「ぶぇっくしゅん!」 「……!寒いか?舞雷」 「ううん、大丈夫。三成は?」 「私のことは気にするな。それよりお前のことが心配だ。私が何を聞いても大丈夫と答えるだろう、黙って私の上着をその上から羽織れ」 「大丈夫だって言ってるのに…」
こたつ以外の暖房器具が働いていないこの部屋では、どうしても上半身が冷えがちになってしまう。 部屋に響き渡ったくしゃみの所為で心配性に火がついた三成は、この場にいる誰よりも厚着している舞雷の背に、己の上着を脱いで掛けるとようやく満足した。 こうなると、元々厚着してもいない三成の方が見るからに寒そうなので、今度は舞雷が落ちつかない。こたつから出て、掛けてもらったばかりの上着を三成の背に掛け直す。当然文句を言う三成を何とか言い包め、無事二人とも元の格好で定位置に落ち着くと、一拍おいて鼻水をすする音が響いた。
「持っていろ」 「私?大丈夫だって…別に鼻水出てないよ」 「すぐにかめるよう置いておけ」 「三成だって鼻先赤いよ?三成が持ってたら?」 「私はいい」 「……おい、いい加減にしてくれないか…」
今度は床にあったボックスティッシュをどちらの傍に置くかで譲り合いを始めた舞雷と三成を諫めたのは、先のくしゃみと鼻水をすする音の発現元、家康である。
「大体三成…くしゃみも鼻水もワシじゃないか。心配が何故健康体の舞雷に行くんだ?ワシ悲しいぞ…」 「私が貴様を心配すると思っているのか?私が気にかけているのは舞雷だけだ。貴様がそこで高熱を出し卒倒しても、次に万一舞雷が熱を出した場合にしか備えない」 「冷たい奴だな三成…それに、こういう口の攻撃はしてこないがやることは三成と同じだな、舞雷…」 「えっ、そうかな?家康大丈夫?」 「そんな取ってつけた様な心配など嬉しくない…何故寒がってくしゃみをするワシにはどちらも上着を貸してくれず…鼻水をすするワシにティッシュをくれないんだ……」 「ご、ごめんってば…!ほら!」
どうやら風邪気味の様子の家康があまりに打ちひしがれているので、舞雷は大慌てでティッシュを家康に渡す。家康はようやく自分に回って来たティッシュの箱を手繰り寄せ、数枚取って鼻をかんだ。しかし一度ではすっきりせず、もう一度手を伸ばせば、もうその場に無くなっているではないか。
「お、おい、だから…三成?」 「舞雷の手の届くところになければ気が済まん」 「舞雷は鼻水出てないだろう!ワシが食ってたみかんだって全部舞雷の前に持って行くし…」 「あ、ごめん」 「いや私はいらん」 「ワシだって。みかん欲しいのもワシだ舞雷!」 「うわぁごめん!ほんとごめん家康!私ってばつい三成に…」 「ティッシュもみかんも残しておくから…とりあえず分けてくれ…」 「いいよ全部あげる!ティッシュもみかんも取りに行けばまだあるんだから!そ…、そうだ、ブランケット持って来るね!」 「!舞雷私が…」 「いいよ三成寒いでしょ!」
いやお前が…と中腰になった三成を抑え込み、舞雷は家康の為にティッシュのストックとみかんが入った袋、そしてブランケットを持って戻ると、ティッシュを一人ひと箱になるよう渡した。そしてみかんをこたつの中央にばら撒き、広げたブランケットを普通に三成の背中に掛けて満足そうに座った。
「…………」 「あー、寒い…やっぱりちょっと立ったら寒い…!」 「毛布を掛けてやる」 「ありがとう三成」 「気にするな」 「…………」 「…あっ!!」 「もういいぞ…謝ってくれなくても…」
ごめんね、権現
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