兵共が「少しでもいいので飯をお食べに…」と煩く言っているのをここのところ何度も耳にするが、当然聞こえないふりをしてきた。あまりにも執拗ならば「いらん」の一言で片付ける。
が、中程で刑部が首を突っ込んでくるようになり、それも同様に跳ねのけていると、終いには舞雷が出て来て、

「今朝は私が飯炊き女になりました」

と、こう言い出した。

「三成様は、味にうるさくない筈」
「何が言いたい、舞雷…」
「私の慣れぬ手料理、味が良くないと言って、途中で箸を置いたりしませんよね?というつもりで言いました」
「………」
「もっと簡潔な解釈をしていただくなら、私の作った飯を食べろということです」

もう少し上品な言い方が出来ないのか、お前は。

私の前に正座して睨むような目をしている舞雷は、敬語ではあるが始終威圧的だった。黙る私の返答を待つまでも無く、合図をするとすぐに膳を持った舞雷の侍女が、そそくさと私の前に支度をして去って行く。
用意されたのは、些か堅そうな白米とよく目にする新香、川魚を焼いたもの(やや焦げている)。それと、見るからに薄い味噌汁。

「人生初めての料理でした」
「そのようだな」
「………私は、三成様が何も食べていないと聞いたから、こうして…らしくもないことをしたんです。この時間は本を読んでいる筈なのに」
「嫌味か」
「いいえ、昨日から続きが気になっていたのに…なんて思ってません」
「嫌味だろうが」
「三成様、つまり私は、貴方の為にがんばって料理しましたということを言いたいわけで」
「お前はいちいち回りくどい」
「さあ、食べてください。がつがつと」

舞雷は元来感情を表に出すことが苦手な女だ。笑顔ひとつ見せないが、これは私が喜んで手をつけるのを期待していることだろう。
正直、食欲は無いのだが。

「舞雷、私は家康を打ち取るまで安寧など得られない」
「何度もききました」
「…腰を落ち着けて飯を食うなど、その気にもなれん」
「つまり?」
「だが食おう」

箸をとると、「つまり?」の時点でしかめっ面をした舞雷の顔が、驚きの色に染まった。

「私の為に骨を折ったお前の厚意を受け取るという意味だ」
「…回りくどい」
「お前の真似だ」

口にすれば大半の人間が半分は残すだろう膳だったが、不思議なこともあるものだ。実に美味かった。