地下牢に繋がれた。あれから何日経ったのか全く覚えがない。硬い壁に打ちこまれた金属の鎖が二尺程伸びて私の首と繋がっている。 通気用の穴はあった。しかしそこから注ぐ微弱の光は私の頬の一部も照らしてはくれない。昼でさえ微かな月明かりを頼りに、夜に佇むようだった。
男は、気まぐれにやって来る。
「舞雷……」 「んっ…!」
この薄暗い地下牢で輝く銀糸を揺らしながら、男は私に鼻先をすりつけてくる。首筋に当たる熱い舌がぬるぬると舐めてくる。次いで宛がわれる歯が肉をへこませて、微かに血の匂いが漂ってきた。男はそのまま私の耳へ、頬へ、唇へ、食い破られた首筋から僅かに滲んだ微かな血を、伸ばすように舌先を移行する。
唇は中々離れることがなかった。とり憑かれたように男は私の口唇を貪っている。呼吸ごと奪うような、ことの開始を知らせるこの接吻を何度繰り返したことだろうか。おかげでもう慣れてしまった。今では黙って受け流すことが出来る。そう、これだけは。
「ひっ!」 「……まだ抗うのか?」
男は静かにかつ威圧的に問うてくる。 思わず視線を合わせると、その酷く静かな憤りを感じて背筋が凍る。そう、黙って受け流すことが出来るようになったのは、ただ前戯のひとつに数えられる接吻に関してのみだったのだ。
唇が解放されたとほぼ同時、力強い腕が薄い着物を剥いで行くのも我慢ならない。いつまで経っても恐ろしくて、体を這う手に悲鳴を上げて縮こまるのが常だった。そしてこのことを、男はどうしても許せないのだ。
「ち…、がいます…っ」 「ならば何故震えている?何故私が着物を崩した途端に悲鳴を上げた?」 「っ、寒くて……っ…」 「………」 「…貴方の冷たい手が触れたことに、体が驚きました……」 「……そうか」
私が並べた言葉など誤魔化し以外の何物でもない。しかし男の手は確かに氷のように冷たくて、月日の流れが麻痺しようとも、この地下室が冷えているのは確かでもあった。
男は私の態度を許し、また冷たい手で外気に触れて粟立つ私の肌を撫でる。二の腕をするすると擦り、乳房を手の平で覆う。肉に指が沈むのが視界に映り、羞恥だか嫌悪だか判らない感情が胸を締め付けてくる。
「舞雷。そろそろ温かい服が欲しいと思わないか?」 「え……?」 「ここでは暖もとれない。こんな薄布では凍えて死ぬぞ」
腰に絡みついているだけになった着物を捲し上げながら男は私の耳元へ。 そんなこと問うまでもないことだと思った。思ったが、このまま放置されて凍え死ぬのも良いと思っていた。
返答に困って口を噤んでいると、そんなことは構わず男は手を動かしてくる。唾液で無理やり濡らした膣に指を数本埋めて、私が男を易く受け入れる為に濡らすのを促している。 本当は嫌悪が勝って、強いられる肉体の快楽になど負けない筈だ。しかし濡らさねば辛いのは自分だといつか悟り、目を閉じて嫌悪を殺す。そうやって何とか膣が濡れてくると、男も安堵して唇を寄せてきた。
「大方、凍え死ぬのも良いと考えているんだろう…?」 「ッ!、あんっ、ん!」
読まれてはまずい心の内を暴かれて思考が止まる。その隙を突くように男根がずぶりと埋まって頭の中を裂かれてしまった。互いの口から熱い吐息が零れ、それは塞がり、息苦しく喘ぐ。
「そう易々と私がお前を見殺しにすると思うか?それにここでお前を抱くのは、私にとっても困難になる」 「うっ、う、んくっ…はぁ」 「出してやる、舞雷。ここからお前を、上に出してやる」
体の内部を打ち付けられて脳天までおかしくなって、目の前の男がこうまで異常に私を愛し、求めているのも痛いほど感じて、もうどうでもよくなって、大声で喘いだ。
膣内に大量の精液が注がれる。余韻で朦朧とする意識の中、男が私の首を捉えていた鉄の枷を外す音を聞いた。そのまま体は抱き起こされて宙に浮く。嗚呼、本当にここから出られる。凍えて死ぬのも良かったけれど、どうせ逃げられないのなら地上が良いに決まっている。外はもう夜だ。しかし地下より明るかった。しかし私が空を見上げることはなく、また柵を見る。そこはほんの少しだけ明度が上がり、また死なない程度に温かい場所だった。
*霏々として
|