舞雷がふと、「手が痛い」と言い出した。

原因は、少し重い本の束を運ぶ作業をしていた所為だ。本の類を纏めて収納してある部屋から、暇潰しの為に気に入ったものを何冊か自室に運ぶという作業。
欲張って今日一日ではとても読み切らない程手にとってしまったのだが、その中の数冊を棚に戻すか、または分割して運ぶという選択を舞雷はしなかったのである。

「お箸を握るのがちょっとつらい…。本をこうに…、無理して掴んだから?」
「せめて腕に抱けば然程痛くもならなかったろうに。何を思ってそのような持ち方をした?」
「そんなこと聞かれても…わかんないよ、刑部さま…」

握力勝負と言わんばかりに手の平に本を掴んだ理由など無いのだが、大谷は優雅に茶を啜りながら、子供を諭すように舞雷に訊ねている。
しゅんとした舞雷は唇を尖らせて俯いてしまったが、刑部はそれ以上何も言わず、胸中で「可愛いものだ」と癒されていたのだが。

「刑部……」
「……どうした三成…妙に不穏な気を纏っておるな…」

舞雷が可愛くて可愛くて仕方ないのを隠しもしない三成には、これが刑部のイジワルに見えたのだ。

「いかに貴様とて許せんこともある…私の舞雷を泣かせることだ」
「泣かせてなどいるものか。少し頭を働かせれば賢明な判断が出来るものを、何も考えず愚かなことばかりしている舞雷が我には可愛い。いや、ぬしの想いには及ばぬが」
「可愛がっているのか」
「そうよ、可愛い、可愛い」
「……そうか。ならいいんだ」

憤慨した三成を宥めることなど、刑部にとっては容易いことだ。まだしゅんとしている舞雷の頭を数回撫でれば、三成は納得して敵意をしまった。

「舞雷、本の持ち方など反省しなくていい。次に本を運ぶ時は私に声をかけろ。いや、何をするにも私を呼べ」
「うん…。三成優しくて大好き」

ようやく顔を上げた舞雷は、ほわっと柔らかく笑った。
それが可愛くてたまらないのは刑部も同じだったが、表に出さない彼と違って三成は堪え切れない。
がばっ、と彼女を抱擁し撫でてから、三成は舞雷の箸を取った。

「手が痛いのだろう」
「三成が食べさせてくれる?」
「当たり前だ。どれがいい?」
「それ、そのお芋」
「ほら…口を開けろ」
「あー」

ん。

「…見ていて和む光景ではあるのだがなァ、我の前で恥ずかしくはないのか?」
「私は恥ずかしくなどない」
「私も別に…」
「……若い若い…」


おくちあけて