
「相変わらずの減らず口が…。私に生意気な口を利く前に謝罪の一つも吐いてみせろ」
「三成さんの方こそ呆けていたんじゃないですか?とりあえずすみませんでした」
「私が呆けていただと?戯言も時を選んで言え。大体、貴様の謝罪には誠意を感じない」
「とにかく、私急いでますから」
「………」
「失礼しますね」

三成さんは噛みつく私を忌々しそうにあしらいながら、しかし無視して立ち去ることをしない。
立ち止まったままだった三成さんを通り越して大谷さんを探しに行こうとしたのだが、彼の真横を通った瞬間、強い衝撃と共によろけた場所まで引き戻されてしまった。

思わず口を半開きに絶句し、自分を引き戻した三成さんを見上げるが、彼の表情から答えは探れなかった。
腕はまだ、三成さんが強く掴んだままだ。側面には壁もあり、正面の三成さんとの距離も近く、どうも圧迫感があり落ち着かない。

「っあの…?」
「急ぎの用とは何だ?」
「はい……?」
「私をかわして率先する程の用件なら、よほどのことだろうな?」
「…………」
「黙していないで答えろ、舞雷」
「……それは…」

仕事を拒否する為に大谷さんを探しに――と答えた所で、三成さんはようやく私の腕を捉えていた手を離した。
彼がそのまま軽く馬鹿にするような表情で吐息を零すと、私は反射的に言い訳を並べた。責を負った罪人の始末は私のする所ではないし、とてもじゃないが嫌で、もたついて死なれるのはもっと嫌だと。すると三成さんは短く「馬鹿か」と吐き捨てて、更に噛みつこうとした私の口を手の平で塞いだ。

「その程度をこなせないなら大人しく女中に混じって掃除でもしていろ。軽々しく刑部の仕事を預かるな。貴様の無能ぶりは私から刑部に言っておく。刑部は多忙だ、煩わせるな」

な、何だと――と噛みついてみせるのは、いくら口が自由でもさすがに出来ないが。そんな酷い言い方はしなくてもいいでしょうとは言える。
が、三成さんが私の口を解放したのは去り際で、素早く遠ざかって行く背にわざわざ抗議するのは気が引けた。

三成さんはいつもこうだ。辛辣な言い方で私を混乱させる。私は、このまま当初の目的を果たしていいのだろうか?多忙故に邪魔をするなと言い含められてしまっては、大谷さんに会いに行くのはいけないことのように思える。
そもそも彼は何処へ向かって行ったのか?彼の背が向かう先は罪人が転がっている牢の方ではないか?だとしたら、報告まで彼がするというなら、私は尚のことどうしたらいいのだろうか。

「……み、三成さん、ちょっと!!」
「何だ舞雷、私はこれから牢と城外と刑部に用がある!瑣末な用なら後にしろ!」
「えっ、あ……私はどうしたら!?」
「貴様のような無能は部屋で寝ていろ!」
「…………いいの…?それで?」

思わず呼び止めた背は軽くこちらを振り向いて怒鳴り返して来たが、裏腹に優しい行動に私は思わず笑ってしまった。


行動で示す