"愛"。
これをどういうものか説明するとしたら?一言で片づけるのは難しいかも知れない。思うことを言葉で纏めるのも難しいかも知れない。けれど、ただ一つ確かに言えることは、彼らが示す総てが、これとかけ離れていることだ。
「……それは、私への見せしめなのですか?」
床で縮こまった私の視界に映るのは、血の滴る生首を持った三成様と、首のない胴を踏みつける元就様だ。
「その人と、口をきいたから。だから、その心優しい人を殺したと?」
三成様は私のこの質問に明らかに腹を立てた。というより、うんざりした。持っていた首を後方に投げ捨て、鈍い落下音に怯える私に詰め寄ると、血生臭い手で私の頬を包む。
「お前が知る世界は一つでいい。他人から優しさを覚える必要もない。これが死んだことで舞雷…それを学んだなら、見せしめだったと言えるだろう」 「……その人が、女でも?」 「女ならば、我らが手を下す必要はないと申すのか」
死体を蹴飛ばしながら元就様が語気強く言う。
「…そなたと関わる者は生ける限り赦さぬ。否…、死して尚、我には辛抱ならぬのよ」
次は元就様が血塗れの刃と共に距離を詰め、三成様の手から私の頬へ移った彼女の血を拭った。
ただ一言を交わす、あるいは一瞬視線を絡めただけで血相を変え、二人はこうなった。殺すか、それ程に痛めつけるかのどちらかだった。
彼らはこうする理由に名をつけるならば"愛"だと言うのだ。 ――"愛"とは?ただ大切に思うこと?互いを尊敬し、互いを慈しみ、支え合うこと? これらのどれかならよかったのに。
「舞雷、私にはお前が泣く理由が判らないのだが……」 「舞雷は単に死体に怯えているだけであろう」 「ああ…そうか。そうだな。今回のことは、あの女から舞雷を誘ったに違いない」 「ならば舞雷を責めるような真似は賢しくなかったな」 「そのようだ」
嗚呼、今度は"何故か"泣く私を慰めるの?その血塗れの手で?
………やめて、やめてと思った。伸びてくる手が優しく私を慰めようとしてくる。血を拭った三成様の手?刃を離した元就様の手?どちらのか判らない、判らないけれど、それが涙に滲んだ視界を奪った。顔中に濡れ広がった涙を拭う手、体を持ち上げる手。腕に抱かれ、頭を撫でる手が現れ、視界を塞ぐ手がいなくなり、涙が顔を横切った。
二人の足が首を蹴飛ばし、私は二人を蹴飛ばした。蹴飛ばした。何度も蹴飛ばした。
逃げられないと判っていても。
逃げられないと判っていても
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